第219話、評価と報酬について
魔法騎士学校では、予備兵力として待機していた生徒たちも解散し、寮へ戻っていた。学校は休校。みな徹夜と緊張から解放されて、よく眠れるだろう。たぶん、変な時間に起きてしまうんだろうけどね。
俺たちは青獅子寮に戻った後、部屋に戻ってお休み。昼頃には起きて、朝兼昼食をアーリィーとベルさんと一緒に摂った。
学校も休みということで、俺とベルさんはのんびりだらだら過ごした。
まあ、後で聞いた話だが、王都守備隊やヴォード氏ら冒険者ギルドの幹部は後始末に奔走していたらしい。魔獣軍からのドロップを漁る冒険者たちを他所に、どうやって魔獣の軍勢を倒したのか、報告書を上げる必要があるとかで、俺以外の冒険者たちから戦闘の様子の報告などを集めていたようだ。
夕方にはユナが青獅子寮を訪れた。オープンテラスでアーリィーを交え、遅めのティータイム。丸テーブルを囲み、俺、アーリィー、ユナが席に着き、ベルさんは机の上に寝そべる。
「今回の戦いについて、説明してください」
ユナは、昨晩の戦いの中で皆が感じた不可解な点をあげて追求してきた。ベルさんはそっぽを向き、ある程度事情を知っているアーリィーは、気まずそうに俺を見ている。
「途中で、無数の火球を見ました。エクスプロージョンの魔法だとしても、ひとりの術者が出せる数でありませんし、同時に何か空を飛ぶものが通過していったようです。何かご存じありませんか、お師匠」
知らん、と突っぱねられたら楽なんだけど、あいにくと、それだと知ってて隠そうとしていると受け取られるのがオチだ。つまり、追求がより激しくなるやつだ。
……まあ、いいか。
「教えてもいいけど、王族の絡む秘密案件だ」
あ、とアーリィーが目を剥いた。ボクを巻き込むつもり?――って顔をしている。ダシに使うだけだ、気にするな。
「秘密は守れるかね、ユナ?」
「……」
ユナは押し黙る。国家機密に抵触する。しかし魔法なら知りたい。ユナの魔法に関する好奇心が激しく葛藤しているようで、ふだんから表情の少ない彼女にしては珍しく悩んでいる。
「はい、他言はしません」
「……わかった」
どの道、仲間に引き入れて、ウェントゥス兵器のことを明かすつもりでいたし、いいきっかけになったと思おう。
しかし、そうなるとマルカスとサキリス――学生ふたりにもそろそろ見せておこうかな。ダンジョン探索では見どころもあったし、今回のモンスタースタンピードでどう感じたかによっては、ふたりにも明かそう。
実物はまた後で見せるとして、俺はユナに、あの戦場で起こったことを説明した。
ダンジョンコア『サフィロ』を俺が保有していることはユナも知っている。それを使えば、ガーディアンと呼ばれるモンスターを呼び出して使役することができる――から始まり、独自に用意された古代文明兵器、戦車や航空機を投入。最後にダンジョンコアの力を借りた大規模アースクエイク。
俺とベルさん以外で、実際に何があったのか正確に知る機会を得たのは、あの場ではアーリィーだけだ。これにユナも加わるが、まだ彼女は『実物』を見ていないだけに半信半疑だろう。
「凄いのはわかるんだけど、たぶんジンにしかできないよね……」
「半分見ていたわたしでさえ、信じられないところがありますから、この話をまともに聞いても普通の人が信じるかどうか……」
「君はどうだ、ユナ?」
「お師匠のことですから、おそらく本当だと思います。今は実際に見てみたいというのが本音です」
正直者だな。
真相を話したところで、世間様にはどの程度話すかという問題について話し合う。ダンジョンコアを持ってるマスターだってことは、基本伏せる方向だ。……持っているとなれば誰に狙われるかわかったものではないからな。
しかしながら、魔獣の軍勢が壊滅、いや、壊走するに至った経緯について、それっぽい報告を冒険者ギルドにもしなければいけない。
当たり障りのない感じに報告内容を仕上げていくのだが、どう考えてもうそ臭い部分が出てしまうのは仕方ない。
そうやって詰めていく間、ユナがぽつりと言った。
「しかし、こうも抑え目な感じですと、お師匠の貢献度がかなり低くなってしまうのですが……」
「そうだよね。ジンやベルさんが一番頑張ったのに」
「何言ってるんだ。他の冒険者たちだって、敵と戦ってたし、裏方だって頑張ってたじゃないか」
魔獣や亜人を倒し、傷つき、倒れた者もいる。矢の補充に走った者、伝令をした者、負傷した冒険者を手当てした治癒魔法使いや医者がいた。それらが皆、それぞれ頑張っていた末の勝利だろう?
「それはわかるけど、ジンやベルさんいなかったら、王都は今頃、酷いことになってたんだよ?」
アーリィーは神妙な調子で言った。
「もちろん、皆頑張ったから評価されるのは当然だと思う。でもその中でも、ジンとベルさんが一番に褒められるべきだとボクとユナ教官は言ってるの」
コクリ、とユナも頷いた。
俺は苦笑した。……そういう評価をまともに受けていたから、結局、英雄辞めて死んだふりまでする羽目になったんだけどね。
全部正直に皆に告げれば、確かに楽ではある。が、楽ではあるが、楽になるとは限らない。うん、何を言っているかわからないかもしれないが、絶対ろくでもないことになるのはわかりきっている。
アーリィーたちの気持ちはとても嬉しいんだけどね。評価されるのは誰だって嬉しいもんだ。
寝そべっていたベルさんが、俺に視線を向ける。
『あんまりよろしくない空気だな』
『話を逸らすか』
『そうしよう』
短い魔力念話でのコンタクトの後、ベルさんは言った。
「ぶっちゃけ、オレは評価よりも報酬がいいな。それが目減りするってのは面白くねえな」
「確かに。今回の戦いで俺、ゴーレム召喚に魔石使ったし、ポーションも使ったな」
あまり考えないようにしていたが、実を言うと王都防衛戦で、俺は大赤字である。戦功を認められて報酬がもらえないと大損だったりする。……まあ、最近は一定の給料もらえる環境にあるんだけどね。
「そういえば、外壁前に落ちてた亜人の武器って、もう冒険者たちが回収してたっけ?」
彼らも、ここで集めておけば王国側の報酬がしょぼくても補いがつくし、仮にたくさんもらえたとすればより稼げるから、当然といえば当然か。
「いまから行っても、オレたちの分はねえだろうなぁ」
「完全に出遅れだからな」
遠い目をしてみせる。するとアーリィーが肩をすくめた。
「ジンとベルさんが報酬をいっぱいもらえるように掛け合いたいけど、二人ともあまり目立ちたくないんだよね?」
「そうだな。ここで報酬が目立つと余計に勘ぐられる」
皆が納得しているならともかく、もらい過ぎても
まあ、戦利品の多くは地面に埋まっていて、手つかずなんだけどね。
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