第263話、デゼルト、発進！
スクワイア・ゴーレムは、コピー・コアを搭載している。
脚はエアブーツと同等の『浮遊』、『加速』機能を、魔法文字と魔石を組み合わせて搭載。
歩くより、滑るように浮くことで移動スピードを確保。背中のコンテナ材の一枚を、浮遊する板――ホバーボードにして、非常時に荷物や人を運べるようにする機能を追加している。
「名前はブラオと付けさせてもらった。……ブラオ、ご挨拶を」
『はじめまして、皆様。ブラオと申します。どうぞ、よろしくお願い致します』
やや機械じみた調子だが、少年を思わす声で丁寧に挨拶をして、またも一同を驚かせてやった。してやったり！
スクワイア・ゴーレムであるブラオを紹介した俺は、次に、魔法装甲車を一同に見せた。
初見で地獄の猛犬のよう、と言ったのはサキリスだった。地獄の猛犬というと、ドーベルマンじみたシャープなのを俺は連想するんだが、彼女のイメージする地獄の犬は、がっちりした……例えるならブルドッグみたいなのかもしれない。
魔法装甲車は、それまでの魔法車よりひと回り以上大きく、見た目の迫力は段違いだった。側面のハッチから中へ乗り込めば、意外な広さに、皆が驚いていた。
「装備していても余裕で乗れるな」
魔法車の後部座席で狭い思いをしていたマルカスが言った。当然ながら、ユナはこの魔力で動く車により食いついた。
「お師匠、戦車も大きかったですが、これも大きいですね……。ダンジョンコアを組み合わせるゴーレムといい、いったいどういう思考をされているのか」
ふだん無表情のくせに、目だけはキラキラと輝いている。
「一生ついていきます、お師匠」
ついてこなくてもよろしい――俺は思ったが、黙っていた。どうせ何を言っても、しばらくはついてくるんだろう？
「とりあえず、運転するけど、お前らどうする？」
「行く！」
「行きます」
アーリィーとユナが即答した。サキリスとマルカスは顔を見合わせる。
「まあ、もう乗っていることですし」
「だな」
全員行くということで。ベルさんには聞かなかったが、黒猫はもうすでに自分用の席にちゃっかり座っていた。
俺は運転席に乗り込むと、これまたダッシュボードに搭載しているコピーコアにエンジンの始動を命じた。魔力が車内を走る魔力伝達線を伝わり、装甲車に命が宿る。
アーリィーが口を開いた。
「この車に名前はあるのかな？」
「デゼルトって名前になってる」
サファイアのポルトガル語だったかな。うろ覚えだけど。
『周囲に障害物なし』
車外にあるコピーコアの監視の目が報告を寄越す。いちおうミラーをつけてあるが、車体が大きいから、死角に人とか物があったら危ない。安全確認は大事、大事っと。どこで習ったかって？ 教習所だ。
シフトレバーを操作、アクセルペダルを踏み込み、前進。魔法車よりも重量がある分、その加速は重々しく、しかし力強い。感覚としては結構踏み込んでいるつもりだが、ゆっくりに感じる。まあ、スピードについては幾分か落ちるのは仕方がない。……重量操作の魔法を使ったら、このあたりどうなるんだろう、と頭の片隅で思った。
デゼルトは、地下秘密通路を走る。だだっ広い、しかし真っ直ぐ舗装された通路内を順調に進んでいく。等間隔で設置された青い魔石灯の輝きが前から後ろへ流れていくさまを、中からアーリィーたちが見つめる。
「この地下の道は、どこまで続いているのかな？」
「王都の外までさ。王都内でデゼルトは走れないからな」
障害物や余計な曲がり道がないので、王都地下をあっという間に駆け抜ける。
「ナビ、ゲートを開け」
『了解』
短いやりとり。王都外の地下通路の出口が、その仕掛けを働かせて開く。通路の最深部が斜めにせり上がり傾斜を作る。出入り口の天井が開き、青い空、その光が差し込む。
「……！」
正面を見ていたアーリィーやベルさんが目を丸くする。加速するデゼルト。
「大丈夫だとは思うが、一応、掴まって。揺れるかも。ナビ、表の様子だが――」
『出口周辺に生命反応はありません』
「よかった」
俺の言いたいことを先に答えてくれてありがとう。外へ出た途端、誰かを
デゼルトの前輪が傾斜に乗る。スピードを出しているので、そのまま八輪の装甲車は斜めの道を駆け上がる。外から差し込む光を浴びて、魔法装甲車デゼルトは、まるで鯨が波間に突如頭を出すように飛び出したのだった。
・ ・ ・
草原を疾走するデゼルトの姿は、はたから見ればさぞ異様に映ることだろう。
俺は魔法装甲車を実際に走らせて、その挙動を確かめた。ウェントゥス基地ではシェイプシフター兵がさんざん乗り回していたんだけど、俺は初めてなんだよぅ！
右折、左折、加速にブレーキ……。気にすべき違和感はなし。サフィロとの運転感覚の違いはあったから、そのあたりを埋めるべく慣らす。
その後、何もない平地で停車。ゆっくりのんびりしばしの休憩。
後部ハッチと
本日はよく晴れていて、雲が流れていた。日は傾きつつあり、そろそろ西の空が赤くなってくるだろう。
時々、近くで金属同士のぶつかる音がするのは、マルカスとサキリスが武器を使った鍛錬をしているためだろう。……こいつら、真面目だな、ほんと。
「凄いな……」
アーリィーが座布団に背を預け、空を見上げる。
「こうやって、のんびり景色を眺めるっていうのも、貴重だよね……」
「そうかもな」
素晴らしきまったり感。俺は頷くと、ふと物音に視線をやる。デゼルト後部の上面ハッチにユナが顔を覗かせ、上がってきた。その胸もとにはベルさんがいた。
「お師匠。折り入ってご相談があるのですが」
「なんだよ、あらたまって」
「この魔法車という魔法具ですが、お師匠にしか動かせないのでしょうか？」
「ん？ ああ、運転したいのか、ユナ」
コクリ、とユナが頷けば、アーリィーも手を挙げた。
「あ、ボクも！」
魔法に興味を持っているユナはともかく、アーリィーも意外と食いつくんだよね。ヘリの時もそうだった。
「いいだろう。何かの機会で運転することもあるかもしれない」
「やった！」
「ありがとうございます、お師匠」
二人とも嬉しそうだった。
まあ、実際に運転するに当たって、実際の動かし方の他にも交通ルール的なものも覚えてもらうがね。……他に乗用車的なものは走っていないが、馬車や牽引式の乗り物は存在する。信号があるわけでもないが、運転するからには歩行者やその他障害物に注意してもらわなくてはならない。交通事故は悲劇しか生まないから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます