第273話、王都地下にあったモノ
地下水道に入るには、地表にある階段がら下りるわけだが、基本的に頑丈な鉄の扉で閉ざされていて、王国軍の兵士が見張りに立っている。
地下の水道にスライムが湧いているから閉ざされているのだが、その割には大発生している時、どこからともなくスライムが地表に出てくるらしい。つまり、人間が通れないような穴などがそこかしこにあるのだろう。
地下に気になる穴があるから、と地下水道を管理している王国軍に話すと面倒になるのはわかりきっているので、俺たちはこっそりと忍び込むことにした。
かといって兵士に成りすますとか、はたまた王子のコネを使うなどは、地下水道を探る者の存在を教えるだけなので不採用。
特に、アーリィーに関して、現状静観を決め込んでいるエマン王の気を引くのだけは避けたい。王子がなにやら動いている、なんて余計な刺激を与えるのもバカらしい。
ではどうするか?
簡単だ。
青獅子寮地下の秘密通路から一番近くの地下水道まで、ダンジョンコアのテリトリーを伸ばして、そこに転移魔法陣を設置すれば、王国軍がまったく気づかないうちに水道に侵入できるという寸法だ。
ということで、ディーシーさんにご足労を願った。ただ学生たちには彼女を紹介していないから、杖として持って行く格好だが。
……こんなことになるんだったらポータルを置いてくれば早かったな。いや、さすがにポワン兵長ら兵のいるところではできない。
かくて、俺たち翡翠騎士団は、ディーシーの作った転移魔法陣経由で地下水道へ移動。闇の中、照明の魔法で照らしながら徒歩で目的地へ。といってもエアブーツで、加速したから早かったけどな。
しばらく移動して、目的地へ到着。壁一枚を挟んだ向こう側に、例の空洞がある場所がある。
「では」
俺はDCロッドを取り出し、空洞内の走査とダンジョンテリトリー化を開始する。現状、空洞内の情報は皆無。真っ暗闇を手探りで進むというのは趣味ではない。……特に、アーリィーたちを連れている時はね。
走査終了。ダンジョン化完了――
『この辺りは魔力が濃いな』
ディーシーが呟きを魔力念話に乗せた。どうやら空洞内の魔力濃度が濃いらしい。ダンジョンコアは支配領域の魔力を自ら取り込むものだから、DCロッドにもその魔力が還元されるのだ。
とりあえず、魔力濃度はあってもダンジョンコアはないんだな。ダンジョン化ができたということはそういうことだ。他にコアがあれば、それと領域が衝突して存在がわかる。
DCロッドに、空洞内のマップをホログラフ状に表示させる。青白く浮かび上がるそれは――
「街ですの!?」
サキリスが声を上げれば、アーリィーは。
「地下の都市というと、あの地下都市ダンジョンみたいだね」
「エンシェントドラゴンがいたというあの?」
マルカスが目を丸くする。あまり思い出したくなかったな、と思いつつ俺は、マップ表示を見やる。
ヴェリラルド王国王都の地下に広がる、もうひとつの都市。
空洞はドーム上になっている。中央に城と思われる建造物。そのまわりを放射状に建物が並んでいる。
「さながら城下町ですわね」
その街の周りは切り立った崖になっていて、四本の橋が空洞外周に繋がっている。昔、テレビで見たローマの水道橋を思わす無数のアーチが刻まれた大きな橋だ。ちなみに崖と空洞ドームの外周は水が張っている。
「アーリィー、君はこの都市のことは知っていたか?」
ヴェリラルド王国の王子であるアーリィー。もしかしたら、王都地下の秘密の街とか、あるいは伝承やらで多少なりとも知っているのでは、と思ったのだが。
「いや、ボクはまったく知らない」
彼女は首を横に振った。……まったく未知の都市、いや遺跡かもしれないな。そうなると――
「お宝があるかもな」
ベルさんの言葉に、周囲がハッとしたような顔になった。
未開拓の遺跡やダンジョンは、冒険者冥利に尽きるというものだ。俺もわくわくしてきたぞ。
「探索しようと思うが、反対の者はいるか?」
いちおう確認をとる。アーリィー、マルカス、サキリス、そして無口なユナも、反対意見はなかった。スクワイアのブラオは、当然ながら何も言わない。
それでは、始めようか。
俺が、空洞を地下水道の間を遮る壁に向き直る。ユナが口を開いた。
「お師匠。どうやって入りますか? 壁一枚といっても、通常の魔法では開けるのが困難だと思われますが……」
「威力を上げると……地下ですから、わたくしたちも危ないですわね」
サキリスが顎に手をあて考える仕草をとる。マルカスとアーリィーも、壁を恨めしそうに見るが……はて。
俺とベルさんは顔を見合わせる。
「光剣で溶断する」
「闇喰いの魔法で消滅させる」
「壁の石を砂に変換する」
「物理で殴る」
「おいおい、ベルさん、パンチかよ」
俺とベルさんが壁に穴を開ける方法を挙げていく。周囲はついていけずにポカンとしてしまう。
一番簡単なのは――
「DCロッドで『消去』する」
俺がDCロッドを壁に向ければ、テリトリー内の障害物をマスター権限で消した。あまりにあっさりと入り口ができたことに、まわりは絶句する。消すだけなら、例の失敗作である転移の杖でもいいがね。
「さあ、行こうか」
俺は、一歩を踏み出した。
中は意外なことに明かりがあった。魔水晶が、ほのかに輝き光源を提供しているのだ。それはさながら夜空に瞬く星のようでもある。
魔力の濃度が濃かったから、予想の
アーリィーが顔を上げる。
「地下都市ダンジョンにも、こういう光があったけど……ここのほうが綺麗だね」
第二次遠征軍としてオーク軍の拠点にして古代竜の住処だったあのダンジョンには、アーリィーも足を踏み入れている。まあ、広さで言えばあの地下都市ダンジョンの方がかなり大きかったが。
ドーム上の空洞内、その外周にそって下り坂がある。幅は二メートルほど。都市とのあいだに水の張った堀があり、まずは外周に沿って歩き、橋を通って中央の街へ行くことになる。
静かだった。坂を下りながら、都市を眺めれば、動くものの気配はなかった。まるで死の街だな。
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