第138話、対抗手段と、腕利きの獲得
魔人機ドゥエルには、魔法障壁という防御手段があり、飛び道具を弾く効果がある。
ただディーシーが解析した結果によると、この障壁は低速のものに対しては効果が薄く、近接攻撃だとすり抜ける率が高いらしい。
「おいおい、オレ様がぶん殴ったり時は防がれたぜ?」
ベルさんがカリッグ改で攻撃した際に弾かれたのは、俺も見ていた。ディーシーは答えた。
「操縦者が防御に集中した場合は、近接武器や低速攻撃も障壁で防げるんだ」
「それってあれか。互いに殴り合っている時は障壁はないも同然だが、相手の攻撃を防ごうと構えたら発動する、みたいな」
「そういうことだよ、ベルさん。ただし、どのような状態であっても、高速で飛翔する飛び道具に対しては無効なのは変わらない」
「なるほど、完全ではないにしろ近接攻撃なら一応やれないことはないわけだ」
ベルさんは頷いた。ディーシーは首を横に振る。
「だが確実とも言えないがな。そこで確実に効果があるのが、今回入手したドゥエルタイプの剣だ」
ディーシーは、これまで見たことがない金属でできたこの剣をお使えば、魔法障壁の効果に関係なく切り裂くことができるのだという。
「まったく知らない金属? 大帝国が未知の新技術を開発したということか?」
「さあな。だが、古代文明の遺物の可能性もなくはない」
「おいおい、魔人機は大帝国が作った兵器じゃないってのか?」
ベルさんが問えば、ディーシーはカリッグとドゥエル、それぞれを指さした。
「ドゥエルタイプと、それ以外の機体で完成度が違う。カリッグにドリトールは、ドゥエルに比べて、品質も劣るし、どこか造りも雑だ」
「そういえば、ドゥエルに乗っていた奴が、真の魔人機がどうとか言ってなかったか?」
そういや、そんなこと言ってたな。
「上位版と下位版の違いかと思ったけど……ひょっとして、ドゥエルタイプは古代文明時代のもの。カリッグとかはドゥエルを元に大帝国が作ったものの可能性があるか?」
「証拠はないがね」
ディーシーは頭を傾けた。
「ただ、テラ・フィデリティアの時代には、魔人機は存在していなかったのは間違いない」
「ディアマンテに確認したのか?」
「ああ。記録は見せたのだがな、機械文明時代にはなかったそうだ。無論、例の剣の金属もな」
「つまり、古代文明、いや機械文明が滅びた後の金属ってことか?」
機械文明が滅びた後の文明が作り出したものかもしれない。
古代文明なんて、一言で済ませているが、実際は誕生したり滅びたりを繰り返しているわけで、魔人機を開発した文明があったかもしれないな。
そこでベルさんが鼻をならす。
「まあ、それはあまり重要じゃねえな。今必要なのは、その魔人機の障壁を貫通できる武器をこっちで作れるかってことだ」
「どうなんだ、ディーシー?」
「解析はできたからな。魔力され貰えるなら、こちらで生産できるよ」
「よしよし、これで大帝国がドゥエルタイプを押し出してきても、互角以上に戦えるな」
俺はニヤリとした。まともな対抗手段があるとないとでは大違いだ。なければ不利な戦いを強いられ、最悪カモになりかねない。
「ディーシー、ふと思ったんだけど」
「何だ、主?」
「その剣に使われた金属だけど、それを砲弾の素材に転用したら、魔法障壁も貫通するんじゃないか?」
「あ……」
ディーシーは顎に手を当て、考える。
「確かに。障壁無効の素材ならば、飛び道具であっても貫けないとおかしいな」
「つまり、必ずしも近接戦じゃなくても、ドゥエルタイプをやっつけられるってことか?」
ベルさんが聞いてきたので、俺は頷いた。
「敵の障壁を無効にできるなら、魔人機以外の兵器でも対抗できるってことだ」
たとえば計画中の戦車や、現在配備されている8センチ速射砲でも、砲弾次第で打撃を与えられることを意味する。これは大きい。
「やってみる価値はあるな。有効な手段は多いほうがいい」
「ん? ひょっとして、他に何か障壁をぶち抜く方法があったのか、ディーシー?」
「……一応な。魔法障壁と言っても機体の魔力が作っている防御魔法と変わらない。強度以上の威力を叩き込めば、貫通は可能だ」
ただし――と、ディーシーは皮肉げに口元を緩めた。
「かなり強度が高いから、生半可な武器では抜けん。最低でもテラ・フィデリティアの戦闘艦艇の主砲であるプラズマカノンぐらいは必要だと、推定される」
「艦艇用のビックガンなんて、航空機や魔人機には無理だろう」
でかい砲塔を担ぐ、運ぶ、撃つなんてな。俺が苦笑すると、ディーシーはさらに言った。
「主のバニシング・レイくらいなら、余裕で貫通できるぞ」
「そうホイホイ使うものでもないがな」
1機や2機のドゥエルを吹き飛ばすのに極限魔法は効率が悪過ぎる。だが、覚えておこう。威力さえあれば、力技で障壁を破壊できることは。
・ ・ ・
「――で、お前さんは、俺に何の用だ?」
フメリアの町に戻った俺の前にいたのは、傭兵兼暗殺者のサヴァル・ティファルガ。アーリィー暗殺未遂事件――雇われただけのこの男は、とっとと釈放したんだけど。
「つれないことを言わないでくださいよ、ジンの旦那」
暗殺者は狩猟帽を取る。日に焼けた肌、割と渋格好いい顔立ちをしている男だ。
「仕事がなくなったのでね。その前の仕事が王子暗殺なんてヤバイ案件だっただけに、しばらく王都には戻れない。だからそちらで雇ってもらえないかな、と」
王族暗殺だけでもアウトなのに、失敗したとあっては、確かにおめおめと帰れないわな。まず、口封じ対象で消されるパターンだ。
「聞けば、旦那んとこは傭兵団じゃないですか。一応、同業者なんですから、そう悪い話じゃないと思いますがね」
「自意識過剰じゃないのか? うちのレベルは高いぜ?」
「これでもAランクの暗殺者ですぜ」
「悪いな、小僧」
黒猫姿のベルさんがやってきた。
「オレもジンもSランク冒険者だ」
「あれ、旦那はBランクじゃありませんでしたっけ?」
「よく知ってるな」
「職業柄、情報収集は欠かせないのでね」
「なるほど。ランクについては少々訳ありでね。ここではBランクだが、向こうじゃSランク冒険者になってる」
「そりゃ確かに、レベルが高いですね」
サヴァルは苦笑して大げさに肩をすくめた。
「まあ、暗殺者やってるんで、情報収集や暗殺、汚れ仕事は何でもやりますよ」
ん? いま何でもって言った?
「じゃあ、便所掃除でもやってもらおうかな」
俺の言葉に、ベルさんが意地の悪い笑みを浮かべた。サヴァルも口元を緩めた。
「旦那はユーモアのセンスがある」
「それは冗談として、いいだろう。ウェントゥス団で雇ってやる。当面は用心棒でもやってもらう」
これからは王都とここを往復する回数も時間も増えるからな。留守の間、シェイプシフター兵以外で、フメリアの町を見る腕利きがいるのは心強い。
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