第182話、立場逆転。どうしてこうなった……
「
アーリィーが小首を傾げた。
青獅子寮、俺の部屋である。杖を製作しながら答える。
「デバステーター・ロッド。まあ、ちょっとおかしな杖さ。普段から宙に浮いていて、はたから見ると持ち主に付き従うペットみたいに見える」
素材は古代樹の枝をベースに、オリハルコン、炎のオーブに氷属性の大魔石、火竜の牙が三つに、少々のミスリルと装飾の黄金。
「古代樹って、確かジンの持っている杖がそうだよね」
「よく覚えていたね」
「でも、それ以外は見たこともない素材だらけだ」
アーリィーが俺の手元を覗き込む。
「レアな素材ばかりだからな。集めるだけで一苦労さ」
俺は思わずクスリと笑った。アーリィーが俺に顔を向けた。
「どうしたの?」
「ちょっとした思い出し笑い」
その集めるだけで大変な素材を、ユナ・ヴェンダートは所有していた。
放課後、ユナ先生に呼び出された俺は、そこで合成魔法を披露することになり、彼女の用意した素材を見せられた。
希少な素材をこれでもかと集めたそれに圧倒される思いだったが、同時にどれも見覚えのあるものばかりだと気づき、ふとこれの完成形が頭の中に浮かんだ。
間違いない、蹂躙者の杖に使った素材だ、と。
何故、ユナ先生が素材をすべて知っていたのかは疑問であるが、一度作ったものである以上、組み上げるのに苦労はなかった。……膨大な魔力を消費するという点を除けば。
ええ、合成しましたよ。作ってあげましたともさ。おかげで俺はヘロヘロになりながらやり遂げ、ユナ先生は完成した蹂躙者の杖を、キラキラした目で見つめ、手にとり、振っていた。まるで魔法少女に憧れる少女がスティックを振り回すかのように。
なかなかシュールな光景だったよ。
「それはお疲れさまでした」
アーリィーが俺の背中に抱きついてきた。
「魔力、回復する?」
「お願いしようかな……」
俺も彼女に元気にしてもらおう。
・ ・ ・
翌朝、俺たちが朝食を摂っていると、食堂にメイドのネルケがやってきた。アーリィー付きの専属従者である。
「お食事中、失礼致します。……ジン様、お客様が見えられております」
「客……?」
俺に? こんな朝早く?
「学校の教官で、ユナ・ヴェンダートと名乗っておりますが」
ユナ先生が? 昨日、魔法杖を作ってあげたのだが……。返品とかじゃないだろうな。悪い予感しかしない。
「いかが致しましょう?」
「あー、会いに行きます」
俺は席を立った。そもそも遅刻がちなユナ先生が、朝一で来るなんてよほどのことだろう。お待たせするのも何だし。
玄関で待っているとのことなので、俺はひとり青獅子寮の正面玄関へと向かう。
ユナ教官は、魔女帽子にいつもの魔術師ローブ姿だった。例の蹂躙者の杖は彼女の後ろに立っていた。
おはようございます、と互いに挨拶もそこそこに。
「こんな早くからなんて、何かあったんですか、先生?」
「ジン君」
心持ちかいつもより神妙な調子のユナ先生。彼女は次の瞬間、両膝を床につくと、バッと頭を下げた。
「弟子にしてください」
「は? え……?」
俺、困惑。目の前の美女魔法使い教官が、異世界で土下座をやらかしたのだ。
弟子に、って? ユナ先生が、俺の? ……なんで?
・ ・ ・
ユナ教官が、俺に弟子入りしたと聞いたとき、アーリィーは、たっぷり数秒ほど固まった。どう反応していいものやら困った様子だった。ベルさんなどは大笑いした。
「お前、また何かやらかしたろ?」
「頼まれた魔法杖を作っただけだよ」
「昨日言ってた、デバステーターロッド?」
アーリィーが聞けば、ベルさんは口をあんぐりと開けた。
「アレを作ったのか?」
「まあ、素材が揃っていたからね」
「ほーん」
ベルさんはそれ以上何も言わなかった。呆れられただろうか。
さて、学校である。適当にやり過ごした後 選択授業の時間。その高等魔法授業で事件が起きた。朝、俺に弟子入りしたユナ・ヴェンダート教官は、何を思ったか、授業開始と共に、俺を教壇に手招きした。
「みなさんにご紹介します。高等魔法授業、特別講師のジン・トキトモ君です」
「……っ!?」
しん、と教室が静まり返った。この巨乳先生は何と言ったか? 特別講師、だと……! んな話聞いてないぞ!?
俺はもちろん、ぽかんとする生徒たちを無視し、ユナ先生は近くの空席に座った。
先生と生徒の立場が逆転した! どういうことなんだよこれ。聞いたことねえぞ!
「お師匠、授業をお願いします」
いや、お願いしますって……。どんな無茶振りだよ。なんで俺が生徒のために教鞭をとらねばならんのだ。授業の段取りとか、そもそも今日の授業内容もわからないというのに。
「あー……」
これはあれか。生徒に教師役をやらせることで、その生徒が授業内容をどの程度理解しているか見るとかいうやつだろうか。何か小学校の頃に、人前で説明する練習も兼ねた発表じみた授業をやった覚えがあるぞ。
「ユナ教官、俺はいったい何を教えればいいのですか?」
「はい」
銀髪の女教官は、生徒のように手を挙げた。はい、ユナ君。
「お師匠は、魔法をいくつ扱えるのでしょうか?」
「いくつって……数えたことはない」
10や20程度ではないのは確かだろう。
「正直言うと、使ったことがない魔法もいっぱいあるから、それらを含めるといくつ使えるか、という質問には答えようがない」
そもそも魔法とは――俺の魔法授業が始まった。いわゆるベルさんとの契約で得た想像魔法と魔族の使う魔法についての話であったが、気づけば一時間、俺は普通に授業を行っていた。
……実は、連合国にいた頃、ウーラムゴリサ王国の魔法学校で、臨時講師をやったことがあるんでね。
クラスで模擬戦をやった時に、俺が変わった魔法や威力の高い魔法を使っているのを目の当たりにしている生徒が多かったせいか、反発はなく、むしろ同学年と思っている連中からより活発なやりとりを繰り広げることとなった。
なお、授業の終わりのチャイムが鳴っても、皆からの質問攻めは続き、なかなか授業が終わらなかったことを付け加えておく。
終わってから、改めて思った。何でこうなった?
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