第149話、一応、スカウトも兼ねていたのだが


 攻撃魔法の小テスト。魔法騎士生たちに一発見せつけてやれとばかりに放ったのは、いつものライトニングの魔法だ。


 ただし、魔力濃度を圧縮したから、中級のサンダーランスの魔法に見えただろうし、ついでに、大気を操作して、効果音を派手にしてやった。


 野球で、ミットにボールが入る時の音がいいと、凄い球だと印象づけられるのと同じ理屈だな。


 意外に大きな音に、周囲の生徒たちが耳を塞ぐ。だがその時には、俺の放った電撃弾は的を直撃し、鉄板を弾き飛ばしその後ろの石造りの壁を砕いていた。


 周囲が絶句する。一発で黙らせるという効果はあったが、うん、ちょっとやり過ぎた感も否めない。


「凄いっ! ジン、さすが!」


 アーリィーが満面の笑みを浮かべたパチパチと拍手した。一方、ベルさんが野次を飛ばす。


「まあ、挨拶としてはこんなもんだろ」


 後方腕組みおじさんと化すベルさん。女の子たちが余計に驚き始めたじゃないか。男どもも顔を見合わせ、蒼白になっている。あ、でも王子の拍手につられて何人かが拍手してくれたぞ。


 まあ、こんなもんでしょう。とりあえず、クラスメイトには挨拶代わりになったようだった。


 的当てテストは、本日初参加の俺がトップの点数もらった。そうだろうな。的を完全破壊してしまったのは俺だけだもん。


 なお、次からは的を壊さないように頼む、と教官にちくりと言われた。


 小テストのあとは、屋外演習のメインとも言うべき、剣術による模擬戦。腕自慢どもが鼻息荒く取り組む肉弾戦。魔法が苦手でも筋肉に自身がある連中の独壇場である。


「魔法が凄いのはわかったが、はたして剣術のほうはどうかな?」


 キザったらしい伯爵家のボンボンが、俺をそう挑発しながら言った。確か、ジョシュワという名前だったかな。


「君は魔法に優れているらしいが、ここは魔法騎士を育成する学校。剣術ができなくては意味がないぞ」


 いきなり魔法でトップとってしまった俺に対するライバル心剥き出しである。突然やってきた奴に、大きな顔をされてはクラスの面目が保てないというやつだろう。


 そう考えているのは、どうもジョシュワだけではなかった。クラスの男子生が特に、俺に模擬戦を挑もうと舌なめずりして待ち構えていた。


 俺は模擬剣を二本とった。


「おや、盾は持たないのかい? 模擬戦用の弱弾とはいえ、魔法騎士学校の模擬戦では攻撃魔法が飛ぶぞ」


 え、マジ? 俺がアーリィーを見ると、彼女は「そう」と小さく頷いた。つまりルール上、威力を抑えた攻撃魔法を使っていい模擬戦らしい。


 中々、実戦的じゃないか。威力を抑えた魔法とはいえ、それが制御できれば、相手を殺さない程度に魔法を調整する訓練にもなる。実戦での戦技のコンビネーション訓練にもなるだろう。


「……それでは騎士学校の先輩方の胸を借りるとしましょうか」

「ジン、頑張って!」


 いちいち応援してくれるアーリィー。もう完全に女の子だよこれ。


 教官は、新参である俺の能力を見るつもりなのか、生徒たちの模擬戦の組み合わせなどに特に注意も指摘もいれなかった。


 かくて、模擬戦が始まった。


 はっきり言って、ジョシュワは雑魚だった。


「炎極の火を持って、我が敵を燃やさん! 回れ、ファイアーボールゥゥ!」

「……」


 弱魔法を使って実戦向け、なんて思った俺が間違っていた。何で、こんな隙だらけなん?


 トコトコと歩み寄り、剣を振り上げてファイアーボールの魔法を放とうとしたジョシュワの手から剣をはたき落とし、首もとに模擬剣を突きつけてやる。


「何で、剣を持った敵の前で長ったらしい呪文唱える?」

「は?」

「詠唱が長い!」


 向き合った距離で、あんな魔法を使おうとすれば、敵兵はその前に体当たりして詠唱の中断を狙ってくる。それを盾で叩けるならまだしも、俺が近づいても詠唱に集中してたよな?


「ジョシュワ、冒険者をなめるなよ。モンスターはお行儀がよくないからな」

「くっ、もう一度だ! 今のはなし!」


 あっさり片付けられたのが自分で認められなかったか、ジョシュワがもう1回と叫んだ。いいぞ、何度でも相手してやるよ。


 かくて、模擬戦をやり直し。だが、魔法騎士といっても所詮は学生。まるっきり相手にならなかった。


 ジョシュワだけでなく、他の男子生にも挑まれたが、どいつもこいつもだらしなかった。


 弱魔法といっても、みな馬鹿の一つ覚えに投射系魔法を近接戦前に撃つだけ。要するに殴る前に相手の態勢を崩してやろうという戦法だ。


 あまりにワンパターンだから、放たれた魔法を模擬剣に防御魔法をかけて弾いてやった。


 ビックリされた。そして難癖をつけられた。いわく、剣で魔法は弾けない。つまり実戦でできないことは無効だ、と言うのである。


 やってみせただろうが? なに弱弾だから? 実戦じゃ無理? 仕方ないな。実際の攻撃魔法を俺が剣で弾くさまを見せ付けてやることで納得させてやる。目の前で見せられては認めないわけにはいかない。


 とりあえず挑んでくる男子生を相手にしたが、俺が地雷系の弱魔法を使ってやったら、またも物言いが入った。


 この踏んだ何かで死亡判定が入る意味が理解できないとか云々。


 仕方ないので、あれを踏んだらこうなります、と演習場の一角で派手に爆発させてやった。爆発と共に数メートル吹き上がった黒煙を見やり、クラスメイトたちが絶句し、突然の爆発に別クラスの教官が何人か様子を見に来てしまう。……お騒がせして申し訳ない。


 もうしょうがないので、魔法も使わず二本の模擬剣だけで相手してやった。


 魔法すら使う必要がないほど低レベル。剣術では二、三人、腕のいい者がいたが、それ以外はお粗末そのもの。三学年になってこのレベルとは、呆れる他なかった。


 ……よくそんな腕で俺に模擬戦を挑もうなんて思えるなってもんだ。


 一部を除けば、あまりに低い戦技。魔法騎士学校の生徒はこれほどまでひどいのか。


 これでは卒業後の即戦力は数えるほどしかいないだろう。魔法騎士はエリートらしいが実技に関しては大したことはないな。


 これ、今のアーリィーなら余裕で主席とれるな、実力でトップ狙えるわ。


 しかし、これは参ったな。


 将来のエリートってのを見込んで、大帝国に対して作っている俺の反乱軍で使えそうな人材を探してやろうと思ったのに。


 レベルが低すぎる!


 アーリィーの護衛もあるけど、俺はついでにスカウトなり目星付けも兼ねてここに来たのにさぁ!


 特に魔法騎士の学校の生徒だから、有能なら魔人機パイロットに育成も考えていたんだけどな。

 うちのシェイプシフターは魔人機に乗れないからね。

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