第226話、俺氏、秘密を明かす
先日の魔獣群による王都襲撃の際の立ち回りを聞かれると思ったのだが、ラスィアさんがさらに踏み込んで、俺のことを過去を含めて知りたいらしい。
「プライベートなことは、あまり話したくないんですけどね」
そういう冒険者も少なくない。簡単に引き下がるとは思えないが、一応、牽制しておく。
「そうですか」
ラスィアさんは、あっさりと頷いた。あれ、俺の言うこと聞いてくれるの?
「ジンさんが話したくないのなら、他の方に聞きます。まずは、貴方のことを師と仰ぎ、弟子入りしたユナ・ヴェンダートから」
同じ師から学んだ弟子仲間で友人だっけか。言われないとあんまり接点を感じないふたりだけど。
「他にも何故か貴方への評価が高い、ドワーフのマルテロさん、それにエルフのヴィスタさんなどからも」
マルテロ氏はともかく、ヴィスタは俺がジン・アミウールという英雄だったことを知っている。彼女がそれを周囲に公言するとは思えないが、発言次第では何らかの手がかりが出てしまう可能性もある。
『どうする、ジン。このダークエルフ、喰っちまうか?』
魔力念話で、ベルさんが言った。秘密を探ろうというのなら消す、というのだろう。俺は、小さく首を振る。
『そんなことしたら、余計な面倒事が増えるでしょうが』
特に俺たちと会った直後に、廃人化させたり、あるいは消しちゃったりしたらさ。
『それよりも、むしろ、こちら側に引き込んだらどうだろう?』
『全部話すってのか?』
ベルさんがピクリと耳を動かした。
『秘密を明かす代わりに、こちらの面倒事の後始末を頼めるかもしれない。まあ、向こうからも幾つか仕事を回されるかもだが』
『この女に、ケツを拭いてもらうわけだな』
『ベルさん』
『あー、いいよ。好きにしな。もしこちらのケツに火がつくようなことになれば、そのときは消すだけだし』
そういうことだ。俺とベルさんで話がまとまり、先ほどから俺を注意深く見ているラスィアさんに視線を向ける。
「では、今回の防衛戦のことをすべてお話ししましょう。ただ、明かす代わりに、ここだけの話にしていただきたい。公になると、色々と面倒が発生するので。あと、秘密を守っていただく。それができないと言うのであれば、お話はここまでです」
「……いいでしょう。話の内容にもよるとは思うのですが、貴方がそうおっしゃるのであれば、秘密は守ります」
「結構です。それでは――」
それから俺は、王都防衛戦の一部始終を説明した。ゴーレムやゲイビアルが召喚された件とウェントゥスの機械兵器群、その後の魔獣群の最期などを語った。
そしてこれらの兵器群が存在している理由。ディグラートル大帝国との因縁。俺がかつてジン・アミウールという名で大帝国と戦い、連合国に裏切られたことを説明し、オリハルコン製のランクプレート、Sランク冒険者の証を見せてやった。
ラスィアさんは、終始驚きっぱなしだった。まあ、仕方ないね。でも、聞きたいって言ったのはあなただぜ?
俺たちが洗いざらい話した後、ラスィアさんは頭を抱えていた。
「すみません、情報を整理する時間をいただけますでしょうか?」
「どうぞ」
俺とベルさんは、目の前のダークエルフ女性が困惑しているのを尻目に、笑みをこぼしていた。
「約束は守ってもらいますよ。あと、こっちの事情を話したので、もし何か厄介事になった場合、フォローしてくださいね」
「面倒は御免だからな。オレたちも身を守るために何をしでかすかわからんぜ」
「……わかっています」
ラスィアさんは顔を上げた。
「ちなみに、ジンさんが今回明かした事実は……他に知っている人は?」
「すべてを知っているのはラスィアさん、あなただけだ」
俺は口元を歪めた。
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