第207話、急変する状況


 モンスターの大群が王都方向に移動中。まったく想像だにしていない事態の知らせに俺たちは困惑した。


「ベルさん、それ本当!?」


 アーリィーが顔を強張らせる。マルカスやサキリスなどは状況が飲み込めず、ポカンとしている。


 ベルさんは言った。


「尋常じゃない物量だ。どこかのダンジョンでスタンピードが起きたのかもしれねえな、ありゃ」


 どれ、ちょっくら見てみようじゃないか。


「皆はここに」


 一言残して、飛行魔法。エアブーツの限界高度を軽々上回る高さへ飛び上がる。


 世界は丸い――なんてところまで上がるまでもなく、平原を移動する大集団を視界に捉えた。遠距離視力の魔法で拡大。


「ふむふむ、あれか」


 確かに数は大いな。ざっと見、数千……いやこれは万を超えているな。この分じゃ通り道にあった集落は全滅だろうな……。


 いったいどこのダンジョンから出てきたんだろ。大空洞ダンジョンとは方角が違うし、この地方はあまり詳しくないんだよな。


 確かなことは、このまま放置はできないってことだ。おそらく王都は戦場になるだろう。そこにある学校に通っている以上、無関係ではいられない。魔法騎士の卵である生徒たちにも防衛に動員されるかもな。


 観察終了。俺は皆のところまで戻る。アーリィーのヒスイ色の瞳が揺れていた。


「ジン……」

「ちょっとよろしくない状況だ。ベルさんの言う通り、スタンピード規模のモンスターの大移動だ」 

「そんな……」

「では、すぐに王都に通報しないと」


 ユナが真面目に教官らしいことを口にした。それもそうだな。通報は早いほうがいい。


 俺はポータルを作る。ユナは知っているが、サキリス、マルカスは驚いた。


「これは……?」

「ポータルだ。青獅子寮に繋いである。ここを通れば、すぐに王都だ」

「転移魔法!?」


 そんなことは今はよろしい。


「ユナは、ふたりを連れて寮に戻り、そこから冒険者ギルドへ行って、ダンジョンスタンピード規模のモンスターが王都に接近していることを報告してくれ」


 たぶんギルドから王城へ連絡が行くだろう。冒険者が通報するのはまずギルドだもんな。いきなりユナが王城に行っても、正しい情報かの確認どうこうで時間を食うかもしれない。


「わかりました。……お師匠はどうされるのですか?」

「偵察と、ちょっとちょっかいを出して連中の牽制をする」

「お師匠……?」

「なに、大したことはしないさ。……アーリィー、ベルさん。魔法車へ」


 呼ばれた二人は、車へと移動する。サキリスが手を挙げた。


「わたくしも!」

「お前たちはダメだ。王都に戻れ」


 ぶっちゃけ、これからやることを事情を知らない者に見せたくないんだよな。


「ジン」


 マルカスも口を開いた。


「魔物の大集団なのだろう? アーリィー様を連れて行くのは危険ではないか?」

「そうですわ。でしたらわたくしが――」


 どうしてそうついて来たがるのかね。


「アーリィーはマギアライフルを持っているから。離れた敵を撃てるけど、お前たちは近接戦主体だろ」

「でしたら、私は――」


 ユナまで前に出てくる。


「ギルドへ通報するのに、新人二人の証言と、Aランク冒険者のお前の証言、どっちがより信じてもらえると思っているんだ?」


 それにユナは、副ギルドマスターのラスィアさんと知り合いなんだろう?


「ほら、さっさと王都へ行く! 早く通報してこい!」

「わかりました」


 ユナは頷いた。


「お気をつけて」

「わかってる」


 ユナ、そしてサキリスとマルカスがポータルを潜った。戻ってこられないように解除っと。俺たちもここには留まらないからな。


 魔法車の運転席に乗ると、アーリィーは助手席、ベルさんは特等席についていた。


「で、これからどうするんだ、ジン?」

「モンスターの数を削る」


 魔石エンジンを起動。で、魔力通信機の電源を入れる。


「こちら、ソーサラー。カプリコーン、応答せよ」

『――ソーサラー、こちらカプリコーンCPです。どうぞ』


 シェイプシフター兵の声が通信機から聞こえた。助手席で、目を丸くしているアーリィーをよそに、俺はマイクのスイッチを入れた。


「カプリコーンCPへ。緊急事態だ。至急、ディーシーに繋いでくれ」

『了解。お待ちを』


 待っている間、ふたりに説明を――


『主がこちらのチャンネルで連絡を寄越すとは珍しいな』


 ディーシーの声がきた。思ったより早かった。


「単刀直入に言う。こちらでダンジョンスタンピードと思われるモンスターの大群を確認した。王都に迫っているんでね、これを叩こうと思っている。ついては、ウェントゥスの戦力も使う。準備してくれ」

『いきなり実戦か?』


 面白い冗談と言わんばかりのディーシーの声。これは冗談ではないんだぞ。


『それで、使うのは戦車か?  航空機か?』

「全部だ!」


 俺はハンドルを握った。


「準備ができたらそっちへ行くから知らせてくれ。武器、弾薬をそれぞれ装填よろしく!」


 アクセルを踏み込んで、魔法車を走らせた。ベルさんがニヤリとする。


「いよいよ、ウェントゥスの戦力解禁か?」

「大帝国が相手ではないが、こういう時のために準備していたからな」


 もっとも、まだまだ途上だけど。


「だが、その前に、敵さんにご挨拶してやろう」


 森の中の街道を爆走し、一気に森の外へ。あまりに速度を出すので、ガタンガタンと車が揺れ、アーリィーは取っ手に掴まる。


「ジン、いったい何をするつもりなのかな?」

「切り札を使うのさ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る