第186話、冒険者になろう!


 学生を冒険者にすることについてユナに確認したので、適当なところで、訓練を切り上げた。


 アーリィー、サキリス、マルカスに俺は告げた。


「ダンジョンや野外で実戦の経験を積むから、冒険者登録するぞ」


 もとから実力アップのために冒険者になりたがっていたマルカスは、待ってましたとばかりに頷いた。


「サキリス、お前は強くなりたいんだったな?」

「もちろんですわ」


 冒険者になり、実戦を潜り抜ければ、大物魔獣を倒して武勲を立てることもできるだろう。お飾りとしてではなく、本当の意味で魔法騎士を名乗るにふさわしい功績を上げられるかもしれない。


「やります!」

「よろしい」

「あのー、ジン?」


 アーリィーが恐る恐る言った。


「ボクも、冒険者登録してもいいのかな?」


 学生ふたりは驚いた。


「アーリィー様も!?」

「だ、大丈夫なんですか、それは?」


 まあ、大丈夫じゃないかな。俺は首を傾ける。


「ギルドでも、王子殿下がダンジョンに行ったことがあるのは知っているし、先方には俺から言えば解決するだろ」


 サブマスのラスィアさんにねじ込めば、アーリィーの冒険者登録もできるだろう。できなければ、その時はその時。これまで通り、俺たちと同行すればいい。それなら必ずしも冒険者登録は必要ないもんな。……自己責任ではあるが。


「じゃあ、これから冒険者ギルドへ行くので、校外用の格好に着替えてここに戻ってきてくれ」

「今からですの!?」

「まだ日が出ているからな。今日、登録を済ませておけば次の休日にはダンジョン探索ができるぞ」


 ほら、行ってこい。俺が手を叩くと、マルカスとサキリスは自分の寮へ戻って行った。


 さて、俺らも着替えようかね。


 俺はいつもの魔術師。アーリィーはカメレオンコートをまとい、フードで顔を隠している。王子様は王都では有名人だからな。


 ベルさんは黒猫姿。ユナは、これまたいつもの格好。教官は制服がないから、割と自由。何も知らない人から見れば、魔術師にしか見えない。


「……」

「何です? 今日はちゃんと着ていますよ」


 以前、擬装魔法を使って、あたかも服を着ていますよ演出しながら、下着姿で授業やったもんな。王都を歩くのにさすがにそれはない。


 オリビア隊長に出掛けてくる旨を伝えたところで、サキリスとマルカスは学生服の上に外出用の外套をまとい戻ってきた。帯剣はしているが、鎧の類はつけていない。


 準備できたので俺たちは、魔法騎士学校へ向かう。今回は教官であるユナがいるので、正門から出た。生徒には外出許可が必要だが教官同伴であれば必要ないらしい。


 いざ出発。



  ・  ・  ・



 俺たち一行は冒険者ギルドへ到着した。


 一階フロア正面は、例によって冒険者が行き交い、依頼を探したり、またその結果報告で報酬を受け取ったりしていた。


 ちらちらと俺たちのほうを見る冒険者たちがいるような。学生連れているから目立つよな。マルカスが広々とした一階フロアを眺めて息を呑む。


「ここが冒険者ギルド……」

「思っていたより綺麗ですわね」


 サキリスは片方の眉をつりあげた。


 蛮族か盗賊のアジトじみたものを想像したのかね。まあ冒険者は荒くれというかアウトローな偏見を持たれることもあるから、無理もないかもしれない。


 カウンターへ向かう。のほほんとした空気をまとうマロンさんが俺に気づいた。


「ジンさん、こんにちは」

「どうも」

「今日はどのようなご用件ですか? 依頼をお探しですか?」

「いや、俺の連れの冒険者登録をお願いしたくて」

「……はあ、学生さんですか」


 マロンさんが、マルカスとサキリス――さらにフードで顔を隠しているアーリィーを見やる。


「何か問題が?」

「いえ。でもそうですね……私より、ラスィアさんにお願いしたほうがいいかも」


 俺に一礼するとマロンさんは、副ギルド長を呼びに行った。待っている間、ユナが俺のところにきた。


「実は、ラスィアは私と同じパーティーにいました」

「そうなのか?」

「先日、話した時にお師匠の話を聞きまして」


 ほーん。何を話したか気になるね。


 そこへマロンさんが戻ってきた。ラスィアさんも一緒だ。


「ジンさん、談話室を用意しましたので、そちらへ。もちろん、お連れの方々もご一緒に」



  ・  ・  ・


 談話室に通された俺たち一行。ラスィアさんが椅子を人数分用意して、座るように言うと、自身も向かい側の席についた。一瞬、ユナを睨んだように見えたが、すぐにいつもの表情に戻った。


 ひとりベルさんは黒猫姿で机の上にちょこんと座っている。


「学校でもご活躍のようですね、ジンさん。学生の冒険者登録と伺っていますが……ユナが一緒ということは、学校側の問題はないようですね」


 本当に知り合いなんだな。俺は頷いた。


 用件であるアーリィー、サキリス、マルカスの冒険者登録の話を改めて俺はした。実戦経験積みと、ちょっとした武勲目当て。


 ラスィアさんは穏やかな口調だったが、目は真剣そのものだった。


「ジンさんには改めて言うまでもないのですが、冒険者というのは危険な職業です。実際に受ける依頼で異なりますが、怪我なんて珍しくありませんし、命を落とすこともよくある話です」


 アーリィーたち三人をゆっくりと見渡すラスィアさん。


「確かに経験を積むというのに打ってつけではあるのですが、生涯残るかもしれない傷を負ってしまう可能性を充分に考慮されたうえで、判断していただきたい。私たちギルドは、冒険者が怪我をしようが、命を落とそうが何の責任もありません。もちろん命令はしませんから、何をするにしても自分で判断し、すべて自分で責任をとってください――と、騎士学校の生徒さんには登録前に言っています」


 ラスィアさんは笑顔になると、登録用紙を用意した。


「お話を聞く限り、ジンさんが監督者を務めるようなので、あとは当人の同意さえ得られれば登録できます」


 ……そこは、ユナじゃないのね。教官無視して俺が監督者なんだってさ。

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