第169話、武具合成の結果


「すっ、凄いっ……! 直ってる!」


 魔法剣フリーレントレーネが魔法によって修復された後、それを確かめたテディオは興奮した。


 エルフの魔法弓を直したところを見ているアーリィーもまた、テディオの喜びにつられて顔をほころばせている。


「ジン君、ありがとうっ! 本当に直してしまうなんて、君は凄い人だ!」

「よかったな。爺さんに感謝しろよ」


 もうすぐ日が暮れるので、テディオには寮に戻るように言った。


「ジン君、今日のことは忘れないよ。このお礼は必ず」

「おう。忘れていいぞ」


 ペコリとお辞儀してから剣を大事そうに持って退出するテディオを見送った。アーリィーは、俺の顔を覗き込むように近づいた。


「ジン、大丈夫?」

「ちょっとな……。疲れたよ」


 俺は近づいたのを幸いと、彼女の胸に頭を預けた。制服の下にさらしを巻いている彼女なので、女としての弾力はないけど。


「もう、ジン。この甘えん坊さん」


 そう言いながら、いい子いい子してくれる男装のお姫様。


「今夜はたっぷり付き合ってくれ」

「いいよ。またボクをイジメてね」


 額に軽く唇を触れさせるアーリィー。当然、その日はお楽しみでした。ええ、その日も、ね。



  ・  ・  ・



 翌日、学校へ行くと、まずテディオが昨日の礼を言ってきた。よかったな、と返事した俺だが、この時、とあることを失念していた。


 テディオに、武器修繕の話を他言しないようにと口止めするのを忘れていたのである。

 前回、ヴィスタやマルテロ氏とその弟子の目の前で披露したから、うっかりしていた。


 平民生であるテディオは、貴族生たちとは折り合いが悪いが、同じく平民生の間ではそこそこ友人がいた。当然ながら、俺の魔法具修理の話はそこから漏れ、少しずつだが生徒たちの間に噂となって流れていくのである。


 そしてその日はもうひとつ、別の話題がクラスで持ちきりになっていたから、俺の注意がそっちに向いたというのもある。


 マルカスが、俺のもとにやってきた。


「昨夜、ナーゲルと、その仲間二人が意識喪失状態で発見されたんだ」


 真面目そのものといった顔でマルカスは言った。ああ、テディオを虐めていたクソ貴族のボンボンか。


「廃人も同然の状態で、もはやまともに生活が送れるレベルではないのだが……何か知らないか、ジン?」


 あらまあ、大変なことになってるね。まったく同情しなかったけど。むしろ、ざまあ? あの野郎の暴言には気分が悪かったからね。


「昨日、ナーゲルたちと揉めていたのを見た奴がいたらしい」

「クラスメイトへのイジメを止めただけだよ」


 俺は肩をすくめた。


「確かに少し言い合ったが……あの後自分たちから去っていったし。その後のことは知らないな」

「そうか。ならいいんだ」


 彼は頷くと、俺から離れて行った。


 廃人、ね。……俺はちらりと、傍らの黒猫を見た。


『何かしたかい、ベルさん?』

『連中の精神を喰った』


 平然とした口調を念話で返すベルさん。


『あいつらの報復予告にムカっときたからやっちまった。反省はしてない』

『ベルさんを怒らせるなんて、相当だな』


 むしろ、そうまでさせたナーゲルたちが悪い。


『ひとつ借りかな?』

『よせやい。オレとお前の仲だろう』


 数日後、ナーゲルとその二人は、病気を理由にアクティス魔法騎士学校を正式に中退となる。


 なお、彼がいなくなったことを惜しんだ者は、同じ貴族生にもほとんどいなかったそうだ。どうやら嫌っていたのは平民出の生徒ばかりではなかったらしい。


 皆から悪い奴と思われていたということだ。ざまあ。



  ・  ・  ・



 ルーガナ領に隣接する未踏破地域にあるカプリコーン浮遊島軍港の再生は、順調に進んでいた。


 学校帰りに視察に行けば、地下造船ドックのおおよそ四割が復旧したとディアマンテが報告してくれた。


「現在、再生修理が完了したドックでは、私こと巡洋戦艦『ディアマンテ』ほか、船体が残っている旧型ヘビークルーザー1隻、試作のエアクラフト・クルーザーが1隻、中型高速空母が1隻、再生中です」


 以前、訪れた時はだいぶ、苔や草まであったのに、その名残さえ見られないほどの綺麗になっていた。ここだけ未来世界だよ。


「建造用のドックも複数開いていますので、新造も可能です」

「ディーシーとも話したんだけど、こちらからも艦を提案したい」


 俺は、データパッドを渡す。テラ・フィデリティア式の携帯端末である。以前、ディアマンテから貰い、俺とディーシー、それとシェイプシフターたちで複数使っていた。


「拝見いたします」


 銀髪女性士官の旗艦コアであるディアマンテが、それを確認する。


「大帝国クルーザーの改造仕様」

「この前、ルーガナ領にきたのを落としたやつ」


 ラールナッハ最期の地。浮遊石を抜いたせいで墜落した大帝国の船だ。


「あれにテラ・フィデリティア式武装を施し、機関を換装すれば使えるかなと」

「よろしいのではないでしょうか」


 ディアマンテは頷いた。データをスクロールさせる。


「ゴーレム・エスコート……? 無人艦ですか?」

「というよりゴーレムを艦の形にしたものかな」


 こちらじゃ泥や鉄の人型が主流だけど、自動で動くなら別に人型にこだわらなくてもいいのでは、と思ったわけだ。ゴーレムのコアをコンピューターとするなら、そういう発想もできる。


「構造がかなりシンプルですね」

「大きい艦を作るならあれだけど、小型の護衛艦程度ならまあ、いいかなと」

「いいと思います」


 そして最後。軽空母案――


「全長約160メートル……空母としてはかなり小型ですね」

「まだ機体の数も少ないからね。いずれ増えるにしても、できるだけ早く実用化させて使いたい」


 大帝国の大陸東部への侵攻の話は、こちらにも伝わってきている。連合国軍は敗退を続けていて、もはや大帝国が敗戦の瀬戸際だったことなど考えられないようになっている。


 向こうにも、少々のちょっかいを出したいんだよね、そろそろ。そのためにも、早期の戦力化を図りたいのだ。

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