第220話、ゴーレム+ダンジョンコア


 王都スピラルを襲ったモンスタースタンピードは撃退された。


 頑張ったからには、やっぱり見返りは欲しいわけだ。ベルさんの言うように他の冒険者たちが敵の武具や防具を回収して稼ぎにしようとしている時点で、俺たちはなしってのは面白くない。


 ……何かいいアイデアはないかね、ベルさん?


 そう言ったら、ベルさんは片目を閉じた。


「そうさな。……ああ、そうだ。ちょっと面倒だけど、まだ手付かずの武具や魔石があったな」

「あー、あったあった。あれを俺たちでもらってしまおう」

「何の話ですか、お師匠?」


 ユナとアーリィーがキョトンとしながら、俺たちのやりとりを見やる。ベルさんが答えた。


「ジンがサフィロの力を使って、魔獣どもを埋めただろう? つまり地面の中には、連中の武器防具や魔石が埋まってるってこった。……そいつをいただく」

「結構深くに落とした後で埋めたからな。普通の人間が掘ろうとしても時間も金もかかるし、そもそもそこに埋まってると気づく奴がいるかどうか。それなら手に入れても文句は言われないだろう」

「ちょっと待って、ジン。そんな簡単に掘れるものなの?」

「いえ、アーリィー様。お師匠はダンジョンコアを保有していますから、地中にダンジョンを作れば発掘も可能かと」


 さすが高位魔術師のユナ。俺の持っているものから、手段があることを察したようだ。



  ・  ・  ・



 と、言うことで、青獅子寮にある俺の魔法工房に場所を移し、ベルさんと、ダンジョンコアのサフィロの二人(?)に相談する。


 サフィロによると、地下およそ三十メートルに魔獣の集団を落とし、その上から取り除いた土砂を再度かけたという。


 範囲内にいたのは魔獣や亜人、およそ一〇〇〇から一五〇〇の間。それが地下三十メートルラインに埋まっている。


 範囲がわかっているので、掘るのはその地下三十メートルラインということになる。それでも広大な広さとなるが、何もないとわかっている土砂を掘らなくていいというだけでかなり楽になる。


 魔獣が埋まっている範囲一帯を、サフィロが再びダンジョン化。その地下三十メートルに適当にフロアを作り、あとは魔獣ガーディアンやゴーレムで地中を直接掘り進めつつ、回収作業を行う。


『現状、まだ魔獣や亜人の死骸が埋まっているので、ダンジョン化すれば、そこから魔力を充足できます。また、その魔力の流れを観測することである程度の位置を把握できるので、発掘の助けになるかと』

「素晴らしい」


 闇雲に探すよりは、これまた楽になるだろう。俺が言えば、ベルさんは首を捻った。


「魔力を補充できるなら、いっそダンジョンを作る要領でフロアを広げたほうが、掘る量が少なくて済むんじゃねえか?」

『ダンジョン作成における地形移動の際、その中にあるモノも一緒に移動させてしまうため、やるなら地下三十メートルラインより一、二メートル上を階層化するべきでしょう』

「中のものも一緒に移動って……それなら、いっそ三十メートルラインの土砂を全部地上に引っ張り出したほうが、地下深く潜らなくて済むんじゃね?」

『それでは周囲の目に触れてしまいますが、よろしいですか?』


 サフィロは聞いてきた。


『どの道、そこから掘り出す手間自体は、地上と地下、どちらでやってもあまり変わりませんが?』

「人目につくのはよくないな」


 掘れば武具や魔石が出るものを地上に引っ張り出せば、手を出す輩は出るだろう。それにどうやって地下の土砂を地上に持ってきたのか、なんて余計な詮索を生む。これ以上、面倒な言い訳考えるのはヤダぞ、俺は。


「地下でやろう」

「そうしよう」


 次に、実際にどうやって土を掘るかであるが――


「ちょっとやり方を考えないといけないな。普通のゴーレムでの掘り方では、発掘した武器や防具、魔石を砕いてしまう可能性がある」


 ミスリルを掘るために、ゴーレムをガンガンに使っていた俺である。採掘用に手先を変えて作り出したゴーレムは固い土や岩も砕く。ミスリル鉱石はその硬度から、ストーンゴーレム程度では割れない。だから構わず掘らせたのだが、今回はそうはいかない。


「そんなわけで、サフィロに確認したいのだが、君はコピーコアを作れるか?」


 ディーシーはそれができて、実際にウェントゥス兵器の航空機や戦車、ゴーレムなどにはコピーコアを搭載している。


 コア付きゴーレムなら、かなり細かな作業もこなせるはずだが。


『可能か不可能かと問われたら、可能です』

「そいつはよかった」


 ウェントゥス地下基地から、専用のゴーレムを取り寄せないといけないところだった。



  ・  ・  ・



 そもそもゴーレムとは、元々はユダヤの伝承に登場する泥人形だったと記憶している。まあ、俺の中では、ファンタジー系のゲームに登場するものを連想するがね。


 素材は泥、岩、鉄、その他魔法金属などなど。この世界でも、まあそういうものだ。


 作った主人の命令を忠実に実行するが、基本的に頭はよくない。単純な作業をこなす程度しかできないので、繊細な行動や細かな命令は対応できないのだ。


 元祖『脳筋』キャラ――この場合はキャラではないか。ゲームの仕様によっては、攻撃力より素材ゆえの耐久力の高さが売りだったりする。戦わせるにしても、壁役だったり、パワーを活かした破壊だったりする。その代わり、動きは鈍く、また先にも言ったように判断力はイマイチだ。


 俺も、ゴーレムを創造魔法で作り出すも、頭のよさについては正直お手上げだった。魔法文字を刻むなんてのは容量的に不可。むしろ今の状態でも頭の悪いなりに単純命令をこなせるだけ、実はとても凄いことなのだと言わざるを得ないのが現状だ。……コンピューターとかAI技術ってのが、いかに優秀か思い知らされる。


 この世界の人間は、ゴーレムの頭の悪さについて不満はあれど、そういうものだと思い改善する努力はあまりしなかった。だが、もとの世界でロボットモノなどに触れている俺としては、どうしても未練があった。


 で、その欠点を補ったのが、ダンジョンコアのコピーである、コピーコアだ。言ってみれば人工知能みたいなもので、ゴーレムなどより遙かに頭がいいのだ。


 ゆえに、ウェントゥス製のゴーレムは、他のゴーレムを思考面で大きく上回っているのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る