第231話、初操縦と試行錯誤


 試作ヘリ1号は、一応成功した。


 テストパイロット君の証言で細かな改良点などが見つかり、俺たちが運用していく上でのノウハウを獲得できた。


 何度かテスト飛行したおかげでシェイプシフターパイロット君のヘリ操縦スキルは上昇していった。それは他のシェイプシフターに伝わり、彼同様の操縦技術を獲得した。


 航空機同様、試作ヘリに載せたコピーコアのおかげで、オートパイロット機能も向上。これは無人ヘリ、いやドローンもできるな。


 ある程度の安全性を確認した頃、俺もさすがに自分の手で操りたいという欲求をこらえられなくなってきた。アーリィーも興味津々であり、シェイプシフター君の実機の操縦経験を聞いて、ようやく俺の初飛行とあいなった。

 墜落した時の保護用に防御魔法具を身に付けてだ。安全対策は必要だ。


 高いなあ! まあ、予想した通り風が当たる。魔法で風圧調整している上に、バイザー付きヘルメットを被ってはいたが、さすがにコクピットを覆うキャノピーが欲しいな。コクピット剥き出しだから、足の先は地面が見えているんだよね。こいつは高所恐怖症の人間なら卒倒ものだな。


 外から見るのと、実際に動かすのとはやはり感覚が違う。シェイプシフター君が、初飛行でもたもた操縦していたのもわかる。風や抵抗を受けながら、ホバリングするのは結構大変だし。


 つーか、操縦桿とレバー、そしてペダル操作で忙しい。車などと違って、全部をほぼ同時に操らなくてはいけない。何がシンプルな操作方法だ。空中制御している間に、機体は思いのほか移動しているし!


 搭載したコピーコアが操縦を学習していたおかげで、大きなヘマはしなかったが、俺個人としては不満の残る初飛行となった。


 もう降りるときは地面近くで浮遊魔法の機能を使って、そのまま着陸したし。ちゃんとモノにするには練習が必要だ。


「ボクも乗りたい!」

「私も、ぜひに」


 アーリィーとユナは挙手した。俺が乗っているのを見て、自分もヘリコプターを操縦したいようだった。


「改良した二号機を作るから、少し待って」



  ・  ・  ・



 平日はアクティス騎士学校に通い、アーリィーと一緒にお勉強。


 なのだが、真面目に勉強を受ける気などさらさらない俺は、授業内容記録用のノートにエンジンのことやら、正式版ヘリコプターの図などを描いたりして過ごしていた。


 訓練用などは実機を飛ばしているが、そろそろ本来の目的であるウェントゥス軍用の汎用ヘリを作り、配備を進めておきたい。


 テラ・フィデリティアの兵器群の中に、実はヘリコプターは存在していない。じゃああの訓練用の簡易ヘリは何だと確認したら、博物館の古代資料というお返事。……いちおう機械文明もヘリコプターはあったわけだ。


 航空機同様、ウェントゥスナイズされたヘリコプターを設計するのである。


 相変わらず俺とアーリィーの席は教室最後尾にして最上段だから、俺が描いているものについて見ることができるのはアーリィーくらいなものだ。


 講義の際、教卓位置から動かない教官たちには、俺が熱心にメモをとっているように見えるのだろう。


 講義の後、担任のラソン教官から――


「どうだね、ジン君。来年、正式に教官になるというのは?」


 などと言われた。ユナが俺に高等魔法科の授業を押しつけたということは、学校では知らない者がいない事実となっていた。


 先の魔獣群の攻撃による王都防衛戦での、俺の活躍が学校側にもある程度伝わった影響もあるかもしれない。


「今度は教官向けに魔法講習をやってもらえないかね?」

「……あー、考えておきます」


 何か、連合国にいた頃を思い出すな。あの頃は戦争真っ只中だったから前線にいる頃は気にならないが、一度後方に下がると、この手の依頼や頼みごとに多くさらされた。……だからさ、英雄なんてなるものじゃないんだよ。


「ところでジン君、ひとつ気になっていたんだが」


 ラソン教官は、アーリィーを見る。


「アーリィー様は何をしているのかな?」

「撮影です。新しい魔法具でして」


 先日、俺がカメラを持ち出してから、アーリィーはカメラと写真に凝りだしていた。


 自分専用のカメラが欲しいというので持たせたら、色々なものを撮り出したのだ。自然、風景はもちろん、ルーガナ領やウェントゥス地下基地、そこで生活する者たちの日常など……。


 寝る前に、ベッドでアーリィーが自分の撮影した写真を見せてくれるんだが、俺の知らない仲間たちの一面がよく撮れていた。


 そして当然のごとく、学校でも撮影少女は健在だった。新しい玩具を与えられた子供のように夢中になっていた。


 休憩時間に学校の色々な景色や生徒たちの行動を撮影してまわっている。……まあ、じきに撮る物も少なくなるだろう。最初だけだ、こういうのは。


「ふむ……。よくわからんが、いいものなのかな?」

「記録に残す、という点ではカメラは楽ですよ。後で見返せましすね」

「人に向けているが、大丈夫なのかね?」

「ふっ……魂は取られないのでご安心を」


 昔、写真を取られると魂を抜かれるどうこうって話を聞いたことがある。迷信とか、カメラというものを初めて目にした人の困惑というか恐れかはしらないが。


「だ、大丈夫なのか?」


 ラソン教官がビクついている。意外に臆病なのか……? 慣れないものは不安になるのはわかるけど。


 趣味を持つことはいいことだ。俺はアーリィーの新たな趣味を歓迎した。……だけど、俺の寝顔コレクションだけはやめてくれないか。


 閑話休題。


 講義は昼で終わり、午後は自由時間。部活の勧誘はないが見学していって欲しいという、あわよくば助言をもらいたい生徒たちを避けるようにさっさと下校する。


 青獅子寮では、ベルさんがマルカスとサキリスに剣術を教えていた。学生たちは、王都防衛戦を大帝国の脅威、ウェントゥスの兵器に触れて、より熱心に技量アップに努めていた。


 近いうちに戦争が起きるというその予感。魔法騎士学校の生徒であるからには、在学中あるいは卒業後、間違いなく戦いに関わることになるだろう。


 だから、より真剣になる。他の生徒たちが、まるで緊張感のない日常を送る中、マルカスとサキリスは将来に備え、気持ちを臨戦態勢へと整えていた。

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