第254話、夜襲、熊ん蜂!


 ダンジョン内の掃除が終わったが、本番はこれからだ。


 ここを根城にしていたオーク軍の主力が出払っているのだから、今度はそいつを捕捉する。


 サフィロを搭載した魔法車に乗り、俺たちはオーク軍の捜索活動を開始した。発見するのはさほど難しくなかった。何せ大集団で移動していたからだ。


 オーク軍およそ1500は、砂の平原を北上していた。王都の方向への進軍だ。方向さえ変えなければ、アーリィーたち第二次遠征隊とぶつかるだろう。兵力差は1対3。正面からは圧倒的に不利。


 連中の行動原理を考えると、道中に集落などがあれば襲うだろう。だが、地下都市ダンジョンから王都までの小集落などは、前回の王都での攻防を前に襲撃されて滅んでいたから、真っ直ぐ正面から王国軍と遭遇することになるはずだ。


 そしてオークは腹をすかせている時が一番凶暴だ。腹が減っては戦ができぬというが、人間の肉も喰らうので、むしろ人間の集団と見れば食事の時間と喜び勇んで突っ込んでくる。


 遠征隊に大挙押し寄せ、食糧代わりに兵たちを喰らうオークどもの図。……アーリィーやオリビア、近衛たちが奴らのエサになるとか、考えただけでもゾッとするな。


 日が沈み、オーク軍が平原のど真ん中で陣を組んでキャンプしている様を、遠くから監視する俺とベルさん。眼鏡型魔法具を通さなくても、暗闇に光る松明の明かりが見える。


「さて、どうするよ、ジン?」


 ベルさんは黒猫姿で、魔法車の天井の上に寝そべっていた。


「極大魔法で一掃しちまうか?」


 バニシング・レイか?


「それが一番簡単ではあるが、せっかくだし、アレを試そうと思う」

「ほほう。アレって?」

「戦闘ヘリ」


 最近完成したばかりのTH-1ワスプ汎用ヘリの運用試験にもってこいじゃないかな。


「アーリィーの遠征軍が、オーク軍と戦う前に間引きしよう。――ディーシー。ウェントゥス基地から、ワスプ飛行中隊をこっちへ寄越させてくれ」

「まだ数は揃っていない。戦闘用パッケージで4機しか使えない」

「充分だ。全滅させるわけじゃないから、かるーくやろう」


 俺はウェントゥス基地行きのポータルを展開、ディーシーがいったんあちらへ向かう。ベルさんがそれを見送った後、俺を見た。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫なんじゃない?」


 俺はデンと構える。


「まあ削り足りなきゃ、俺が追加で魔法をぶち込んで減らすからいいさ」


 失敗や不足した場合のケツはこっちで持ってやるよ。


「待たせたな、主」


 ディーシーが戻ってきた。


「ワスプ4機に戦闘装備をさせた。こっちへはポータルか? それなら入り口を広げてくれ」

「あいよ」


 俺はヘリが通れるサイズを余裕をもって形成した。


 さて、ひとつ現代の戦い方をオークどもに教えてやるとしよう。



  ・  ・  ・



シェイプシフターパイロット、ヒンメル君率いるワスプ汎用ヘリは、その独特のローター音を響かせて夜の闇を飛び上がった。


 この鋼鉄の熊ん蜂の飛来は、すぐにオークたちの耳に届き、休んでいた者たちを叩き起こした。


 だが、そんなことはお構いなしにワスプは低空をかすめ飛ぶと、胴体側面のスタブウイングに懸架した爆裂魔法を仕込んだロケット弾を次々に放った。


 無数の松明たいまつが瞬いているキャンプに、無数の爆裂魔法、エクスプロージョンが炸裂した。


 広がる火球に飲み込まれたオークがゴブリンが炭になり、周囲に巻き起こった衝撃波と熱風が、近くにいた蛮族亜人を吹き飛ばして二次被害を与える。


『敵襲――ッ!』


 完全に目がさめたオークたち。キャンプで爆発が複数起これば、何らかの攻撃だと気づく。すでに寝ぼけていた兵たちが慌てて飛び起き、襲撃者を迎え撃とうと武器をとる。


 だが鋼鉄の熊ん蜂は、機首に装備したテラ・フィデリティア式20ミリ機関砲を唸らせた。


 蜂の羽ばたきにも似た鈍い音が連続し、目にも止まらぬ速さで放たれた20ミリ弾が、ゴブリンを血しぶきに変え、オークを鎧ごと真っ二つに引き裂いた。


 たかが20ミリと思うことなかれ。その威力は人体を容易く両断し、ミンチに変える恐るべき凶器だ。


 ゆったりとホバリングしながら、4機のワスプはキャンプの上を飛び回り銃弾の雨を降らせる。天幕は裂け、炎上し、亜人たちの肉片が大地にぶちまけられる。


 恐怖の熊ん蜂が、キャンプを地獄へと変えた。



  ・  ・  ・



「一方的だな……」


 ベルさんが呟いた。


 ワスプ小隊の地上掃射により、オーク軍のキャンプは炎上、大打撃を与えた。


「中々やるじゃないか、ヘリってのも。まあオレ様なら、奴らの陣地に隕石を落とすとかするけどね」

「隕石か。さすが魔王様は考えることが違うね」


 ファンタジー世界のミサイルだなそれは。ただあの大軍を吹き飛ばす大きさや規模を考えると、隕石落とした後の環境被害もでかそうだけど。


 ワスプが翼を翻して戻ってくる。満足げに見やるディーシーをよそに、ベルさんは言った。


「いっそ、ワスプだけで、オークどもを全滅させられたんじゃね?」

「こちらも数があれば、可能だったかもしれないがな、ベルさん。残念ながら、連中は弾切れだ」


 機関砲もロケット弾も撃ち尽くしたのだ。地上の敵に対して圧倒的な火力を発揮した戦闘ヘリではあるが、弾がなくてはどうしようもない。


「初陣としては上々じゃないか?」


 いかんいかん、頬が緩む。想定通りの力を見せてくれたワスプの性能に気が緩みそうになる。


「もともと、遠征軍のためにある程度残しておく予定だったから、こんなもんだろう」


 アーリィーたち遠征隊は、一応、オーク軍と交戦する必要がある。


 俺たちが一掃しちゃったら、エマン王が何を言うかわからない。遠征軍が戦わずに逃げたとか難癖つけられると面倒だから、アーリィーたちにも戦果を持ち帰らせないといけないのだ。

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