第185話、候補者たち
ユナ・ヴェンダートは、アクティス魔法騎士学校の教官であり、同時に冒険者でもあった。
俺に弟子入りを希望した後は、よく俺のもとへ来て魔法について教えを乞うた。アーリィーにも魔法指導をしているし、そのついでならよかったのだが、問題はそれ以外の時だ。
アーリィーがルーガナ領へ領主の仕事をしにポータルを使っているのも、早々に知るところになり、ユナも辺境領へ行き来し、コバルト武器やルーガナ領の有人型ゴーレム――パワードスーツなど、未知の品々に感銘を受けていた。
「やれやれ、主も困ったものよな」
ウェントゥス地下基地で、ディーシーは苦笑した。俺も口元を歪める。
「まったくだよ。おかげで、昼間はこっちへ来れない」
ユナがしつこくつきまとっているせいで、この秘密拠点やカプリコーン浮遊島軍港に行けない。トップシークレットだからね、ここの存在は。
「仲間に引き入れてしまえば、気にしなくてもいいんだがね」
反乱軍の同志となれば話は変わる。
「使えそうなのか?」
「学校で高等魔法を教えている。……まあ、実戦での彼女は見ていないが、冒険者のランクはAだそうだ」
「悪くない人材だな」
「俺のところで指導を受けたいって来ている学生がいる。それと一緒に実戦にぶちこんで試してみる」
学生というのは、マルカスとサキリスだ。
「使えそうなら、仲間に引き入れるつもりだ。俺たちも暇じゃないんでね」
大帝国が隣国を押さえたら、このヴェリラルド王国に矛を向けてくる。それまでに可能な限り、準備を整えておかないとな。
「信用できるのか? 我らの兵器を見せても問題はないか?」
「それを見定める必要がある。ただ、個人的にマルカスやサキリスは、国の大事とあれば率先して戦うタイプに思える。そういう人間なら、積極的にこちらに引き入れたい」
いざ戦争が始まった時、敵魔人機や飛行軍艦に為す術なくやられる時代遅れの軍勢にいるより、対抗可能なうちにいたほうが、遥かに役に立つというものだ。
「そのユナという教官は?」
「それがよくわからない。魔法のことにはうるさいが、それ以外はとんと無頓着だからな。使える人材であってほしいね」
「まあ、そちらはそちらで頑張るのだな、主。こっちの面倒は我が見ておく」
「頼むぞ、ディーシー」
俺は、後を任せると、青獅子寮に戻った。
・ ・ ・
翌日、放課後。俺たちが寮に帰宅すると、サキリスとマルカスが競うように同時にやってきた。……変なところで張り合っているんだな。
マルカスが3回目、サキリスが2回目。つまり午後の訓練について、お互い顔合わせは済んでいるというわけだ。
俺とアーリィー、そして人型に化けたベルさんでお出迎え。青獅子寮の裏庭で、すでにふたりの学生は柔軟をやっていた。感心感心。
「じゃ、まずは軽く勝負するか」
基本など、すでにこのふたりの学生は3年以上やっている。学年で剣技については、トップレベルなのだ。
「俺とサキリス、ベルさんとマルカスな」
「わかりましたわ!」
俺と戦えると聞いて笑みを浮かべるサキリス。暗黒騎士姿はないが、人型のベルさんは褐色肌に屈強な体をしていて、マルカスより断然強そうな外見だ。
「ようし、マルカス坊や、相手をしてやる」
「よろしくお願いします!」
マルカスは、ベルさんと模擬戦を経験済みである。そこで圧倒的差を痛感しているので、不満どころか願ってもないとばかりに熱が入っている。
そうやって魔法と絡めた剣術をやるわけだが、俺は容赦なく攻撃を打ち込んだ。彼女が学生として上手いのは知っている。だから、それ以上のものを見せてやらねば意味がない。
学校の外には、強い奴がごまんといるのを知っている。それを見て悔しいと思っているのだから。
結構厳しめでやっているのだが、弱音を吐かないのは大したものだと思う。貴族令嬢ときたら、痛いのが続くとさっさと泣きが入るかも、なんて思っていたんだけど、偏見だったみたいだ。
「平気か?」
「痛いですわ。……でも、この痛みを好きにならねば強くなれませんわ」
ゾクゾクっとした表情で言われると、完全にアレだよな……。何か間違っている気がしないでもないが、痛みで戦意を喪失しないのは、悪いことではない。
そうこうしているうちに、ユナがやってきた。どうやら教官のお仕事はおわったらしい。仕事を放置してくるなと俺が釘を刺したからね。
「アーリィー、俺と交代して、サキリスの相手を頼む」
「わかった!」
アーリィーが準備を始める中、サキリスはハンカチで汗を拭いながら言った。
「……今回10回は打ち込まれましたから、10回分、お仕置きをお願いします」
「キッツイのを考えておくわ」
「よろしくお願いします」
にこやかな顔のサキリス。内容が全然アレなんですけどね。わざと手を抜いていないのはわかっているが、こんな調子でやってたら、罰の数が三桁行きそう。
「お師匠」
ユナが来たので、訓練の邪魔にならない場所へ移動して立ち話。
「あのふたりをダンジョンで鍛えたいんだが学生だ。冒険者に登録する時、何か必要なものはあるか?」
ユナは教官である冒険者である。双方に通じているからこその相談だ。
「いえ、学校側では特に」
「そもそも冒険者登録は、本人が希望すればなれますから。この学校に入る前に冒険者をしている子もいなくもありませんし」
「案外緩いんだな。学校は生徒を預かっているだろう?」
「そもそも学校の外へ出るには外出許可がいります。生徒が王都に出ること自体、簡単ではないのです」
ダンジョンにも行くもなにも学校外へ出るのが難しい、ということか。そういやそうだったな。だから俺たちが外に出る時って門を使わずにポータルで移動している。
「サキリスとマルカスをダンジョンに連れ出すのは、学校的にマズイか」
「言わないほうがいいでしょうね」
ユナは淡々と答えた。
「問題になりそうなことにはうるさいですから」
「そりゃそうだろうな」
学校だもの。貴族生の親から文句言われたくないだろうし。
「ただ、教官がついての課外授業という形なら、一応許可は取れます。その代わり、何かあったら、その教官のクビが飛びますが」
「よかった。当然、あなたも同行してくれるんだろうね、ユナ教官?」
「……」
ユナの目が泳いだ。俺は囁く。
「俺の魔法を実戦で見るチャンスだぞ」
「やります……!」
即答だった。無表情先生の鼻息が荒い。本当、魔法のこととなると食いつきがいいよな。
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