第180話、ユナ・ヴェンダート
魅惑の4時間目が修了。……ユナ教官は美人ではあるけど、色気もへったくれもないそっけない先生である。
はい、授業終了。ということで、例の擬装魔法で一応制服着てますのサキリスの罰ゲームも終わり。
「ご苦労様でした。帰って服を来てね。たぶんあと1時間したら、その擬装魔法が魔力切れで崩壊するから、下着姿を皆に披露したくなければ、さっさと着替えてね」
でないと、君の妄想ノート通り、皆の前で露出趣味さらしちゃうよ?
「っ! ……で、では本日はこれにて失礼いたしますわ。ごきげんよう」
顔を真っ赤にして帰宅するサキリス。……何か疲れた。
「大丈夫、ジン?」
アーリィーが苦笑している。
「やり方は多少アレだけど、少し魔力眼が使えるようになってきた!」
王子様の感情は、サキリスの罰より新しい魔法を覚えたことのほうが優先されたようだった。
「それはよかった。飯を食ったら、マルカスと合流して――」
「ジン・トキトモ生徒」
俺の名前を呼ばれた。見れば、授業が終わったらさっさと帰るはずのユナ教官が、こちらへとやってくる。
魔力眼復活。ローブの下は、やっぱり下着姿。凶器の胸部装甲。
「これから時間をもらえないかしら?」
「これから、ですか?」
「そう」
コクリ、とユナ教官は頷いた。……ベルさん、そんなに一部を見つめてやるなよ。
「急ぎの要件ですか?」
「割と」
「そうですか」
俺はアーリィーとベルさんを見た。
「悪い。見ての通り、遅れるかも。マルカスがきたら、適当に訓練はじめてて」
「わかった。――行こう、ベルさん」
黒猫を抱きかかえて、アーリィーが教室を出る。
ユナ教官は、俺についてくるように言った。どこへ連れていく気だ、この人。教師からの呼び出しにいい予感なんてないんだよな。
「ひとつ聞いてもいいですか、教官」
「なに?」
「どうして、服を着ていないんですか?」
「……なんのこと?」
「擬装魔法ですよね。前回はきちんとドレスだったのに、どうしたんですか?」
「あなたには見えるのね。ごめんなさい。遅刻寸前だったものだから。……まさか擬装魔法を見破る生徒がいるとは思わなかった。次からは気をつけるから、他の教官には黙っていてくれないかしら?」
「えぇ、黙っておきます」
別に通報する義務はない。
・ ・ ・
連れてこられたのは魔法科準備室。魔法授業用の魔道具や資料が置かれた小さな部屋だ。
「そこに座って」
ユナ教官に椅子を勧められた。なんだなんだ、二者面談か?
「さて、ジン君。君は魔法具の修繕ができるそうね?」
テディオの魔法具を直したことは、他のクラスにも伝わっていたから、教官の耳にも入ってのだろう。他にも何人かの魔法具を直したし、驚くことではない。
「ええ、まあ」
否定しても即バレる嘘はつかない。ユナ先生の表情は、正直何を考えているのかわからなかった。
「具体的には、どうやって修繕したの?」
「傷を埋めるべく、素材を用意して、あとはそれらが壊れる前の状態に戻るよう合成しました」
「合成……」
「ええ、合成です。元からひとつの合金であったように融合させて、傷そのものをなくすという感じです。ただ傷を埋めるだけでは、その部位が弱くなるので直したとは言えないので」
武器の修理が難しいのはそこだったりする。折れたり欠けたり割れたものは、作り直すしかなく、普通にやったのでは元には戻らない。
「あなたは、合成による武器を作る魔法が使える……そう言うのね?」
「ええ、そうなりますね」
嫌な予感しかしないが、嘘をつくタイミングを計りかねている。とりあえず、やり過ごす方向に、俺はもっていきたい。
ユナ先生は、机の上に並んでいるものを指差した。
「ここに素材があります」
「はい」
「これを使って、杖を作ることができる?」
「武具合成で?」
「武具合成で」
要するに実演しなさい、と言うことだろう。さて、困った。できなくはないが、またドカっと魔力を喰うぞ。
「できない?」
ユナ先生は首を傾げた。無表情でそれやられると、ちょっと怖い。というか、ちょっとがっかりしてません?
できるできないで言えば、できるが。……俺は、ちらりと、目の前に座る女教官の、その胸を見る。
「あー、せんせ――教官。魔法を使うには、魔力を消費します」
「ええ、そうね」
「この手の武具合成だと、相当の魔力を消費します。やってもいいですが、見返りをいただきたい」
「見返り……? 何かしら。お金? それとも単位?」
「どちらも結構です。魔力をいただきたい」
キョトンとするユナ先生に、俺は魔力吸収について説明した。手っ取り早いのは、直接身体を触れ合わせる行為である。……先生の、豊か過ぎる胸をあまり見ないように。
ベルさんは、言いました。相手の受け入れ難い条件を突きつけることで、相手から諦めさせることができると。
そう、俺は何とかこの合成の件を回避しようとしている。ハラスメント回避! さあ、断ってくださいよ……!
「なるほど」
ユナ先生は頷いた。
「いいわよ」
はい?
「わたしの前で武具合成の魔法を見せてくれたら、色々してあげる」
……どうしよ。
何でこうもあっさり認めるんだよ。失念していた。この人、魔法にしか興味がないって話を。
じっと巨乳先生は俺を見つめてくる。無表情なのに好奇心がビンビン伝わってくる目。もはや冗談でした、では通じそうにない空気を感じた。
結局、俺は武具合成魔法を使い、ユナ先生が揃えた素材を使って、彼女の望む魔法の杖を作り上げた。ハラスメント回避の責任をとって。
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