第216話、ベルさん無双とジンの反撃
オークやゴブリンは我先に南門に殺到した。
だが――あいにくと、そうはいかんのよね。
俺は、岩の壁ストーンウォールを形成。門の形にピタリと合うように岩の壁を形成し、蓋をした。亜人どもでは、どうにもできない壁が王都への侵入を阻む。
はい、皆さん、よく頑張った。後は、俺たちに任せてもらおう。
俺はエアブーツで飛び上がり、王都を囲む外壁に取り付く。重力操作で、垂直の壁に張りついた俺は、ベルさんを中心に集まっていた五人の冒険者を見やる。……残念ながら生存者はこれだけのようだ。その周囲は敵だらけ。
「門が閉まっちまったぞ!?」
生き残りの冒険者が切りかかってくるオークに反撃しながら怒鳴った。
「オレたちは置き去りかよ!」
大丈夫大丈夫、見捨てたりはしないから、ねっ――俺は、浮遊魔法をベルさん以外の冒険者にかける。ふわりと浮かんだ身体に、一瞬冒険者たちは慌てた。
「どっこい、しょっ!!」
俺は五人の冒険者を外壁上に浮遊で放り投げた。……上手く壁の上に降りてくれよ。細かな調整はしてないからな!
カン、カンとすぐ近くで金属音。どうやら俺めがけてゴブリンアーチャーが矢を放ったようだ。
「俺が無防備だと思うかい?」
こういう離脱作業中に狙われるのはお約束だからね。障壁は張らせてもらっている。金属音は、俺の張った防御障壁に矢が弾かれる音だ。
とりあえず、南門より前にいるのは、俺とベルさんだけになった。ベルさんは相変わらずデスブリンガーを振るい、敵を両断している。……うん、こういうの無双ゲームで見た。さすが魔王様だ。
では、少しお掃除しましょうね。
範囲指定、外壁より前方三十メートル、幅百メートル。雷の網、サンダーバインド!
バチリと雷が弾けた。範囲内にいたオーク、ゴブリンその他魔獣らが一斉に感電、その命を奪った。肉の焦げる臭いがして、亜人たちが倒れる。
俺が壁を離れ、地面に着地する頃には範囲内で動くものは、ベルさん以外になく、そのベルさんのもとに歩み寄ったとき、足元の死骸は塵のごとく消えていく。
「面白くなってきたな、ジンよ」
暗黒騎士ベルさんは余裕である。俺は口もとを皮肉げに吊り上げた。
「あれ喰らって平然としているあんたは、やっぱり異常だよ、ベルさん」
まあ、はっきり言えばベルさんには影響ないから巻き込んだんだけどね。他の冒険者がいたら無事では済まないから、これまでは使えなかった。
突然、多数の兵が死んだことで、止まっていた敵だが、再び前進を開始した。俺とベルさんめがけて、壁の如く雑兵の集団が迫る。
「どうした、ジン? さっきのをまたやってもいいんだぞ? オレ様を巻き込まないうちにさ」
「冗談! あの範囲バインドは結構魔力を使うんだ。あんなの連発したら、俺のほうが先に魔力切れ起こしちまうよ」
だから――
「サフィロ、とりあえず一個小隊寄越せ。種類はゲイビアルでいい」
『畏まりました、マスター』
ダンジョンコアの声の直後、俺とベルさんの左右に淡い光がいくつも現れる。まるで地面から浮き上がるように現れたのは、屈強なるワニ人間ゲイビアルの戦士たち。
そして――俺はストレージから、手ごろな魔石を複数掴んで引っ張り出すと、それを前方に放った。
「クリエイト・ストーンゴーレム!」
魔石をコアにした岩の人形が7体、具現化する。そのマッシブな体格は、一見してパワー型とわかり、その太い腕に殴られれば、ミンチないし複雑骨折確定である。俺はストレージ内の魔石をもう一掴み投げ、合計13体のゴーレムを展開した。
「吹き飛ばせ!」
