第145話、スピアヘッド


 王都の魔法騎士学校へ通学する準備が整えられている頃、ルーガナ領フメリアの町は平和そのものだった。


 王都から来た冒険者たちが、ボスケ大森林地帯へ魔物狩りに繰り出し、その成果に一喜一憂する。


 大森林から未踏地域、古代機械文明遺跡であるカプリコーン軍港拠点で、俺たちは兵器開発に取り組んでいた。


 魔力ジェットエンジンを積んだ航空機。シェイプシフターを使った飛行試験が繰り返されて、飛行データを順調に収集する中、俺たちは有人試作航空機は完成させた。


「これが、有人型魔力エンジン搭載試作機、スピアヘッドだ!」


 俺は、格納庫で、ベルさんとアーリィーにそれを披露した。


 全長は9メートルほど。航空機としてはかなり小型の部類に入ると思う。俺のいた世界のジェット戦闘機はだいたいその二倍くらいあったはずだ。


「ほー」


 ベルさんが、早速俺を見た。


「以前、飛ばした古代文明時代の戦闘機に似ているな」


 連合国にいて、大帝国と戦っていた頃、とある古代遺跡で見つけ、俺が一時期移動用に乗り回したやつ。ただ、戦争の間に失われたけど。


「凄いね。シュトルヒともまた形が全然違う」


 アーリィーは感心を露わにする。


 矢じり型の機体は、まるでSFの航空機っぽい。コンパクトにまとめられたボディは、正面からの空気抵抗を考慮した結果だ。


 大気中でスピードを出そうとすれば、先端が尖っていて細いほうがいい。嘘か真か、『もっとも空気抵抗を受けない形を描いて』と言われて、とある航空機設計者が紙に描いた図は、線が一本だけだったとかいう話を聞いたことがある。


 スピアヘッドは、胴体中央にコクピットを備え、ひと通りの操縦システムを備える。速度計や高度計といった本来なら当たり前の装備も標準装備。この辺りはテラ・フィデリティアの技術が使えるようになったのが大きい。


 なお操縦には、搭載されたコピーコアがかなりの部分をアシストできるようになっている。初心者でもある程度使えるように、な。


 運用記録の収集から、オートパイロットも可。パイロットが何もしなくても離陸から着陸までやってくれたりする。


 ディスプレイはタッチパネル対応――操縦者の指での選択をコピーコアが識別して反応する。このあたりはファンタジーが現代に追いついたな。


 機体を操るのは、操縦桿で上昇下降、旋回などを操作。出力を調整するスロットル、水平方向へのスライド用のラダーペダルが基本となる。実際飛んでると風の抵抗、風向きや旋回・上昇などの揚力の変化、エンジン出力の違いで挙動も変わるので、言うほど簡単ではない。


 そんなわけで、俺はスピアヘッドのコクピットに乗り込む。コピーコアことナビの機体チェックが行われ、オールグリーンとの返事。外装の確認をしていたシェイプシフター兵も異常なしを報せてきた。退避を指示した後、俺は魔力通信機をセット。


「それじゃ、行ってくる」

『行って来い』


 ベルさんの声が返ってきた。アーリィーは『気をつけてね』とこちらも魔力通信機で言った。


「浮遊装置、作動」


 パチン、とスイッチの音がコクピットに響く。魔法効果による機体の上昇。シュトルヒ戦闘機でもやったが、機首にプロペラがないので、正面視界が実にクリアだった。


 航空機用魔力エンジン、ME-2C型が、取り入れた酸素と魔力を燃焼させ、爆発的な加速を生み出す。


 魔力エンジン搭載のウェントゥス戦闘機、その最初の有人飛行。俺が操るスピアヘッドは蒼空へと飛び上がった。


「速い!」


 グンとロケットのような加速。シュトルヒとはだんちがいの速度。体に掛かるGも強い。テラ・フィデリティアの技術のひとつ、加速補正器でパイロットに掛かるGを軽減する。


 ディアマンテ曰く、機械文明末期には無人化が進んでいたが、有人機もまたあって、高性能な機体にパイロットが殺されないように補正装置を搭載していた。


 俺の世界でも言われていたっけ。戦闘機を扱うに当たって、急所となるのは脆弱な人間だ、ってやつ。高いGに気絶したり、臓器が潰れたり、まあそういう時は機体もヤバイんだけど、人間はそれ以上に弱い。


 調子に乗って振り回したら、Gで失神。パイロットの意識不明による墜落、なんてこともあるだろう。


 まあ、このスピアヘッドには、コピーコアが積まれているから、万が一の時は操縦を取り戻して自動で飛ばしてくれるけど。


 加速し過ぎて人間が死ぬこともあるのを思い出した。


 その点、シェイプシフターやコピーコアはこの程度のGなど問題としない。……なるほどね、無人機がもてはやされるわけだ。


 さて、スピアヘッドの加速は申し分なかった。シュトルヒ戦闘機はもちろん、ベルさんの飛竜形態よりも断然スピードがある。これならば敵飛竜に追いつき、または引き離すことも余裕でできるだろう。


 加速を優先させただけあって、舵の利きはよろしくなかった。一方で後部にある二枚の垂直尾翼により、ラダー操作は充分で、直進させるのは苦ではなかった。


 スピアヘッドは試作機。本格的な戦闘機は、今後設計を煮詰めて形にしていく。


 今、考えているのは、4つ。


 1、シェイプシフター専用の軽戦闘機。

 2、有人仕様の対ワイバーン戦を考慮し運動性を重視した軽戦闘機。

 3、ワイバーン戦を想定しつつ、大帝国の艦艇を撃破できる攻撃力を備えた重戦闘機。

 4、地上爆撃、対艦攻撃を重視した攻撃機兼、偵察機。


 シェイプシフターについては人間と違って形を変えられるため、人間が乗り込むようなコクピットは不要だ。対Gも優れているから、その分の装備もいらないので、機体性能に全フリができる。


 2は、俺やベルさん、シェイプシフター以外の人間パイロット用の戦闘機だ。ワイバーン戦を重視し、ある種、短距離迎撃機になるだろうか。


 3は、対空、対艦、対地と相手を選ばない、いわゆるマルチロールファイターである。俺の世界の現代のジェット戦闘機同様、複数任務をこなせる機体を目指す。


 4はワイバーンではなく、地上の敵部隊やモンスター集団を爆撃したり、大帝国の空中軍艦を破壊するための武器を搭載する機体だ。これには速度や運動性よりも、武器の搭載能力が重視される。

 さらに、これら爆弾の代わりに燃料タンクを積んで、長距離偵察をこなせないかと思案中である。


 これらの航空機に加え、現在復旧中のカプリコーン軍港で、航空艦艇が建造できるようになったなら、ぜひ空母も作りたいところだ。


 いやはや、空を支配していると思っているだろう大帝国を脅かす戦力が整えられたなら……。そう考えたら、脳汁止まらないな!


 俺はスピアヘッドのテスト飛行を終えて、カプリコーン軍港拠点へと戻った。

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