第253話、ゲーム世代の戦争


 さて、アーリィーら第二次ダンジョン遠征軍が進軍している頃、俺とベルさんは、その目的地である地下都市ダンジョンにいた。


 ポータルを使って深部フロアへ。


「ほうほう、ここがそのダンジョンの最深部か」


 ディーシーが、古代竜の解体した跡しか残っていないそこを見やる。俺は言った。


「じゃ、テリトリー化しつつ、スキャンしてくれ。ここにどれくらいの敵がいるか知りたい」

「承知した、主よ」


 ダンジョンコアの杖であるディーシーが、その力を開放する。テリトリー侵食を開始するさまは、さながら、盤上の石がすべてひっくり返るような感じだ。


 支配下に治めた地下都市ダンジョン。さっそくその様子を見れば、一度は戻ってきたはずのオーク軍が、また出払っているようだった。


「総勢200といったところだな。かなりバラけているぞ、主」


 これ、ここで始末しちまったほうが早いかな。


 アーリィーたち遠征軍がここに来るのは先だし、ここにダンジョンコアは存在しないから数が劇的に増えることもない。


「なあ、ジン。ちょっと賭けないか?」


 ベルさんが黒猫から、黒騎士の姿になった。


「オレとお前で、どっちがここの敵を多く倒せるか」


 オークたちはこの廃墟都市にバラけているようだし、各個撃破は可能だろうが、割と面倒くさいんだよな。


「悪いな、ベルさん。俺はディーシーの力を借りるから勝負にならないぜ?」

「そうかい。まあ、いいや。ならオレはオレでやらせてもらうぜ!」 


 ベルさんはデスブリンガーを手に先行した。


「まあ、俺はのんびりやらせてもらいましょ」


 攻撃対象は地下都市ダンジョン内の敵性存在。それらをすべて排除する。


「とりあえず、近場はベルさんに任せるとして――」


 ポータルからシェイプシフター兵がやってくる。――おう、ガーズィ。


「オークを掃討だ。行け」


 ディーシーがシェイプシフター兵たちに指示を出した。隊長のガーズィが頷いた。


『了解しました。小隊、前進!』


 ゾロゾロとシェイプシフター兵たちが最深部から出ていった。俺はそれを見送り、ディーシーの表示しているダンジョン周辺のホログラフィック状マップへと視線を戻した。


 さてさて、お仕事である。


 このダンジョンは、ディーシーの支配領域にある。オークどもの位置は手に取るようにわかる。


 テリトリー範囲が支配下であり、マスターである俺の支配下でもある。このテリトリー内には、俺が指定したダンジョン構成物を魔力と引き換えに設置することができる。


 仕掛けたのは転送魔法陣。


 いわゆる、ダンジョン内の任意の場所に飛ばす転送陣だ。基本はダンジョン内での移動や、あるいはトラップとしてダンジョンのどこかに飛ばすという使い方である。ポータルと違って、テリトリー内でしか使えない代物だ。


「では、始めようか。――アイ・ボール爆弾、転送開始」

「中々えげつないな、主」


 ディーシーが苦笑しつつ、魔力を消費してガーディアンモンスターを生成した。単眼の浮遊球体、フローティング・アイこと、アイ・ボールである。目玉の化け物だな。


 これに以前、俺とディーシーでちょっとした改造を施した。


「我ながら非人道的ではあるが――所詮は魔力の塊だからな」


 何せ『爆弾』だからね。


 アイ・ボール爆弾は、次々に近くに設置された転送魔法陣に入り、オークのいる場所の近くにある魔法陣に転送される。


 一つ目の球体は、浮遊しながらそのもてる限りの速度で、ターゲットのオークやゴブリンに突撃を開始した。


 音もなく浮遊するアイ・ボールたち。気づいたオークだが、その得体の知れない魔物の飛来に、警告より先に目を疑った。


『何だ……?』


 驚く亜人たちがそれを見やり、集まってくる。手も足もない球体が浮かんでいれば、より近くで見ようと集まるのも道理だ。


 だが次の瞬間、アイ・ボールは自身を構成する魔力を触媒に爆発魔法――エクスプロージョンを発動させた。


 自爆である。


 某ファンタジーRPGに自爆技を持つ火のモンスターがいたが、要はあれだ。


 解放された爆発により、オークどもが巻き込まれ、あるいは吹き飛んだ。


 ダンジョンの至るところで、自爆による爆炎が上がる。それは俺のいる場所からは見えないが、敵を示す光点は次々に消えていく。


「第二波、転送」


 俺が送り込んだアイ・ボール爆弾は、少数ずつに分かれながら飛来する。そしてそれらも特に抵抗を受けることなく、自爆攻撃を敢行した。


 オークたちも、一つ目の球体という、まったく想定すらしていないものの攻撃に酷く困惑し、とっさに反応できなかった。


 手足のない球体を相手に、文字通り手も足も出ないオークたち。俺が第三波を転送した頃には、さすがに爆発音を感じ取ったヤツが警戒し反撃に出たのもいた。弓矢での投射、斧や槍などで攻撃する。


 が、これらも無駄な抵抗だった。アイ・ボールは次々に接近、多少のダメージなど物ともせず肉薄すると、近接武器で攻撃しようとしたヤツもろとも自爆した。


 これは射程外からの飛び道具、言ってみればミサイルを撃ち込んでいる感覚だな。こちらは敵の認識圏外のはるか彼方にいて、ダンジョンコアの映し出すホログラフ状のマップを見ながら、適当にアイ・ボールミサイルを放り込んでいく。


 無人機を遠隔操作して武器を撃つ。ボタンひとつで敵が死ぬ、そんな戦い方だ。


 これなら全滅もさせられるな。まあ、しないけど。ダンジョンコアも使い方次第では、チート兵器に早変わりだ。


「まるでゲームだな」

「ゲーム?」

 

 ディーシーが首を捻る。俺は苦笑した。


「大昔に、こう実際の戦場をボードゲームに見立てて、兵を動かしたのを思い出した」


 ディーシーも意地の悪い顔になった。


「まるで戦場の魔王だな。主は相当悪い顔をしているぞ」

「それは危ないな……本当に?」


 冗談を言っている間にも、ベルさんとシェイプシフター兵が、近場の敵をどんどん排除していった。


 かくて、ダンジョンから、蛮族亜人はいなくなったのだった。

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