第159話、ゴブリン・スイープ


 ゴブリンは小狡い。


 ゴブリンは数が多い。


 ゴブリンは――雑魚だ。


 障害物が多い地形だ。クリスタルドラゴンが荒らしてくれたおかげで水晶柱が乱立し、視界の悪さを提供する。


 俺はエアブーツによるダッシュで滑るように移動。出くわしたゴブリンに、まずはサンダーソードで両断。


 後続の奴がギョッとしたが、俺はすれ違いざまに古代樹の杖でその顔面をぶん殴った。小柄なゴブリンの身体が宙を一回転した。


 さらに後ろにいたゴブリンたちは一瞬声を失い、呆然とする。


 はいはい、見惚れないッ!


 脳天に一撃。ゴブリンの頭蓋が砕け、3体目。左手の杖で、そばにいるゴブリンの足に一撃。倒れたそいつをサンダーソードで串刺し、4体目!


 周りに倒れるは皮膚を焦がし、または身体の一部を異様な形にへこまされた小鬼どもの死体。


「……おっと!」


 俺は、視界の端に弓を構えたゴブリンアーチャーの姿を捉える。とっさに古代樹の杖の先端をゴブリンに向け――


「ライトニング!」


 電撃が、光線よろしくゴブリンアーチャーの矢よりも早く獲物を捉え貫通した。


『ギャギャ!』


 氷狼に乗ったゴブリン――ゴブリンライダーが2体、突っ込んでくる。


「ジン!」


 アーリィーが魔法銃で、ゴブリンライダーを早撃ちで倒した。いい腕! だが氷狼が突っ込んでくるぞ!


 そこで彼女は銃を下ろして、左手を右へ振った。


 すると向かって左側の氷狼が宙に浮かんで、併走する氷狼とぶつかり、2頭揃って倒れ込んだ。


「わぉ、今、無詠唱だった?」


 俺は弟子の成長に目を見張る。氷狼って結構体格がいいから、初心者だと充分に吹き飛ばせなくて失敗するところだが、アーリィーは上手くやった。


「うん、思い切り魔力をぶつけた」


 はにかむアーリィー。魔力量の多さを使って加減なしでぶっ叩いたらしい。魔力のゴリ押し。それが許される才能は羨ましいね。


「よくやった!」


 さて、あとどれだけ残ってる? 


 視線を飛ばせば、ルングがゴブリンを一撃のもとに切り伏せると、バンダナ男や大男も敵を一体ずつ仕留めている。


 隙を突こうとするゴブリンアーチャーは、フレシャの矢が敵を穿ち、ヴィスタが魔法弓で手早く倒していく。


 シェイプシフター兵が魔法銃でゴブリンや氷狼を各所で撃破しているおかげで、ピンチに陥っている様子はなし。彼らがいなければ、もう少し場が混沌としたかもな。


 やがて、ディーシーがのんびり戦場にやってきた頃には、モンスターの姿はなかった。


「お疲れ様だな、主よ」

「まあ、ぼちぼち」


 水晶竜で、大きな魔法を連発したから、そこそこ魔力を使った。


「でもまあ、ドラゴンの素材が回収できるとなれば、これくらい何ともないさ」


 とくに大竜の魔石は、エンジンなどにも利用できるから外せない。


「え、でも、ジン」


 アーリィーが指さした。


「ドラゴンの死体、もうないよ?」


 ダンジョンがモンスターの死骸を吸収した? おいおい、マジかよ――


「心配するな。我がもう回収した」

「ディーシー……!」


 戦闘の最中にあっても、俺の望みを酌んでくれたのね。ありがとう。マジありがとう。



  ・  ・  ・



「改めて、ジンさん。今日はありがとうございました! おかげでオレたち、誰ひとり欠けることなく帰れます!」


 ルングがバッと頭を下げた。何か、さん付けになっていた。完全に目上の方扱いである。


 ラティーユも頭を下げる。


「命拾いしました。私、もう駄目かと思って……。このお礼は必ずお返ししたいと思います」

「まあ、皆、無事でよかった」


 俺は控えめに応じた。フレシャやバンダナ男――ティミッドも好意的な視線を向けてくる。大男――ダヴァンは……よくわからないが、コクリと頷きだけくれた。


「じゃあ、オレらは先に失礼します! ジンさん、何か困ったことがあったら、いつでもオレたちに声をかけてください。役に立てることがあれば遠慮なく言ってください!」


 別れ際に、ルングは力強くそう言った。……信頼を勝ち得てしまったようだ。まあ、何かあれば、その時は言葉に甘えよう。


 ポータルを使って、王都冒険者ギルドへ帰還する冒険者たち。見送るベルさんが口を開いた。


「聞いたか、ジン? あいつらのパーティー名」

「ホデルバボサ団だっけ?」

「『クソナメクジ』って意味だぞ。あいつら正気かね?」

「そんな意味なの?」


 あらまあ。知ってて付けたんだろうけど……ひょっとして意味知らずに名乗っている可能性もあったりして。


 まあ、それはどうでもよかろう。俺たちは、ミスリル採掘場に戻る。戦闘中も構わず、ゴーレムたちが掘り続けたせいで、処理すべき岩がいっぱいになっていた。


 マルテロ氏とファブロで岩を砕き、俺とアーリィーでミスリルの抽出作業。


「ゴーレムを操り、ミスリルインゴットまでその場で作るとは……あなたは本当に規格外だ」


 ヴィスタがそんなことを言った。


「つい先日、ドワーフの鍛冶師にも驚かれたよ」


 ワシか?――とマルテロ氏は首を傾けた。俺は近くの岩を椅子代わりに、少し休憩。アーリィーがヴェノムⅢの再現に取り組んでいる。


「大したものだ」


 ヴィスタが穏やかな笑みを浮かべた。……素で笑うと可愛いなこの人。最初は表情に乏しい人という印象だったけど。


「いや、こちらこそ付き合わせて悪いな。ある程度ミスリルが集まるまで、待ってもらうけど」

「モンスター退治は任せてくれ。あなたから借りているこの魔法弓はよい武器だ。ギル・クほどではないが、扱いやすい」


 ヴィスタは心持ち胸を張った。……エルフって細身の人が多いよね。胸の大きさについては控えめなのは長寿な種族だからかねぇ。ほら、年齢の割に子供に乳吸わせる期間短いから。……知らないけど。


「君もいい腕だよ。ギル・クの修理も俄然やる気が出てきた」


 でも、ただ直すだけじゃもったいないな。炎と風と雷の3タイプ――これも取り入れるのも悪くない。

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