第151話、原石はあるのか


「ジン。よかったら学校案内を兼ねて、クラブ活動見てみる?」


 上級食堂を出ようとした矢先にアーリィーがそんなことを言った。優秀な人材、その原石がいるかもって話たばかりだったから、クラブ活動とやらも悪くない。


「ボクがガイドするよ!」


 アーリィーが案内を買って出た。あれだけ学校を避けていたのに、ずいぶんと積極的である。


 人材もそうだけど、俺はこの学校で彼女をお守りする以上、どこに何があるか、情報は仕入れておく必要がある。


「じゃあ、お願いしようかな」

「うん、任せて!」


 ほんと、この娘、俺にめちゃくちゃ好意的な笑みを向けてくるんですけど。……惚れてしまうではないか。好みだからね。


 そんな俺とアーリィーを見やり、ベルさんは何やらニヤニヤしていた。


「ちなみに、クラスの中で実技に強い奴って誰?」


 午前の授業で模擬戦をした連中は論外だけど。アーリィーはそのほっそりした顎に手を当てる。


「実技なら、サキリス……サキリス・キャスリングがトップかな」

「覚えがないなぁ。クラスにいたっけ?」


 と言いながら、実は名前は事前にリストで見た。これでも護衛だからね。名前と出身、貴族生か否かくらいは暗記した。


「そういえば、今日は見かけなかった」


 アーリィーは首をかしげた。


「風邪かな? ボクも久しぶりに登校だから、よくわからない。でももし彼女が居たなら、きっとジンにも模擬戦を挑んだと思う」

「ほう」

「ジンの方が圧倒的に上だけど、クラスじゃ、サキリスがかなり抜きん出ているから」


 へぇ、それは興味あるな。確か、サキリスは伯爵家のご令嬢だったはずだ。バリバリの貴族生でありながら、アーリィーの評価はよさそうだ。……まあ、今日のクラスメイトの体たらくでは、あまり期待できないかもだけど。


「後は、魔法では劣るけど、剣ならマルカス・ヴァリエーレもいいと思う」

「マルカスか」


 ヴァリエーレ伯爵家の次男だったかな。赤毛短髪、きりっとした顔。中肉中背で筋肉質な身体つき。貴族生ながら、しっかり鍛えているのは動きを見ていればわかる。


 クラスにいたが、今日は特に絡みはなかったな。授業でも俺に模擬戦を挑んでこなかった。


「どんな奴なんだ?」

「真面目だよ。貴族生だけど、彼が威張り散らすところは見たことはないね。礼儀正しいと思う。よく自主練しているって聞いた」


 貴族のボンボンは横柄でいけ好かない奴が多いって印象がある。特に連合国にいた頃は、ろくでもない奴ばっかり見てきたからな。ぶっちゃけ、クラスにもそういうタイプはいるだろうが、きちんと真面目な奴もいて、ちょっと安心した。


 やっぱ次男だからかな。長男はだいたい家を継げるけど、それ以降は予備扱いで後継者にはなれないから、手に職をつけておこうってことかもしれない。割と堅実なタイプかもしれんな。


 そうこう話しながら、運動系を中心にクラブ見学をしたが、まあ、特に見るべきものはなかった。能力を上げようと真面目に取り組んでいるクラブもあったのだが、どうもオママゴトをしているようにしか見えない。


 温いんだよな、どこか。ちょっと魔法が使えて、ちょっと剣が使えるってだけで、強くなった気でいる。慢心。平民盗賊あたりならイキれるけど、騎士崩れとか、ちょっと強いモンスターが出たら、あっさり殺されてしまいそうだ。


「ベルさん、何か一言」

「ぜんぜん駄目」


 努力は買うが、育ててみたいとは思わなかったな。……まあ、案外教え込めば上達するだろうけど、俺、別にこの学校の教官じゃないからね。



  ・  ・  ・



 青獅子寮に帰宅後、ポータルでルーガナ領に戻る。


 領主屋敷は近衛騎士の格好をしたシェイプシフター兵が警備している。


 アーリィーを守る近衛隊もずいぶん少なくなった。オリビア隊長は補充の申請を出したそうだが、そう簡単に人員は来ないようだ。現状、王子直属の近衛は全員、青獅子寮の警備についている。


 で、足りない領主屋敷の警備は、うちのシェイプシフターが担っている。領主の持ち物の警備だから、近衛騎士の格好をさせている。王子の警備が傭兵では外聞がよろしくないという理由だ。都市守備隊の兵士や、住民などの目があるからな。


 閑話休題。アーリィーは書類整理。俺とベルさんはウェントゥス秘密基地へ向かった。ディーシーが朝からこちらで作業をしているのだ。


「へぇ……できてんじゃん」


 俺は思わず声を上げた。


 魔人機用格納庫の一角。カリッグやドゥエルとは異なる、魔人機。角張った装甲を持つ、無骨なその機体は『ウェルゼン』。


 俺たちウェントゥス傭兵団のオリジナル魔人機、その第一号だ。


「やっぱ図面で見るより、実物のほうが断然カッコいいな!」


 鹵獲ろかくした敵機をベースに、俺とディーシーで設計した機体だからな。テンション上がるぜ。


「どうだい、ベルさん? うちの魔人機だぞ」

「まあ、いいんじゃね」


 返事は淡泊ながら、顔は笑っていた。


「背中にボリュームがあるな」

「魔力エンジンを積んだからな」


 大帝国魔人機と違うところは、バックパックの存在だ。俺の世界の架空ロボット兵器と同様、背中にブースターパックが積まれていて、ジャンプや短時間の飛翔も可能だ。


「フレキシブルブースターポッド。ある程度、噴かす方向を変えられるから真っ直ぐ飛ぶだけじゃなくて、左右への機動、緊急回避も可能だ」


 さらに、このブースターポッドには、戦闘機にも搭載予定のプラズマ砲を装備させた。キャノンだぞ、キャノン!


 そこでディーシーが口を開いた。


「左腕にマウントするバックラーシールドの裏には、例の防御障壁を貫通する特殊金属製ブレードが仕込んである。ドゥエルタイプとも互角以上に戦えるはずだ」

「いいねぇ」


 ベルさんがニヤリとした。敵ドゥエルとの戦闘経験があるだけに、防御障壁の面倒さを知っている。

 ディーシーが俺を見た。


「主よ、乗ってみるか?」

「いいのか?」


 喜んで搭乗させてもらおう。俺は専用タラップを登って、ウェルゼンのコクピットへ乗り込む。ベースが大帝国魔人機だから、コクピットの位置もさほど変わらない。


「へえ……大帝国のやつに比べて、機械が複雑そうだ」

「テラ・フィデリティアの装置も積んでいるからな。その辺りはディアマンテに手伝ってもらった」

「いいね。ますますロボットアニメっぽくなってきた」

「あにめ?」


 ベルさんが首を捻る横で、ディーシーが『異世界の言葉らしい』とだけ言った。


 起動状態に持っていく。駆動音がたまらないな。帝国の機体を動かしたことがあるから、初めてではないのに、自分たちのオリジナルとなると気分が全然違う。


「ファースト・ステップ」


 最初の一歩をウェルゼンは刻む。力強い足音。格納庫内を歩かせ、手を使ってブレードを出したり振り回したりと、俺は思う存分、魔人機を動かした。

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