第209話、時間は稼いだ


 アーリィーの魔法銃による攻撃はゴブリンの頭を撃ち抜き、トカゲの背から落とした。落ちたゴブリンは、後続の騎兵に踏み潰される。


 俺はちらとルームミラーでそれを確認しながら、速度を調整する。


 平原とはいえ道なき地面。傾斜もあれば揺れるもので、さぞアーリィーには狙い難いだろうが……。と、思っていたら、案外上手く当てているようで、次々にゴブリンやオークが騎乗する大トカゲから落下していく。


 マギアライフルをすっかり使いこなしているようだ。やるもんだ。


 敵騎兵が速度を上げれば、アクセルを強く踏み込み、追いつかれないように走る。連中が持っているのは槍や斧。これらを投げてきても、当たりゃせんぞ! と思ったらに弓矢を撃ってきた。


「アーリィー!?」

「大丈夫、あなたのくれた魔法具が護ってくれてる!」


 その間にもアーリィーはマギアバレットを撃った。まるで盗賊集団から馬車を守っているようなシチュエーションだな、とか俺が思っていると、ベルさんが言った。


「ちょっくら空から、後ろの連中を牽制してきてやる」

「任せる!」


 俺が言えば、ベルさんは器用に座席を蹴ってサンルーフより上に出る。アーリィーが驚いた。


「ベルさん、危ないよ!?」

「まあ、見てな」


 ベルさんはサフィロの屋根から飛び降りると、すぐにその姿を小型竜に変える。低空を飛んだと思えば、すれ違いざまにオークを足で捕まえ、空へと連れ去ると遠慮なく落とした。


「アーリィー!」


 俺は左手で革のカバンストレージに手を突っ込み、魔石手榴弾をいくつか取り出した。サンルーフの隙間から俺を見る彼女に叫ぶ。


「こいつを敵に向かって放り投げろ。てっぺんのスイッチがあるな? これを押し込んで起爆、指を離したら約5秒で爆発するから、素早く投げろ!」


 中の魔力くずに魔力を送るのは俺のほうでやって、アーリィーに渡す。彼女はそれを五個ほど受け取ると、再びサンルーフより上に戻った。


 ベルさんが縦横無尽に駆けて、敵騎兵を掴んでは放るを繰り返す中、アーリィーは言われたとおり、手にした球体のスイッチを押した後、それを放り投げた。それで指から自然と離れたことで起爆状態となり、敵集団の中にそれが落ちると、数秒後爆発して近くのトカゲとゴブリンを殺傷した。


 ベルさんの牽制もあって、敵の動きが少し鈍くなったように見える。後続集団と先鋒の騎兵の間に差が開いてきたせいかもしれない。


 その時、魔力通信機が音を立てた。


『お待たせ、主。こちらの準備は完了したぞ』

「待ってました!」


 ディーシーの寄越した連絡に俺は思わず笑んでしまう。それでは、モンスターチェイスから離脱しよう。


『ベルさん、時間稼ぎは充分だ。離脱しよう』


 念話で呼びかければ、小型竜姿のベルさんが魔法車に戻った。


「ジン、敵の先頭集団が止まったぜ」


 先鋒の騎兵部隊が足を緩めたようで、俺たちの車からどんどん距離が開いていく。


「まあ、後続の連中が合流すれば、また進撃を開始してくるんだろうけどな」


 時間稼ぎにはなった。


 遠ざかったのを幸い、王都へ向かうモンスターの大群の進行ルートから逸れる。……お、あの森がいいな。


 身を隠せそうな森に入り、そこでポータルを展開。俺たちは、ウェントゥス地下基地へ移動した。


 広大な格納庫区画。シェイプシフター兵が行き交い、鋼鉄の猛獣たちが整列し、出撃の時を待っていた。


「ずいぶん急だったな、主」


 ディーシーが、リンクス戦車の前で仁王立ちである。


「仕方ないさ。ダンジョンに潜って帰ったら、モンスターの大群だもの。俺たちだってビックリだ」


 俺は魔法車を降りる。


「それで、今使える戦力は?」

「戦車9輛、魔人機14機、戦闘機21機、爆撃機4機。軽空母が1隻と、ゴーレムエスコート3隻だな」

「艦艇は、今から動かして王都に間に合うか? いや、航空隊の回収には使えるか」

「観測ポッドを動かして、状況は把握した」


 ディーシーは、自分の後ろの兵器を指し示す。


「実戦投入するのはいいが、どう運ぶつもりなんだ?」

「ポータルで運ぶさ」


 戦車やウェントゥス戦闘機なら、通れる大きさのポータルを作れる。


「だが投入するタイミングは見極めないといけない」

「こいつらで乗り込まないのかい?」


 ベルさんが拍子抜けしたように言った。


「王都のお膝元だからな。暴れるにしろ正体が露見しないように使わないといけない」


 ルーガナ領で密かに作ってましたって、王国のお偉いさんたちに知られたらマズイからね。


「敵とメインで戦うのは王国の人間でなくてはな。俺たちの兵器は、陰ながら支援する格好だ。本番は大帝国だからな」



  ・  ・  ・



 ポータルを使って、王都近くの森に戻る。サイズを調整して、リンクス戦車を次々に追加させ、そのまま森に潜ませる。


 敵は王都を目指しているようで、こちらには来ない。さらに魔人機を運び込むが、こちらはシェイプシフター兵でも使える大帝国製カリッグがメインだ。


 ウェルゼンは一応、置いておくが、俺もベルさんも、たぶん王都側で参戦するから出番ないかもな。


 次、戦闘機部隊。TF-1ファルケ、TF-2ドラケン、TF-3トロヴァオン、そして戦闘爆撃機であるTA-1メーヴェが森の後方に並べられる。

 シェイプシフターパイロットたちが、機体のチェックをし、警備のシェイプシフター兵が周囲に目を光らせる。


 俺は、シェイプシフター指揮官を呼んだ。


「ガーズィ、王都でドンパチやるだろうが、お前たちは別命あるまで待機」

『了解しました』


 よし、じゃあ俺たちは王都へと戻ろう。ポータルを経由して、まずは青獅子寮へ。

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