第270話、トキトモ武具工房


「電撃を流す、だと……っ!?」


 マルカスは、俺が製作したコバルト金属製の盾を持って声を上げた。


 昼食後の青獅子寮。とくに約束はしていなかったのだが、マルカスが青獅子寮の俺を訪ねてきた。王族専用である寮にやってきた彼は、俺専用の魔法工房に通され、俺が自作した盾を見ている、というわけだ。


 ちなみに、一足早く、サキリスもここに来ていて、翡翠騎士団の面々が集合したことになる。


 俺はこの日、二度目になる説明を行った。


「このコバルトシールドには魔石を八つ使っているんだ。……そう、表のそれな。ここから電撃を発生させて盾の表面を覆う。敵が攻撃してきたところを防ぎながら、相手に電撃を流し麻痺させるという攻防一体の防具さ」


 相手が突っ込んできた時のカウンターはもちろん、シールドバッシュでわざと敵に盾をぶつけても痺れ、麻痺などが期待できる。


「電撃はある程度の調整ができるようにしてある。例えば相手を捕まえたい時は弱めに。逆にコウモリなどに襲われた時なんか強めに設定しておけば、盾で守っているだけで魔物が勝手に死んでく」

「……凄い機能だな」


 マルカスは目を丸くして、電撃機能を持つコバルトシールドを見つめる。


「めちゃくちゃ欲しいぞ、この盾……!」


 うん、そう言うと思っていたよ、マルカス君。だから俺は言うのだ。


「作ろうか。君専用のやつ」

「本当か!?」

「ああ、そこにあるのは、もともとアーリィー用で、普段はブラオが携帯するものだから、サイズもそれに合わせてあるからな。マルカスの使いたいサイズを教えてくれれば、それにあわせるよ」

「ありがたい!」


 マルカスは喜んだ。サキリスは、コバルトの盾をしげしげと見つめる。


「電撃を流すはいいですけれど、持っている人間は大丈夫ですの? しびれたりは?」

「裏に、電撃を通さないように魔法文字で加工してある」


 俺は答える。もちろん、持ち主が痺れるような自爆防具なんて作るかよ――あ、ひょっとして、そういうのを期待したりしてる?


 サキリスがそわそわしているように見えるのは、気のせいか。もしかして、自分で電撃具合を確かめてみたいとか、そういうことを考えているとか……いや、さすがにそれは。


『ありうるな』


 ベルさんの魔力念話の声は、俺の想像を読んだかのようだった。ちら、と黒猫は目を向けてきた。


『あとで試してやれ』

『そうしよう』


 俺も魔力念話で返した。そうとは知らないサキリスは、青いコバルト金属製の盾をつついた。 


「これは画期的な盾ですわね。攻撃したほうが逆にダメージを受けるなんて」


 ……お前が言うと、何でも変態気質のせいに聞こえるのは気のせいかねぇ。


「確かに軍で配備すれば――」 


 アーリィーが真面目ぶって言えば、マルカスも同意の声を上げた。


 さて、盾のお披露目はそこまでにして、次の品にいってみよう。


「ちなみに、こんなものを作ってみた。……槍だ」


 作業台に、新作の槍を置く。長さ二メートルほどのショートスピア。それが二本である。一本はコバルト金属を使った穂先を持つのは一目瞭然。そしてもう一本は、鋭く尖りつつ金属とは思えない不思議な穂先をもった槍だった。


「まずは、こちらのコバルトを使った槍から。『フレイムスピア』。穂先下のソケット部分に炎の魔石を仕込んである。敵に突き刺した時に、柄ポール部にある魔石文字の円を押し込むと、炎が噴きだすようになっている」


 ファイア・エンチャントを使わなくても同様の効果が備わっているうえに、刺した標的に高温の炎を噴き出してさらにエグいダメージを与える。


「……まあ、フロストドラゴンみたいな防御の厚い敵用だな」

「素晴らしい武器ですわ!」


 サキリスは槍を手に取るが、すぐに顔をしかめる。


「ですが、そのような武器があるなら、フロストドラゴンを相手にする前に欲しかったですわね……」

「武器に頼ってドラゴン倒した、なんて言われても嬉しくないだろう?」


 自分の実力で霜竜を倒したほうが、圧倒的に自信になるというものだ。ベルさんのデスブリンガーを借りて竜を退治しても、それは剣のおかげだ、なんて言われたら自信もへったくれもない。


「確かにそうですわね……」


 サキリスが神妙に頷けば、アーリィーが聞いた。


「それで、こっちの槍だけど……。気のせいかな、この穂先、どこかで見たような気がするんだけど」

「殿下もそう思われますか。おれもです」


 マルカスが腕を組んで、眉をひそめた。俺は、既視感があるらしい槍を手に取った。


「ビー・スピア。お察しのとおり、キラービー、その大型種の尾についていた針を穂先に使った槍だ」


 針、というレベルではなく、もはや普通に槍の穂先なのだが。


「そっちのフレイムスピア同様の仕掛けを内蔵している」

「ソケット部分に魔石があるな」


 マルカスが覗き込むように言えば、サキリスは聞いた。


「これも何か魔法的な効果を?」

「キラービーの持つ毒系の魔石を固めて作ったやつでね。こいつは炎ではなく、敵の身体に毒を流し込む」


 毒……! 三人が、一瞬引いた。俺はキラービーの針である穂先に触れた。


「魔力を流して稼動状態にしないと毒は出ないようになっている。キラービーはその名のとおり、人間も殺せる毒を持っているから、扱いには注意が必要だからね」


 俺は槍を作業台に戻す。


「というわけで、サキリス。お前は槍を使っていたけど、よければ使うか? 一本……と言わず両方とも欲しければやるが」

「よろしいんですの!?」


 サキリスが目をパチクリさせる。


「フレイムスピアはコバルトを使っているのでしょう……? お高いのではなくて?」

「貴族の娘が金のことを気にするのかよ」


 いいよ、そんなもの。コバルトと言ってももともとオーク軍の武具を加工しただけだし。それにキラービーの針や魔石などの素材は、翡翠騎士団の共有財産だから。


「そういうことでしたら、ありがたく使わせてもらいますわ」


 サキリスは俺に目礼した。うん、と頷いた後、俺は一同を見回した。


「それで、皆に相談なんだが、そこそこ多くコバルト金属があって、さらにフロストドラゴンの素材などがあるんだが……これを使って、何か武器とか防具欲しいってのある? 希望があれば受け付けるよ」


 なければルーガナ領に回すか、売って活動資金に充てるだけだから。

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