第153話、意外な同行者
学校二日目。昨日の実技で派手に暴れたせいか、クラスの女子生徒からは割と好意的な視線を向けられた。
俺のお隣に王子殿下がいるから、そうそう声を掛けづらそうではあったが。
一方で、男子生徒からは好意的なのが半分、敵視にも似たものが半分といったところか。特に貴族生の間で、ヘイトを買ったようだ。……仕方なかろう。三年もいてあの体たらくだ。
自分は強いと自惚れていた貴族のボンボンたちが現実を思い知って、逆恨みといったところだ。これだから貴族のガキどもは。
これまた、俺の隣に王子様がいなければ、学校恒例の虐めにでも発展したかもしれない。まあ、こちとら前々からクソタレ貴族を闇討ちしてやろうと思っている口だからね。飛んで火に入る夏の虫になる愚か者は誰かなー?
と、その日は無難に授業を終えて、ランチタイム。午前で授業は終わりなので、これから冒険者業。アーリィーには話してあるので、これから一緒にお出かけだ。
「あー、ジン・トキトモ。ちょっといいか?」
そう、どこか躊躇いがちに声を掛けてきたのは赤毛のクラスメイト、マルカス・ヴァリエーレだった。
伯爵家の次男で、剣の腕前だけは見所がある男子生徒だ。
「ちょっと午後から、付き合えないか?」
「デートのお誘いならお断りだぞ」
野郎とイチャつく趣味はないんでね。王子様とお出かけ? 中身は女の子だからセーフ!
「いや、デートではない」
勘違いするなとマルカス君。真面目だなぁ。
「悪いな、先約がある。これから冒険者ギルドに行かなきゃ」
「冒険者ギルド?」
「指名依頼だよ。じゃあな、マルカス君。行こう、アーリィー」
「うん。じゃあね、マルカス君」
俺とアーリィーは、さっさと教室を後にした。階段を降りて、校舎の玄関口へ向かう。
「マルカス君はどんな用だったんだろうね?」
「さあな」
俺にもさっぱり心当たりがない。教室で見た限りでは、あからさまに好意的だったり、敵意があったわけでもない。
校舎を出て、青獅子寮へ帰宅。制服から魔術師装備に着替えて、アーリィーと合流。彼女もカメレオンコート以下、装備を整えていた。ベルさんも暗黒騎士モード。
「腕がなるな」
ベルさんは楽しそうだった。
「教室は退屈過ぎるからな」
「授業中に堂々と居眠りできるなんて、いいご身分だと思うぜ?」
「本当だよ」
俺が言えば、アーリィーも同調した。ベルさんは鼻をならす。
「オレ様はVIPだからな」
この学校で、王子以上のVIPがいるもんかい……と思ったら、ベルさんは魔王だからね。そりゃ誰も何も言わないか。
もっとも、誰も魔王様が猫被って寝っ転がっているなど気づきもしていないが。……このまま誰も気づかないでください。
・ ・ ・
王都冒険者ギルドに到着。フロアで待っているとドワーフのマルテロ氏と、その弟子ファブロがやってきた。
「おはよう、ジン。それにベルさん」
「こんにちは、マルテロ氏」
「おいおい、爺さん。今は昼だぞ。もうボケちまったのか?」
「出勤したら『おはよう』というものではないのか?」
マルテロ氏は真顔で言った。なに社会人のマナーめいたことを言ってるんだ。……いやまあ、彼も立派な社会人なのだけど。
「……で、今日も王子様が一緒か」
周囲を気にして、声を落としたマルテロ氏。だが普段が普段なので、仕草があからさまに『内緒話しますよ』になっているが。
「今日はよろしくお願いします」
アーリィーが一般人のように振る舞い、頭を下げた。魔術師の若い弟子に見えるかな?
「それにしても爺さん、よくこれでジンだってわかったな?」
ベルさんが突っ込めば、老ドワーフは笑った。
「ダークエルフのサブマスから、一応話は聞いていたからな。まあ、ワシから言わせてもらえば、人間の十年そこらなぞ誤差じゃ誤差」
ガハハ、と笑い声がよく響いた。工房でトンカンやってる職人って、声がでかいのは気のせいか。
「それじゃあ、行きますか?」
「うむ」
「いやいやいや、待ってくださいよ、マスター!」
ファブロが口を開いた。
「サブマスが、もうひとり同行者がいると言ってたじゃありませんか」
「同行者?」
初耳だ。俺らの受けた依頼だぞ。何で増えるんだよ?
「もしかして、ギルマス?」
前回のミスリル採掘の時、ヴォード氏も一緒だった。隙あらば冒険したいって人だから、ついてくるつもりかも。
「いや、違うみたいですよ」
ファブロは俺より年上だと思うが物腰は低かった。
噂をすれば影。ダークエルフのサブマスこと、ラスィアさんが現れた。その後ろにもうひとり。……わお。
エルフ美女だった。
白い肌に、絹のような金色の長い髪。涼やかな双眸は、澄んだ水面のような青い瞳。年齢は二十歳前後に見えるが、エルフは長寿だから、それだけで年齢を特定はできない。
凛とした様子だが、まごうことなき美人である。尖がっている耳もまた綺麗だ。
背中に矢筒、武器はナイフとショートボウ。エルフ戦士としては普通である。やたらモコモコした冬装備なのは、向かうのが氷結エリアだからだろう。
前を行くラスィアさんが手を上げた。
「お待たせしました、皆さん。こちら、今回の依頼に同行を志願されたヴィスタさん」
「ヴィスタだ。カリヤの森の出、弓使いだ」
男口調だが、綺麗な声ゆえだろうか。思ったより角ばった印象はなく、柔らかな女性らしさを感じる。もっとも表情は淡々としていて、あまり感情を感じないが。
アーリィーが、軽く俺を小突いた。
「カリヤの森って?」
「エルフの里だよ」
俺は説明する。
「大陸の各地にエルフの集落はあるが、一番大きなコミュニティーが、古代樹の森であるエルフの里だ。以前、行ったことがある」
「世界樹があるんだぜ」
ベルさんが付け加えた。アーリィーが「世界樹……」と目を丸くする。
カプリコーン軍港下のプチとはサイズが違うぜ。
ともあれ、カリヤの森とは、エルフの里のエルフ名である。はてさて、そこから来たエルフ美女が、なにゆえここにいる?
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