第177話、幸福家庭の破壊者
悪い魔法使いが、魔法で王子様の姿を変えてしまう、というお伽話はきいたことがあるが、王女様を王子様にしてしまうなんてことが実際にあるとはな。
わかってしまえば、こんなものだ。俺は苦笑するしかない。これに人生を振り回されることになったヴェリラルド親子には、まことに不幸である。
それで命を狙われることになるアーリィーには、不幸の一言では済まないが。
「さて、これからどうするよ、ジン?」
「魔法には魔法……だろうな」
俺は黒猫姿の魔王様を見やる。
「とりあえず原因がわかったなら策を練るまでだ。問題なのは、そのフォリー・マントゥルという魔術師だ」
「アーリィー嬢ちゃんの性別を知っている野郎だな」
「諸悪の根源だな」
いったいどんな奴だろうか。
「こいつが今どうしているか。まだ生きているのか知りたいな」
「エマンの話じゃあ、嬢ちゃんが生まれた頃ですでに年寄りだったっていうぜ」
「でも行方不明なんだろう?」
俺はニヤリとした。
「連合を抜けた俺たちみたいに、どこかで生きているかもしれん。それに、ご年配って言ったって、ベルさんほどじゃないだろ?」
「確かに。オレ様と比べたら、爪先に溜まった垢みたいなもんだ」
この魔王様が数百、何千年生きているのか俺は知らない。
「まあ、人間なら生きていないかもだけど、ドワーフやエルフだったりしたら、まだまだ生きているかもだろう?」
「そうか。人間とは限らないわけか。そいつは盲点だったぜ」
ベルさんが苦笑した。
「アーリィーの性別を知った奴が野放しってのはよろしくない」
「だな……。はて、それはオレたちも同じじゃないか?」
「気づいてしまったか」
俺は皮肉っぽく口元を緩めた。
「だから、彼女の性別を知っているって俺たちのことがバレたら、暗殺者を差し向けられるんだぞ」
だが俺たちはアーリィーを助けたい。フォリー・マントゥルは一度王族を騙している。何かあれば、このネタで王国を脅すこともできる立場にいるのだ。
「アーリィーが女の子として生きられるようにするために、当面やらなきゃいけないことは、二つだ」
「二つ?」
「フォリー・マントゥルの所在を突き止め、必要なら処理をする。そしてエマン王の心証の誘導」
「マントゥルの処理はわからんでもないが……心証の誘導ってのは?」
不思議がるベルさんに、俺は答える。
「アーリィーを殺さない方向へ持って行く」
円満な解決を考えるなら、親子で戦うことになるのは一番よろしくない。今はアーリィーは父親を敵と気づいていない。であるなら、彼女を排除しようとしている父王の気持ちさえ変えることができたなら、最上のエンディングに持って行く可能性があるということだ。
が、そのハッピーエンドに導くには、諸悪の根源であるフォリー・マントゥルの存在がどうしても邪魔である。これに関わる部分を確実に解決しておかないと、幸せ家族計画が崩壊する危険性が常に存在してしまうのだ。
「まあ、もうくたばってくれていれば楽なんだけどね」
だがそれを確かめないといけない。さて、どう探りを入れるか。……そうだ。ルーガナ領で暇しているアイツを使うか。
・ ・ ・
ということで、ルーガナ領、ウェントゥス地下基地にて、ソイツに声を掛ける。
「フォリー・マントゥル……どこかで聞いた名前だ」
サヴァル・ティファルガはその端正な顔立ちを歪めた。Aランクの暗殺者であり、傭兵でもある男。王子暗殺に雇われた一人だが、色々あってこちらについた。
「ご高齢の魔術師なんだがね、こいつがまだ生きているか調査してもらいたい」
「どうせ暇だろう?」
俺に続いてベルさんが皮肉れば、サヴァルは肩をすくめた。
「いやいや。ウェントゥス団では色々覚えることがいっぱいで、そう暇でもないんですよこれが」
「そういえば、魔人機を動かしてみたんだろ」
「いや、凄いですよね」
サヴァルは素直に頷いた。
ここにいる間にナイトタイプパワードスーツや、魔人機ウェルゼンの操縦を覚えた。魔法が使える人間ということもあり、ウェントゥス勢では貴重な魔人機操縦能力を持っていた。
「こんなものを大帝国も持っているっていうんでしょ。ヤバイですよ」
「まあな」
それに対抗するために武器を揃えているんだ。こっちを知ったからには、お前にも働いてもらうぞ。
ベルさんが口を開いた。
「そういえば、お前さん。新しい武器を作ってもらったってな」
「ああ、魔法銃ですね」
サヴァルは机の上に、銃身が長めの拳銃型魔法銃を置いた。シェイプシフター兵たちが使うライトニングバレット魔法銃より小型だ。
「片手で使えるものに調整してもらいました。呪文を詠唱せずに素早く攻撃できるってのはいいですね。気に入ってます」
「魔術師に先手を取られない限りは、たぶん銃のほうが速い。だが油断はするな」
俺は指摘しておく。
「弾は結局のところ魔法だ。相手がミスリルの防具を持っていたり、防御魔法を張っていたら、最悪無傷もあり得る」
「はい。過信はしないようにします」
サヴァルは魔法銃をしまった。
うん、それより本題だ。
「マントゥルの調査、やってもらえるね?」
「団長の命ずるままに」
「シェイプシフターを貸してやる」
「それはありがたい。彼らは非常に優秀ですから」
サヴァルは、ここ最近のシェイプシフター兵との交流で、その可変性にいたく感心しているようだった。
「頼んだぞ」
「承知しました」
サヴァルは恭しく一礼した。
「しかし、その魔術師はいったいどんな人物なんです?」
「さあな。わかっているのは、百年に一人の天才らしいってことと……」
俺は皮肉る。
「悪党だってことくらいかな」
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