第206話、水の神殿の深部探索


 サフィロ型コア・タイプ7。


 何とも機械のにおいというか、SFチックな名前だと思った。……ディーシーより、カプリコーン浮遊島軍港のディアマンテと似たものを感じる。


 サフィロ・タイプ7の話を聞くに、前のコアの所有者――ダンジョン・マスターはこの砦地下の神殿の守護者だったと言う。


 時間経過については不明だが、かなり昔のようだ。月日が流れ、訪れる者のいないこの地下神殿で、やがてマスターは死亡。その人物の遺言にして最後の命令が、『侵入者を排除せよ。だがその者が障害を排除し、お前のもとにたどり着けたなら、新たなマスターとして仕えよ』らしい。


「つまり、どういうこと?」


 アーリィーが聞いてくる。俺は肩をすくめた。


「このダンジョンの報酬は、このコアってこと」


 おお、とユナが目を見開いた。


「では、お師匠はこのダンジョンの主に?」

「こんな地下神殿をマイホームにする気はないよ」

『お言葉ですが、マスター。あなたはこのダンジョンの主となりました。ゆえにここから離れることはできません』


 え? と声を出したのはアーリィーとサキリスだった。


「それって、ジンはここから出られないってこと?」

「んなわけあるか。前のマスターの命令を混同しているんだろう。……マスター権限、俺の命令あるまでダンジョン化を即時解除」

『それでは魔力を獲得できません、マスター。ダンジョンの生成ならびに、ガーディアンの配置ができなくなりますが?』

「構わん」

『命令確認。ダンジョン・テリトリーの即時解除を実行します』

「どういうこと?」

「このコアのダンジョン圏……いわゆるダンジョン・テリトリーを解除するということは、ここはダンジョンじゃなくなるってことだよ」 


 さてさて――俺はサフィロ型ダンジョンコアを両手で掴むと、ストレージにしまう。


「しばらく待機モードで眠っておけ」

『承知しました、マスター』


 うーん、ほんと人工のコアって機械みたいだ。待機モードって言葉が通じるってのも何だかなぁ……。やはり機械文明のディアマンテに近いか? 彼女はもっと人間らしい会話もできるけど。


「お師匠、何をしているんですか?」

「ここは神殿だと言う。まだ部屋があると思わないか? 前のマスターはどこで生活していたと思う? 探索は冒険者の基本だろう?」

「そうですね」


 ユナは同意した。探索と聞いて、アーリィーがワクワクした顔になる。彼女は古代文明に関係するものが好きなのだ。

 一方で、マルカスは複雑な表情になった。


「墓荒らしの真似事をするのか、ジン?」

「物による」


 俺は即答した。


「お宝になりそうなものがあれば回収する。宗教的過ぎるものだったら触らない」


 サフィロにここのことを詳しく聞いておけばよかった。女性ボイスだったから彼女としておくが、サフィロを取り出して聞くか……?


 ベルさんがさらに奥へ通じる通路を見つけた。そこには教会と思しき祭壇があって、さらに前のマスターが住んでいたと思える部屋があった。


 探索の結果、回収できたものは、水属性オーブ付きの杖が三本。同じく水属性の魔法金属で作られた剣、槍が六本ずつ、兜、甲冑、盾が同じ数ずつ。……まあこれは鎧飾りでセットで並べられていたやつだが。


 あとは箱詰めになった金貨。ヴェリラルド王国のゲルド金貨ではないが、いつの時代のものやら。換金できれば、それなりの額になるだろう。


 紙や布の類は劣化が酷く、記録になりそうなものはない。前のマスターの死体はなく、衣服などはボロボロだった。いったいどれだけ放置されていたのだろうか。


 あと水の神様だろうか、祭壇奥の人型には触れずにおいた。


 これにて、ルイーネ砦の地下、神殿の探索終了。コアを回収したので、魔獣が出ることもないだろう。あとは地下四階の入り口さえ閉じておけば、魔法騎士学校の演習授業でも問題は起きないだろう。


 ああ、そうそう、例の超巨大ワニな。サフィロを回収したことでダンジョン効果が消えたため、吸収されることなくその場に死体を横たえたままになっていた。せっかくなので解体。その巨体ゆえ、おそろしく手間取ったが……。



  ・  ・  ・



 ルイーネ砦地下を出た時、ベルさんが天を見上げた。


「どうした、ベルさん?」

「……嫌な雰囲気だ。空気がヒリついてやがる」


 そうか? まあ、何となく静かだなって思うが――


「ちょっと行ってくる」


 その瞬間、ベルさんの姿が黒猫から漆黒のドラゴン姿に変わった。翼を羽ばたかせて、あっという間に風となって飛び去った。


「ええっ!?」


 マルカスとサキリスが素っ頓狂な声を上げた。ユナも珍しく目が点になっている。


「ド、ドラゴンですよね、今の……!?」

「ベルさんが変身できるのは知ってるだろ」


 黒猫から人型、いつもの暗黒騎士姿は、ここにいる全員が見ているだろうに。


「で、でもドラゴンは初めてだ!」

「そ、そうですわ!」

「はいはい。ベルさんはドラゴンにもなれるんですー」

「ジン、初見じゃビックリするのはしょうがないよ」


 アーリィーが苦笑する。それもそうか。


 さっさと、キャンプ地まで戻ろうぜ。


 ということで、15分ほどかけて、演習場のキャンプに戻った。空からベルさんドラゴンが突っ込んできた。


「ジン!」

「おやおや、お帰り」

「ちょっと面倒なことになったぞ。モンスターの大群だ」

「何だって?」


 俺の後ろで皆が息を呑む。ベルさんは報告した。


「ゴブリン、オークその他総動員で王都方向へ北上中だ! 凄かったぜ、まるで黒い

海が平原を覆い尽くすみたいに広がっていたぜ」

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