第214話、奮闘する者たち


 俺が駆けつけると、ルングは尻餅ついたまま驚く。


「ジンさん!? いまの魔法はジンさんっすか!?」


 お久しぶりっす! と尻の土を払い起き上がるルング。ゴブリンと戦っているティミットか「ルング!」と声を荒らげた。手伝えというのだろうが。


「わかってるけど! 武器がねえんだよ!」

「武器ならあるぞ」


 そういえば、水晶竜の時もこいつ武器なくしていたな。ストレージに手を突っ込みつつ、俺は早口になる。


「コバルト製の剣と、魔法金属製の剣、どっちがいい?」

「コバルト? え、魔法剣?」

「どっちだ!?」

「ま、魔法剣で」


 答えたルングに俺は、ストレージから水の地下神殿で回収した水属性の片手剣を出した。


「貸してやるから、それ使え」

「またまたすんません! ……ええ!? 魔法剣、すげぇ!」

「ルング!」

「うっさいぞ、ティミット、いま行く!」

「ついでに盾もやろう」


 俺は同じく神殿で回収した水属性の盾を置いていく。


「じゃ、俺は先を急ぐので」


 エアブーツの加速でその場を離れる。後ろでルングが「ダヴァン! ジンさんが盾くれたぞ!」と叫ぶのが聞こえた。お前は使わないのかい! まぁ、いいか。


 戦場を駆ける。邪魔なゴブリンを踏み台に孤立しかけている奴のもとへ駆けつけては陣地側に戻るように指示を出し、武器を失った奴には、コバルト製武器を貸し、手傷を負った奴には――


「掴まれ!」

「へ!?」


 重量軽減の魔法をかけたうえで、引っつかんで跳び上がる。エアブーツのジャンプ機能で、陣地方向へ二度、三度と跳躍。目を回している負傷者を南門そばの救護所へ送り届ける。


「ジンさん!?」

「やあ、ラティーユ、久しぶり」


 ホデルバボサ団のクレリック、ラティーユが、傷を負った冒険者に治癒魔法をかけていた。


 うん、ちょっと顔色が悪い。治癒魔法をおそらく何度もかけているせいだろう。救護所に運び込まれている冒険者の数も二桁を超えている。軽度の者は治癒魔法や応急手当ですぐに復帰するが、そうはいかない傷の者も少なくない。


「とりあえず、飲んどけ」


 カバンからマジックポーションを出して、ラティーユの傍らに置く。


 近くで呻き声を発する冒険者。胸から血を流し、手当てをしている者も動揺しているようだった。治癒魔法使いは? ……皆忙しそうだ。


「やられたのは胸か?」


 俺が駆け寄ると、手当てをしていた若い冒険者が頷く。ランクはE。見た感じ頼りなく、おそらく後方支援に当てられたのだろう。一方で倒れているのはDランクの冒険者。割とベテランっぽいおっさんだ。


 俺は負傷者の胸に手をあて「ヒール」の魔法をかける。傷口が塞がり、傷ついた臓器が再生する。荒かった呼吸が落ち着いてきて、ひとまず危機を脱する。


「よし、こいつの治療はもういい。とりあえず目が覚めたらポーションでも飲ませて寝かせておけ」


 傷は治ったが、血液を失っている分、すぐには戦えないだろう。俺は血に染まった手をローブで拭いつつ立ち上がる。再び、前線に戻ろうとした時、ラティーユに声をかけられた。


「戻られるのですか? あの、ルングや……団の仲間たちは見かけましたか?」

「ああ、男たち三人はまだ怪我もなく戦ってるよ」


 ルングは剣が折れて、と言うのは別にいいか。かえって心配しそうだし。


 俺は救護所を抜けて、南門陣地へと戻る。混戦は続く――



  ・  ・  ・



 陣地と救護所を行ったり来たりしていると、いま何波目なのかわからなくなる。


 前線は、もうずっと戦い続けているようで、疲労や怪我で後退してくる者も増えていた。当然ながら、その分前衛が薄くなっているのだが、腕利き冒険者と、唐突に現れた骸骨兜の暗黒騎士――ベルさんの介入で何とか支えている状態だった。


 さらに外壁上ではヴィスタが相変わらず魔法弓を撃ち続けており、おそらくだが、ここにいる全冒険者中もっとも多くの殺害数を稼いでいると思う。さすが魔法と相性のいいエルフと言ったところか。


 ユナも魔法攻撃を開始したらしく、連続して放たれた火球が後続の敵を焼いているようだった。


『サフィロ、状況は?』


 俺は魔力念話で、事前の仕掛けであるダンジョンコア『サフィロ』と交信した。


『現在、敵第11波目。ゴブリンとオークに加え、リザードマンが加わっています。その数、およそ250』


 ディーシーに比べると、どうにも機械っぽさを感じるんだよな。


 それはともかくとして、敵が一度に投入する数が増えてるな。それに堅いことに定評のあるリザードマンが加わっているとなると、かなりしんどい戦いになる。


『マップを寄越せ、サフィロ』

『承知しました、マスター』


 魔力念話に乗って俺の脳裏に直接、状況地図が送られる。こういうのは、ダンジョンマスターの特権だ。さてさて、こちらの前衛を支えているのは約30人? 半分以下に減ったな。 


 俺はバリケード陣地を抜け、前衛に回る。こちらの戦士たちの側面に回りこもうとするオークの集団。こちらは数で負けているから、どうしても回り込まれてしまう。


 ストレージから、魔石手榴弾を使う。サフィロの寄越したマップのおかげで、敵味方の識別が可能。つまり、安全に手榴弾を味方のいない敵集団に投げ込めるということだ!


 爆発、無数の破片と衝撃波が数体の敵兵を殺傷する。もう、ちょい威力のデカいのが欲しいなぁ。オークとかゴブリンだからいいものの、リザードマンとかゲイビアルだったら、あまり効かないのではないか。


 まあ、いいさ。本命は手榴弾じゃないからな――!


 俺は左手の古代樹の杖を構えて連射モード。ライトニングをマシンガンよろしく連射。ゴブリンどもがバタバタと四肢を千切られ、オークをなぎ倒す。


 右側面から回り込もうとした連中の足が止まった。予想外の反撃に戸惑ったか? もうちょい、押す! エアブーツの加速で前進。敵だらけの場所にエクスプロージョン! 爆発と衝撃で敵を吹き飛ばす。よしよし、びびって下がりやがった。


 前衛への圧力が減ったので、冒険者たちはベルさんを中心に陣形を立て直す。識別マップ上では、ベルさんが真ん中にいて、他の冒険者たちがその両翼を固めている。もっとも圧力の強い正面をベルさんが引き受けている感じだ。さすがだ、ベルさん!

 とはいえ……やっぱきついなこれ。


『サフィロ、そろそろ魔力は集まったか? かく乱を開始しろ』


 戦闘の前にした細工――それを発動させようじゃないか。そして――


『お待たせ、ディーシー。戦車隊を動かせ。最大射程で敵後方より長距離砲撃!』

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