第154話、孤高のエルフ美女
「あなたがジン・トキトモか?」
エルフ美女のヴィスタが、俺をじっと見つめてきた。
「そうですが、俺をご存じ?」
「多少噂にはなっていた。ルーガナ領で腕を振るう
大方、ラスィアさん辺りが解説したんじゃないかなって思うけど。
マルテロ氏が苦い顔をした。エルフとドワーフは仲が悪いという評判を聞くが、同行者がエルフだからだろうか。
「何じゃいお前さんじゃったか」
「爺さん、知っているのか?」
ベルさんが問えば、ファブロが答えた。
「武器の修理依頼に先日来た人なんです。素材がないから、と断ったんですよ」
「へぇ、ドワーフの工房にエルフが依頼とはねぇ。……ない素材って、ミスリルか?」
「まさに」
ファブロは頷いた。
ヴィスタとマルテロ氏はしばし視線を合わせる。
「あなたがジン・トキトモを推挙した」
「だから、同行するじゃと? ……ラスィアさんよ、いいのか? こやつに見せて」
「まあ、熱心にジンさんのことをお知りになりたいようだったので……」
根負けしたって顔してるぜ。いいのかなぁ、これ。
俺は苦笑する。それにしてもエルフ美女が熱心にって、意味深。
と、ヴィスタの視線が俺を向いた。
ふむ、とヴィスタは考えるように、自身の顎に手を当てている。その碧眼は、俺を値踏みしているようだった。
何だか思っていたのと違う、って顔してね?
「まあ、いいわい。それじゃあ行くぞい」
マルテロ氏が音頭を取り、俺たちは大空洞ダンジョン十三階層へのポータル部屋へと移動した。
・ ・ ・
「寒っ!」
ダンジョン氷結エリアに到着。身が引き締まるね。俺は新しく作ったポカポカネックレスをアーリィーに掛けて上げる。
魔法具である。毎回、アルコールの味しかしない魔法薬を与えるのも気の毒だからね。俺も一枚重ね着して、いざミスリル鉱山へ。
道中、アイスウルフが3頭出たが、ベルさんが突進し、ヴィスタが弓を撃つことで軽く撃破した。
「さすがエルフ!」
アーリィーが興奮していた。
「弓の腕は抜群って話は聞いていたけど、本当だったんだね!」
「生のエルフの射撃術ってやつか」
氷狼の眉間にズドンだもんな。でもヴィスタの使っているのは短弓。小回りが利くけど、エルフの
さしたる障害もなく、現地にたどり着いた。
氷漬けの一帯の先。すり鉢状にくぼんだ地面、むき出しになった岩肌が天井へと伸びている一角。以前俺たちが来た時に比べて地形が変わっている。すりばち状なのは上から掘っていく露天掘りで中央を掘ったからだろう。
冒険者を雇って業者が入るって言っていたもんな。ベルさんが周囲を見渡す。
「もっと人が来ていると思ったが、そうでもなかったな」
「いないほうが、面倒がなくていい」
俺はゴーレムを生成して、ミスリル採掘をさせる。例によってベルさんが周辺を警戒するが、今回はアーリィーも見張りに回った。
俺はゴーレムたちを監督し、マルテロ氏とファブロは砕きの作業を手伝っていた。
ヴィスタはというと、警戒側に立っていたが、俺のほうをやたらとチラチラ見ているような。
そういや、やたら熱心に俺のことを知りたがっていたとか、ラスィアさんが言っていたっけ。少し話して見るのもいいだろう。いったい俺の何に興味があるかってさ。……決してエルフ美女にお近づきになりたいからとか、不純な動機ではない。
というわけで、まずは マルテロ氏にお声を掛ける。
「あのエルフが持ってきたものじゃと?」
「ミスリル製の武器だったんでしょ? エルフがどんなものを持ち込んだのか興味があって」
しかも不仲と噂のドワーフの工房に、だ。
眉間にしわを寄せるマルテロ氏。ファブロが助け船を出した。
「弓ですよ。ミスリルの弓です」
「普通の?」
「いや、一見したところじゃ、エルフが作ったものじゃなかった。じゃなければワシのところに来んじゃろう」
マスター・マルテロはドワーフの名鍛冶師。彼はどのような魔法武器さえも鍛え、直すと言われる腕と力を持つとされる。
「魔法弓って言うらしいですよ。ただのミスリルの弓じゃなかった」
ファブロがハンマーで岩を砕いた。マルテロ氏は首を振る。
「まあ、ドワーフに頭を下げてでも、うちにやってきた気持ちは評価してやってもいいがな。折り悪く、ミスリル不足じゃ。例え受けたくても受け付けている余裕はなかった」
だから断った、と。
「で、俺のことを話したんですね?」
「ミスリルが欲しければ、お主に相談しろとな。……まさかここで、鉢合わせするとは思わなんだが」
なるほど。話はわかった。それにしても、懐かしい響きだ。
「魔法弓、ね」
「さっきも言ったが、ありゃあエルフの作ったモンじゃないな。連中が作ったものにしては造りが無骨じゃった。エルフは自然派じゃから、ああいう凝った仕掛けはせん」
「ご協力をどうも」
俺は礼を言って立ち上がる。ドワーフの二人は作業に戻り、俺はヴィスタのもとへと歩いた。
「やあ」
声を掛ければ、エルフ美女は頷きだけ返した。
「いま、マルテロ氏に聞いたけど、魔法弓を持っているんだって?」
「ああ」
「見たいんだけど、戻ったら拝見させてもらってもいいかな?」
「……魔法弓に興味があるのか?」
警戒するようにヴィスタは言った。
「君も俺に興味があるんだろ? お互い様だと思うが?」
俺のどこに関心を持ったか知らないけど。
「聞きたいことはお答えするが?」
「……」
ヴィスタは考え込む。そこで悩むって、本当に俺のことで何かあるのかな? 彼女に関しては初対面のはずだから、俺に心当たりはないんだけどな。
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