第262話、秘密基地っぽい
ウェントゥス基地で魔法装甲車を作った。
アーリィーだけでなく、ユナをはじめ、サキリスやマルカスと王都の外へ出掛ける機会ができたから、これまでの魔法車では少々手狭だった。だから、これからダンジョンなどへの遠征に出る時は、実地テストを兼ねて使おうと決めた。
そこで、一つ気づいたことがある。
それは、この装甲車を王都で走らせるのが困難であるという事実である。
見た目は
となると、王都を装甲車で突っ走るような緊急事態でもない限りは、基本、王都で走らせられないということになる。
もっとも、無理に王都を装甲車で走ることはない。王都の外まで移動した後、装甲車に乗ればいいのだ。
しかし、王都の外へ出るまで徒歩というのも芸がない。車に慣れ親しんだ社会に生きていた人間としては、家を出たら目的地まで乗り物で済ませたいと思うのだ。
専用通路――例えば、魔法騎士学校の敷地内から、王都外まで一直線に通れる道があれば……どうだ?。
なければ作ればいいのだ。
俺は、ディーシーを呼んで、王都地下に専用通路を作ることにした。
ダンジョンテリトリーによる侵食。王都には旧時代の地下水道が広がっている。王都全体をスキャンついでにダンジョン化……というのは、さすがに範囲が広すぎるし、王都の影の支配者を気取るつもりもないのでやらない。
学校敷地地下から、王都外壁に一番近いのは南門。ではそちらへダンジョンテリトリーを伸ばす。テリトリー化した場所は、ダンジョンマスター権限で、魔力の消費と引き換えに部屋や通路を作りたい放題。
ということで、俺はディーシーの走査結果をもとに、地下水道とぶつからないように秘密通路を作った。
青獅子寮の下を通って、王都外壁を潜る。一応、外壁から見張りに立つ兵が見えない位置まで通路を延ばし、丘陵で影になっている場所に出入り口を設定する。
サイズは当然ながら装甲車が余裕で通れるものに加え、魔人機が通行できるように大きく作った。
「何故だ? 王都に魔人機は置いてないだろう?」
ディーシーに突っ込まれた。
「いや……秘密通路なんだから、ロボットが発進できるようにとか雰囲気があると思わね?」
「そうか?」
ダンジョンコアさんは、いまいちな顔をする。
「ふふ、ロマンってやつだよ、ロマン」
で、肝心の出入り口だが、ふだんから開けておいたら、通りかかった誰かに気づかれてしまうので、
仕掛けとしてはダンジョントラップ――大型の魔力稼動式の落とし穴を応用する。いわゆる踏んだら、落とし穴の口が開くそれを使う。スイッチをオンにしたら出入り口が開くようにするわけだ。動力として魔石を埋め込んだ開閉装置を設置しておく。
あと、これとは別に、ダンジョン範囲内なら転移できる、転移魔法陣を別の出入り口に作っておく。こちらもふだんは擬装魔法で隠しておき、使用する時だけ、魔法陣が稼動する仕組みである。何かあった時のために、複数の手段を用意しておくのだ。
これらの作業を、朝食の30分ほど前までに仕上げておく。開閉装置に手間取ったが、実際、通路を作るのはテリトリーを操作するダンジョンコアに魔力さえ払えば、数分でできる。
ただ、支払う魔力の大きさと、そもそもダンジョンコアを所有する人間がほとんどいないから、こんな工事方法は流行らないだろうがね。……というか、こういう方法はあまり他の人間には知られたくはない。
バレたらコアを狙う輩は、それこそごまんといるだろうし。
何せ、こんな迅速な大規模工事をわずかな時間で行えるなら、その利用価値は計り知れない。戦争の道具コース確定である。くわばら、くわばら……。
細かな仕上げはまた後日するとして、俺は何食わぬ顔で青獅子寮に戻ると、アーリィーとベルさんと朝食をとり、その後、準備して学校へ通学した。
・ ・ ・
放課後、俺たち、学生冒険者パーティーは集合した。
明日から週末だし、学校は連休。どちらかを完全休養日において、もう片方は一日ダンジョン探索というのも悪くない。なので、今日はゆったり体を休めてもらおう。
さて、せっかくの機会なので、一晩で用意したアレやコレらを皆に披露することにした。
青獅子寮へ向かう途中の林の奥に、秘密の抜け道を案内し、そこから地下へと降りる。まず驚いたのはアーリィーである。
「こんなところに地下へ降りる通路があったなんて……」
「王都脱出用の秘密の通路だよ」
俺は、さも適当なことを言いながら先導する。すっかり暗くなる地下道。だが少し進むと急に壁に仕込まれた魔石灯が青く点灯した。この地下秘密通路には、ダンジョンコア『サフィロ』のコピー・コアを設置し、管理させている。規模こそ小さいが、ここもダンジョンということだ。
地下秘密通路、その王都外への直通通路の手前のフロアに到着する。いまは特に物を置いていないので、がらんどうの四角い大部屋である。
「さて、今日まず最初に披露するのは――」
俺は、居並ぶ一同にそれを見せた。高さ一メートルほどの、ひょろりとした胴長の人型ゴーレム。
テラ・フィデリティアの小型作業用メカを参考に、ディーシーがウェントゥス基地で作っていたものである。使えそうだったので、俺がこっちへ持ってきた。
「スクワイアだ」
「従者……! これが!?」
マルカスが目を丸くした。サキリス、アーリィーはもちろん、しっかりついてきていたユナも乏しい表情に目一杯の驚きを露わにして見せた。
「これは、アイアンゴーレムなのですか? それにしては……小さい。でも、精巧な作り……」
ユナの視線は、すでにその小型ゴーレムに釘付けだ。
「たぶん、凄いと思うのですけれど……」
サキリスがなんと形容したらいいかわからない表情を浮かべている。ベルさんは首を傾けつつ、無言でスクワイア・ゴーレムにガン見していた。
「ゴーレムって、もっと大きなものかと思っていたが……これは戦闘用なのか?」
マルカスが疑問を口にすれば、俺は持ってきたストレージから、剣や兜を取り出す。
「いちおう戦闘もできるように作ってはあるが、こいつの主な役目は荷物持ちだよ」
従者の名前のとおり、スクワイアとしてのゴーレムなので、各部位に予備装備を取り付けられるように固定具などをついている。
騎士の完全装備である鎧一式を身に付けて運べて、さらに肩部に盾をそれぞれ一枚ずつ。背中に装備コンテナを搭載してそれらに剣や槍などを詰める。
剣などを背中のコンテナに入れ、兜をゴーレムの頭に被せる。鎧なども装着してやれば、デパートのマネキンよろしく、鎧武者ならぬ騎士っぽい外見を獲得する。
「なるほど……これはつまり――」
「ああ、君たちが重い装備を持って戦場に行く時に付き添う従者だよ」
俺が言えば、マルカスとサキリスは「おお」と声をあげた。さて、驚くのはまだこれからだよ、諸君。
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