第173話、自ら蒔いた種
サキリスの模擬剣に強力な雷属性が加わる。見た目からして、最初の時より威力が高められている。
「ほう、学生と思っていたが、なかなかどうしてやるじゃないか」
ただし、当たると洒落にならないけどね!
振られた一撃が空を切る。あまり威力を強められると感電死の可能性も高くなるんだが、さすがに、お遊びじゃ済まないなぁこれは。
元より高飛車サキリスの鼻をへし折り、教育してやるつもりだったけど、ちょっと本気を出してあげましょうかね。
身体強化。
無詠唱で魔法発動。力、スピード、物理耐性その他もろもろアップ。
一歩を踏み出す。その刹那の間に、俺はサキリスの眼前にいた。
「っ!?」
模擬剣の一撃が、彼女の胴に入り吹き飛ばした。
「はい、サキリス。あんたは死にました。とっとと降参しろ」
強くやり過ぎて、立てないかと思ったが、サキリスは咳き込みつつ立ち上がった。ガッツあるなぁ。足がプルプルしてるけど。
「負けを認めたほうが楽になるぞ?」
「……誰が……」
サキリスは剣を拾う。体に力、入ってるのかな?
「さっさと負けを認めれば、痛い思いをしなくて済むぜ」
もはや勝負にならなかった。サキリスの攻撃は空振り。一方で俺の模擬剣は彼女の身体を叩き続けた。
何度転ばせただろうか。彼女の綺麗な金髪も、その白い肌も土にまみれ、汚れていく。
ほぼ一方的なものに変わっていった。気絶させても勝ちなんだけど、この娘、なんつータフさだよ。大の大人でも、ぶっ倒れていてもおかしくないのに。
「ふふ、この程度……ですの……?」
激しい呼吸。消耗しているのは誰の目にも明らかなのに、サキリスは立ち上がる。
「足りませんわ。もっと……もっと打って、わたくしを倒しなさい!」
何だかまだまだ元気そう。というか、ハイな状態になってるな。苦しいけど、気持ちよくなっているっていうか。単にドMなのかもしれないな。
威勢はいいが、誰がどう見ても俺の勝ちだと思う。だがルール上、降参するか気絶するまでつかないことになっている。
死ぬまで諦めないつもりだろうか? 言い出した手前、裸で学校一周やりたくない一心かもしれない。まあ、因果応報だ。人を挑発したお前が悪い。
さすがにこれ以上長引くと、美少女痛めつけてる悪者みたいになるからさっさとケリをつけよう。ギャラリーも一方的過ぎて引き始めてるしな。まあ、実力差はわからせられただろう。後はこいつに現実を受け入れさせるだけだ。
俺は腹に一撃をぶち込むふりして、スリープの魔法を使ってサキリスを眠らせた。補助魔法は自由ってルールだ。怪我も痛みもないので、攻撃魔法ではありませーん。
かくてこの不毛な模擬戦に決着がつけた。
・ ・ ・
学校の医務室に俺はいた。
別に怪我をしたわけじゃないし、仮に怪我しても治癒魔法で何とかなる俺がここにいる理由とくれば、模擬戦で負かしたサキリスである。
彼女は眠り姫よろしくベッドで寝かされている。なお治癒魔法を使える医務室担当官(養護教諭とか教官ではないらしい)には、こちらもお眠りいただいた。
他の生徒たちがクラブ活動に勤しみ、アーリィーはベルさんと先に帰った。俺も帰ってよかったのだが、なにぶん妙な言いがかりで始まった勝負である。きちんとわからせられたかの確認は必要だろう。
それでも事と次第によっては制裁も考慮しなくてはならない。そこで、他の生徒が散ってしばらくのタイミングで、強制的に魔法で起こすことにしたのだ。
「おはようございます、サキリス嬢」
「…………」
胡乱な目のまま起き上がるサキリス。ちなみに彼女の防具は、専属のメイドと名乗るクロハという黒髪女性が脱がし済みである。なお、そのメイドさんは医務室の外に待機していらっしゃる。
「わたくしは……負けたのですね」
覚醒してしばし、サキリスは諦観したように言った。俺は頷く。
すると、彼女はゾクリとくる笑みを浮かべた。強張っているようであり、しかしどこか楽しそうな。ちょっと狂っちゃってるような。
「初めて負けましたわ。ええ、わたくしを負かす者がようやく……」
じゃあ、その鼻っ柱は折ることはできたかな。
ちら、とサキリスの瞳が俺を見た。
「それで、貴方は勝者として、敗者であるわたくしの末路を見るために残っていらしたのね」
なんだ、末路って。
「わたくしは……ええ、そう、敗者は敗者らしく、約束を守らなければならない……!」
ぶるぶる、とかすかに震えているのは気のせいか。顔は段々赤らんできている。
「勝った方が、負けた方の言うことを何でも聞くってやつな」
あれだけ大見得切ったからね。ケジメはつけないといけないとは思う。何せこれまでサキリスは、負かした相手にそれはもう酷い晒し刑を実行したそうだから。因果応報だ。
まあ、この期に及んで見苦しく言い訳したり逃れようとするなら、ちょっと反省を促す必要があったが……。ベルさんなら、反省の機会すら与えなかっただろうけど。
豪奢な金髪を持つ美少女令嬢はベッドを降りると、服のボタンを外し脱ぎ始めた。
「え、何してんの?」
いきなり過ぎて、俺は目を剥いた。男がいるのに、自分から脱ぎだしたぞこのお嬢様!
「そ、そういうルールだったでしょう。ま、負けたら首輪で繋いで裸で学校一周――」
「それはあんたが言っただけで、俺はその条件とは言っていないぞ?」
「え……」
サキリスは固まった。顔がこれ以上ないほど真っ赤になる。
「な、なんて卑劣な! わ、わたくしを裸でさらし者にするだけに飽き足らず、も、もうひとつわたくしを辱めようなんて……!」
おいおいおい、待てよ。俺が口を開きかけた時、サキリスは自らの額に手を当てた。
「い、いえ、わたくしが勝手にそう勘違いしただけのこと。貴方は悪くないわ。ごめんなさい」
お、おう――
「ルールはルール。一度決めた以上、破るわけには参りませんわ……! 例え、それで恥辱にまみれても」
「……」
「そ、それで、わたくしをさらし者にした後、ど、どんな罰でわたくしを責めるつもりなのです!? まさか、わたくしを押し倒して、純潔を――」
何いってるんだ、この女。やっぱりそうなのか、こいつはMか? ドMなのか?
負けて難癖つけながら逃れようとする奴は多い。特にプライドの高い人間ほどその傾向が強い。しかしサキリスはここまでは潔い態度である。その点は悪くないが……。
「まあ、とりあえず、アーリィー殿下に詫び入れような?」
予定を狂わせてくれたことと、クラスメイトの前で俺を煽った罰は、後で考えよう。
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