第218話、外からどう見えた?


 南門を塞いだ岩は解除した、とユナが念話でそう知らされたが、戦場が混沌に包まれ、航空隊やらがトンパチやっている頃は、冒険者も守備隊も出てこなかった。何が起きているのか理解できず、様子を見たのだ。


 俺たちとしては、邪魔が入らなくて済んだのでありがたかったがね。


 東から太陽が昇り、荒涼とした戦場跡が門の前には広がっている。俺はサフィロを回収しストレージに仕舞っていて、黒猫姿に戻ったベルさんが俺の肩に乗った。


 冒険者ギルドのヴォード氏が俺のほうへ大股でやってくる。ラスィアさん、ユナ、ヴィスタも一緒だ。他の冒険者たちもそれについてきていたが、戦場に落ちていたオークやゴブリンの武器、防具、魔石などを見つけ、それに手を出した者が現れると、そのほとんどが我先にと回収へと走った。辺り一帯、魔獣軍のドロップ品だらけで、早い者勝ちの様相を呈していた。


 が、ヴォード氏はそれらには目もくれず、俺のところまで来ると、厳しい顔のまま言った。


「やっつけたのか?」

「敵は壊走しました」


 俺は真顔で嘘を吐いた。逃げた、ではなくそのほとんどが土の中だ。


「そうか」


 ヴォード氏は釈然としていない顔ながら頷いた。


 そりゃあそうだよな。王都外壁からはどう見えただろうか。戦闘機の姿は、おそらく夜だったことであまり見えなかっただろうが、プラズマや爆発が連続したのはわかっただろうし。


 ややピリピリした空気だ。そこでラスィアさんが口を開いた。


「ジンさん、ひとつ聞いてもいいかしら?」

「何です?」

「貴方が戦場に残った後、ゴーレムとリザードマンが現れたみたいだったけれど……あれ、召喚魔法かしら?」


 ちら、とラスィアさんは、ユナを見た。……どうやら彼女、俺のことを少し話したようだ。大方、俺が作ったゴーレムと、召喚したゲイビアル、いやリザードマンに見ていたらしいラスィアら周囲に、ユナが解説を入れたのだろう。


「ええ、そんなところです」


 ざわ、と、近くで話を聞いていた冒険者、特に魔術師がざわめいた。


 ――ストーンゴーレムを作ること自体、高レベルなのに……。

 ――複数のゴーレムを同時に使役してたよな……それって上級の人形使い……。


「あの地震は? 何か心当たりは?」


 ラスィアさんの問い。俺は苦い笑いを顔に貼り付けた。


「アースクエイクの魔法を使いまして……。ちょっと試験的に作った魔法の杖が暴発したら、思いがけない威力を発揮したんです」


 はい、ちょっと苦しい言い訳です。でもまあ、地面を浮かせて、その後降らせた跡は、どう言い繕っても結果的にバレるので、それならば、もっともらしい理由をでっち上げるのである。イレギュラーな暴発なら、俺の実力ではなく事故としてみてもらえる率も高くなるだろう。


 ――アースクエイク!? あの大地系の大範囲魔法だと!

 ――そんな、こんな若造が……!?


 うん、知ってた。でもさ、ダンジョンコアを操って、敵を落としてぺしゃんこにしました、なんて本当のこと言えるわけないよねぇ……。


「お師匠ですから」


 ユナが口ぞえするように言った。


「アースクエイクも使えるでしょう」


 周囲は何も言えなくなった。この銀髪巨乳の魔術師は、こう見えてAランクの高位魔術師である。


「それはともかく、詳しく話を聞きたいが――」


 ヴォード氏が、やはり険しい顔つきのまま言った。まあ、そうだろうさ。あの説明だけで納得できるとは俺も思ってない。


 だがね、ちょっと待ってくれないだろうか。


「ギルド長、申し訳ないですが、自分は正直立っているのがやっとな状態です。徹夜で事にあたったのですから、いい加減休ませていただけませんか?」

「おお、そうだ……そうだったな」


 いま思い出したとばかりにヴォード氏は目を見開いた。徹夜をしたのは、俺だけじゃなくて、皆そうなんだろうけどね。ギルド長、あなたもお疲れでしょう?


「とりあえず、お話は後日にしませんか?」

「そうだな。そうしよう。……何はともあれ、ご苦労だった」


 すっと、ヴォード氏が手を差し出した。意外に思いつつ、俺はその手を握り返した。


 俺はベルさんと王都南門へと歩く。ユナがついてきた。まあ一応弟子だからね。


「お師匠、お疲れ様でした。もしよければ、お師匠の使った魔法について質問よろしいでしょうか?」

「うん、ユナ。俺、疲れてるんだよね」

「大丈夫ですか? おっぱい、揉みますか?」

「……あまり大きな声で言わないでくれ」


 周囲では冒険者たちが武具拾いに精を出していて、俺たちの会話は聞こえてないようだった。だが何人かは拾いながら、時々俺のほうに視線を向けていた。まあ、ここでは無視するが。


 ともあれ、俺は王都に帰還した。



  ・  ・  ・



「お疲れ様、ジン」


 アーリィーと近衛隊が城門を抜けた先で待っていた。王国軍の兵が行き来しており、さらに城門の修理作業も進められているようだった。


「無事でよかったよ」

「ありがとう。そっちはどうだった?」


 ボルドウェル将軍だっけか。王都軍のお偉いさんも外壁上の本営から、この戦いを見ていたはずだ。


 アーリィーが馬車を指し示した。学校へ帰るまでの足として手配したのだろう。


「将軍たちも驚いていたよ。ジンが用意してくれたウェントゥスの兵器のことをまるで知らないからね」


 馬車に乗り込むなり、悪戯っ子のような顔になるアーリィー。


「夜中だったから、ほんと何が起こっているのかわからなかったよ。戦車の姿は遠すぎて見えないし、航空機はあっという間に抜けていったからね。魔力ジェットの音を雷じゃないかって、ビックリしていた人もいたよ」


 こちらの正体を掴むようなものは何もなかったようだ。よかったよかった。


「まあ、最後の地震に皆驚いていたけどね。あれは、ジンがやったの?」

「まあね」


 俺とベルさんは顔を見合わせ、ニヤリとした。ダンジョンコアを利用すれば、こういうこともできることさ。

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