第160話、古代魔法武具生成術


「おう、それそれ。お主、武器を作るのか」


 マルテロ氏は俺に言った。水晶竜が出現する直前まで、そんな話をしていたのだ。


「ワシも興味があるから見せてくれ。場所はどうする? ワシの工房を貸すか?」

「あー、マルテロさんも見るなら、ここでもいいかな……」

「ここじゃと!?」


 ドワーフのマスタースミスは驚いた。


「設備も何もない、ダンジョンじゃぞ?」

「そうは言っても、俺はハンマーで叩くわけじゃないですし……」


 俺は、ヴィスタに顔を向ける。


「ヴィスタ。君の持っている魔法弓……ギル・クだっけ? 出してくれ」

「……本当にできるのか?」


 エルフの女戦士は収納の魔法具から、青い魔法弓を取り出す。戦闘で傷がつき、能力を発揮できなくなった魔法の弓である。


 マルテロ氏は首をすくめた。


「こいつを直すのか?」

「そうなります」

「ふむ。しかし、こいつにはどこぞの魔法文字が刻まれておる。何と書いてあるかさっぱりじゃが」

「魔法文字」


 俺は、指をくいくいと動かし、魔法弓ギル・クをくれ、とヴィスタに促した。


「傷がついたリムのとこな、魔法文字が消えておる」

「まあ、何と書いてあるかわからないと、前後の文字から推測もできないでしょうね」

「お主はこれが読めるのか?」

「まあ、魔術師ですからね」


 この魔法文字の意味は、刻み手である俺の世界の言葉を訳したものだから、ドワーフもエルフも意味不明な文字羅列に見えるだろうな。


「やはり、あなたはジン・アミウール!」


 ヴィスタがその名を口にした。


「どうしてそう思う?」

「この魔法弓は、ジン・アミウールが作ったものだ」


 ヴィスタはきっぱりと言う。


「この弓の意味不明な魔法文字の羅列。これこそ、ジン・アミウールの強力な魔法文字だ。エルフ族でも話題になって、解読を試みたが果たせなかったものだ。それがわかるというのは――」

「文字が読めるから本人とは限らないんじゃないか? 俺と彼は同郷で、まあ縁がある人間というだけかもしれない」


 さて――俺は、魔法弓ギル・クを地面に置くと、ミスリル鉱石を近くに集めた。


「これは独り言だが、アミ、と言うのは友、ウールというのは時間という意味だ」


 まず、鉱石をインゴット化。形についてはかなり適当だ。どうせ形が変わるから。


「俺がこれからやるのは魔法だ。『武具合成』と呼んでいる」


 素材を用意し、多量の魔力を注ぎ込むことでそれらを掛け合わせて、新しく作り変える。これには術者、つまり俺の想像力がかなり出来に影響する。


 ……なので、最初はかなりの素材を駄目にしてきたが、やっているうちに形になり、強力な魔法武具を作れるようになった。


 その派生で、全体合成ではなく、一部の部位だけ作り変える部分合成による武具合成もこなせるようになった。こっちのほうが魔力の消費も少ないし楽だ。


「それで、ヴィスタ。直すだけでいいのか? もしよければ、もっと強力な武器に改良するけど?」

「え……?」


 固まるヴィスタ。マルテロ氏が顎髭を撫でる。


「ふむ、何やら凄いことになってきおったぞ。やってもらえ、エルフ。ここまで大言を吐いたのじゃ。しくじるようなこともあるまいて」

「なになに、何を始めるの?」


 一仕事を終えて、アーリィーもやってきた。せっかくだ、彼女にも見てもらおう。


「ヴィスタ、いいかい?」

「あ、ああ……」


 周囲に流された気もするが、ヴィスタは改造を了承した。ますます失敗できないな。


 俺は彼女に預けていた魔法弓を返してもらい、ほかの魔法弓を出して、全部で四つ

の魔法弓が並んだ。


 さあ、始めよう。


 まずは、ギル・ク以外の魔法弓から魔法矢の根源であるオーブを取り外す。下準備はそれだけ。あとは、ギル・クとミスリルインゴットがあれば大丈夫。


 素材が青い魔法陣に包まれる。そこに俺の魔力を注ぎ込むと、魔法陣は赤く輝き、イメージと共にそれらが形となっていく。


 ミスリルインゴットが粘土のように曲がり、千切れて、ギル・クの損傷部位にパテのように埋まる。これをミスリル同士で結合させる。溶け合い、絡み合い、元から同じものだったように形を整えていく。


 今度は改造部分。魔法矢を撃ち出すパーツを、新たなミスリルを加えて増量。先に分解したオーブ、風、火、雷を取り付ける。


 魔法陣が緑色になれば完成。ちなみに失敗すると魔法陣は一瞬黄色く輝き、次には消えてしまう。


 武具合成、終了!


 どっと疲れが出た。まあ水晶竜と戦った後だもんな。これは魔力補充をしておきたいものだ。


 ちら、とギャラリーを見れば、一様に驚いている。アーリィーなどは、何が起きているのかワクワクした顔だが、マルテロ氏やファブロは目を点にして固まっている。


 俺は仕上げに掛かる。新しい形となったギル・クを持ち、修繕の結果埋まってしまった魔法文字を新たに刻み直す。


 魔力を右手人差し指に集めて、文字を刻んだ。魔法文字と回路。

 魔力の線とその機能を刻んだ文字を刻み込むことで、一定条件で刻んだ文字の効果が発動するようになる。


「ふぅ、こんなものかな」


 一通り作業は終わった。


 生まれ変わった魔法弓ギル・ク――ギル・ク改と言ったところか。


 かつてのギル・クは、風のオーブを中心に備え、風属性の魔弾を放つその武器は、扱う者によって収束弾、拡散弾と使い分けることができた。


 だが今回の改良で握りについているナックルガード部分にさらに火、雷、風のオーブを追加した。元の風のオーブと合わせ、三つの属性の魔弾を扱うことができるようにパワーアップしたのだ。


 オーブをスライドさせることで、放たれる魔弾が変わる。風であるなら、従来どおり、収束と拡散。ただしオーブが1個増えたことで、その威力は増している。雷は拡散と貫通、そして麻痺弾。炎は炎弾と近接なぎ払いの火炎放射。


 攻撃面で大幅に強化されたギル・ク改は、刻まれた魔法文字も一新。改良前の、魔力を増強するだけだった文字は、懐に飛び込まれた際に弓自身や扱い手を守る防御魔法も備える。


 追加した風のオーブが防御にも作用して、射手の周囲を風が舞うことで飛来する敵の矢や魔法を逸らすのだ。


 マルテロ氏が叫んだ。


「ワシは今とんでもないモノを目にした! この弓の、魔法金属の修繕に使われたのは、はるかな昔、古代文明時代の技術じゃ。現代では、その製法も術もわからない金属加工術じゃ――!」

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