第228話、ユナ、機械兵器に関心を持つ


 ウェントゥス地下基地へラスィアさんを案内する時、申し訳ないがアーリィーとオリビア近衛隊長にもきてもらった。


「ここから先は国家機密だからね、ラスィアさん。あなたを信じて明かすけれど、情報を漏洩したら……わかっているね?」


 アーリィー――王子の口から直接言われれば、冒険者ギルドのサブマスであるラスィアさんに、どうこう言えるわけがない。


 権威というのはこういう風に使うもんだ。説得力が違う。


 前回、ユナたちに見せたのと同様、ラスィアさんにウェントゥスの機械兵器を披露する。

 もちろん、これらの整備理由が、北方の脅威、ディグラートル大帝国への備えであるということも念を押しておく。一度伝えたが、重ねて言わないとね。クーデターでも企んでいるんじゃないかと邪推されても困る。


「……正直、見た今でも信じられないのですが」


 ラスィアさんは素直な感想を口にした。俺はわざとらしく言う。


「でも、先の王都防衛戦の時、見えたでしょう?」

「見たといえばそうですが……夜中でしたし、あまりはっきりとは」


 戦闘機中隊が低空をかすめ、プラズマと爆弾の嵐を見舞い、ラスィアさんたちの視力の限界から、戦車中隊が砲撃をぶっ放した。

 まあ、確かに見ただろうが、内容については理解と隔たりがあるに違いない。


「とりあえず、あの戦いで起きた不可解な爆発や轟音の正体はこれです。……先の約束は守っていただきたい」

「もちろんです。王国の秘密兵器を知ってしまったわけですからね……」


 ラスィアさんの顔色が心持ち青かった。

 俺の正体を探ろうとして、国家機密に足を踏み入れていまうなんて、思いもしなかっただろう。


 つまらない好奇心が身を滅ぼすってね。人様のことを暴くのなら、それくらいのリスクも背負ってもらわないと割に合わないだろう?



  ・  ・  ・



 ヴェリラルド王国王都に日常が戻りつつあった。


 ラスィアさんには、魔獣群による侵攻阻止の際の後始末のフォローをしてもらった。


 王都では、王国軍のダンジョン攻略遠征の話題も落ち着き、俺は適当に学校生活をエンジョイしていた。


 適当に授業を受け、高等魔法授業では逆に魔法を教え、アーリィーの護衛をしながら、自らの研究開発を進めた。


 そうそう、オリビアら近衛の訓練に付き合ったり、放課後にサキリスやマルカス相手に剣や魔法の指導をした。


 ユナはといえば、放課後になると青獅子寮へ来て、ウェントゥス地下基地へと飛び、機械兵器について熱心に勉強していた。


 魔法にしか興味がないかと思えば、そんなこともなかった。何故なら、機械兵器の動力の根本を辿れば魔力だからだ。魔法の仕組みの解明、そして応用となれば、ユナが食らいつかないはずがなかった。


「銃、ですか……?」

「そう、魔法銃」


 ユナが見守る中、俺は作業台に、20センチほどの黒い物体を置いた。


 長方形の板状の物体に握り手と引き金がついたそれは、言ってみれば拳銃である。一般的な拳銃というより未来モノの銃といったシルエットだが。


「アーリィー様が使っているものも魔法銃でしたね」


 ユナは台の上の銃を見て言った。俺はもう一丁、シェイプシフター兵が使っている主力魔法銃を置いた。


「銃身の先に魔石を埋め込んでいる。引き金を引くと、魔石から電撃の魔法が飛び出す。弱弾である麻痺と、強弾である攻撃用の二種類を使うことができる」


 主力銃ライトニングバレットに対して、拳銃型はサンダーバレットという名前は付けた。俺は魔石拳銃のグリップを掴むと、構えてみせた。


「引き金を引くだけで電撃弾が撃てるから、魔法詠唱の必要がないのと、片手で扱えるのが利点だな」


 魔法使いと対峙しても、相手が短詠唱で唱えるより早く撃てる。


「ちなみに」


 グリップ上のスイッチを押すと、銃口に当たる魔石の下のあいた小さな穴から、赤い光線が飛び出した。


「射線が確認できる。この光線自体に威力はないが、どこに弾が飛んでいくかはわかる」


 現代で言うところの、赤外線レーザーポインターというやつだ。穴の中に小さな魔石が仕込んである。魔法文字により微弱な魔力を通すことで光線を放射する。……実は銃身が板状になっているのも、内部に魔法文字を刻んだ影響だったりする。


「というわけで、これはお前にやる」

「ありがとうございます、お師匠」


 ユナが恭しく、サンダーバレットを両手で受け取った。


「以前から魔石を使った銃をいくつか作っていたんだけどね。俺自身はあまり好んで使ってこなかった」


 第一点、詠唱なしで撃てる銃ではあるが、こと威力に関して言えば、普通に杖を媒体にして魔法を撃つのと大して変わらないという事実。


 第二点。速さを気にしなければ、普通に他の魔法を使ったほうがいい場面のほうが多い。外皮がとても厚い敵に対して、撃つしかできない魔石銃より、吹き飛ばしたり地面を操作して転倒させたりの魔法のほうが有効だったりする。


 俺が魔法が使えなければ、魔石銃はとても役に立っただろうが、生憎と魔法があるから必要性に乏しかったり。


 魔力切れで魔法を温存したい時などには有効だが、そういう機会は滅多にない。


 まあ、シェイプシフター兵は魔法が使えないから、そっちでは全然主力武器だけどね。


「他にもいくつか、試作したんだけどね。機械文明の技術を得たから、実用化はされないものもあるだろうね」

「例えば?」

「魔石機関銃」


 俺は腕を組んで、天井を仰ぐ。自身の魔力を使わずに、魔石を利用して魔法を放つ。ただ連射するだけなら、魔石をカートリッジ化して、使い切ったら予備カートリッジと交換することである程度、形になる。


 射程の長い重機関銃みたいなのを考えたんだけど、テラ・フィデリティアには実弾系の機関銃や機関砲が普通にあったからね。


 ディアマンテを通じて魔力生成で生成可能になったから、大帝国戦で考えていた魔石機関銃の出番はないだろう。


「そして機関銃といえば、先の王都防衛戦では、多数の地上兵力を相手にする時に有効な対地攻撃兵器の不足を感じた」


 カプリコーン浮遊島軍港では、艦上攻撃機は生産が始まり、テラ・フィデリティアの対地ミサイルや爆弾も本格的に製造されている。


「だが、対地掃討といえば、うってうけの兵器があるんだ……」

「それはいったい?」


 首を傾げるユナに、俺は答えた。


「地上攻撃ヘリ。……ヘリコプターだ」

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