俺の号令に応え、ゴーレムたちが、のしのしと歩を進め、迫り来る魔獣軍に逆に切り込んでくる。正面からゴーレムに当たった亜人どもが簡単につぶれ、撥ね飛ばされる。それらを迂回、あるいはかわした連中には、肉に飢えた凶暴なゲイビアル兵が襲い掛かった。
獰猛かつ、堅い外皮を持つゲイビアルは、そんじょそこらの武器を弾く。水辺ほどの機動性はないが、ワニ人間は元のワニ同様、意外と足が速い。
俺とベルさんは、ゴーレム&ゲイビアル隊と魔獣軍の乱闘を眺める。……両端を抜けて回り込もうとする敵がいるな。
と、外壁から掩護の魔法が迂回しようとした敵に炸裂した。魔法弓と魔法。ヴィスタとユナかな。特に指示を出した覚えはないが、こういうところで手を回してくれると俺としてもありがたい。
「なあ、ベルさん。こちらの前衛が何波を受け止められるか賭けないか?」
「面白い。……が、残念ながら賭けはしない。何故なら――」
ベルさんは駆け出した。
「オレ様も戦闘に突入するからだッ!」
暗黒騎士は自ら乱闘に加わっていった。確かにベルさんが紛れ込んだら、賭けようがないな。……あの人、体力有り余っているから、この機会に思う存分暴れるんだろうな。
しょうがない。俺は、この防衛戦にケリをつけるための仕上げ作業にかかりますか。
「サフィロ、状況を報告。……魔力は溜ったか?」
・ ・ ・
いったい何が起きているんだ?
ヴォードは目の前で起きていることが信じられなかった。
ジンとベルが、ゴーレムとリザードマン(本当はワニなのだが後ろからは見分けがつかない)と共に、魔獣の軍勢と戦っている。
その間にも、各所から報告がヴォードのもとに上がってくる。
「矢の補充は完了。魔法使いも数名が復帰し、投射部隊の戦力は半分に回復しました」
「救護所の後退作業、終了しました。前衛から帰還した冒険者たちは休息をとっています」
「王都守備隊より報告。南門裏側の配置は完了。陣地構築も間もなく終了とのこと」
「南門に行った者から報告です。門は岩によって完全に封鎖されているため、こちら側からは破壊しない限り出られません」
ユナが言うには、南門を塞いだ岩はジンがやったらしい。あの若い魔術師を師匠と呼ぶ、元仲間の魔法使いに苦笑しつつ、ヴォードは思う。
門を塞いだおかげで、敵はこの南門から侵入するのは難しくなった。充分な時間稼ぎも可能だが、あの岩をどかさない限り、こちらからも出撃ができない。南門に配置した王都の兵たちが無駄になってしまったのではないか……?
「ラスィア、これからどうするべきだろうか?」
ヴォードは副ギルド長に問うた。外壁上から魔法弓使いであるヴィスタ、魔法使いのユナが掩護の魔法を使っているが、それ以外の者は、まったく戦場に介入できない状況になっている。
ダークエルフの美女魔術師、ラスィアは困ったような顔を浮かべる。
「彼には色々驚かされてばかりですが、ここは最低限の掩護をして、静観を決め込むのも手かと」
「奴に任せるというのか」
それもあり、とヴォードは思った。あの魔術師の底が知れない能力。ランクこそBランクだが、それ以上のものを感じさせるジン・トキトモだ。
「ユナは、彼のことを師と認めている」
ラスィアは視線を戦場の若き魔術師に向ける。……はて、彼は何をしている? 誰かと喋っているようだが、彼の周りには誰もいないが。
注目しながら、ラスィアは話を続けた。
「あなたも、そうでは?」
「評価はしている」
ヴォードは認めた。
「――だが、敵は多いぞ」
ここからどうする、ジン・トキトモ?
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