第131話、大帝国艦艇の侵入


 ルーガナ領に、大型の飛空船が侵入してきた。

 ディーシーの念話に俺も念話で返した。


『大帝国か?』

『おそらくな。ラールナッハの逃走ルート上だ。ひょっとしたら合流するつもりかもしれん』

『迎えに来たってことか』


 だとしたら、厄介だな。お船に乗って逃げるという可能性もある。


『いや、我としては船の侵入が気になる。合流したのち、フメリアの町を攻撃してくるつもりかもしれん。主、我らが大帝国の帝都で見た飛空艦を覚えているか? あれと同等の大きさだ』


 こうもあっさり侵入を許すとはね。さすがに空から入ってくるものには国境は役に立たないか。


 北の隣国シェーヴィル王国じゃ、いま大帝国が攻めてきていて、飛空艦も用いている。そこから回されたのかもしれない。


 大帝国としても、ヴェリラルド王国の王位継承最有力が辺境にいるから、この機会に始末しておこうと考えてもおかしくはない。ラールナッハの誘拐は失敗したわけだし、只で引き下がる手もないだろう。


 フメリアの町に来た時のために備えないといけないな。


「ベルさん、ちょっと」


 俺が首を振ると、暗黒騎士は歩き出した。


「オレも聞いてた。やっけつけに行くんだろ?」

「こっちへ来るならね」


 いや、ラールナッハと合流するなら、まとめて片付ける必要があるか。領内に侵入したんだ。只で返したら、面目が立たないだろう。


「とはいえ、どう対処したものか」


 地下から1階への階段を上がりつつ、考える。


「帝都で見たやつより大きいってんだろう? シュトルヒに爆装したところで、撃沈できるか微妙だ」


 では古代文明時代の空中艦艇はというと、ディアマンテがカプリコーン軍港を再生中でまだまともな艦艇は1隻も使えない。


 ウェントゥス号は、そもそも戦闘を考慮した飛空船じゃないからこれもなし。


「空を飛んでいる敵となると、魔法か?」


 ベルさんが言った。俺は苦笑する。


「実際に敵を見ていないから断言できないが、バニシング・レイをぶち込めば一発轟沈させるんじゃないかな」

「じゃあ、それで行くか。現場までオレが乗せていってやるぜ」


 手段が決まったので、ディーシーと合流。アーリィーたちは……まだそれどころじゃないか。ちらほら執事やメイドさんの姿があった。


 ラールナッハらが冒険者に扮してきた時、ザンドーが敵ではない証明していたから余計なことにならず、害されることがなかったようだ。運がよかったよな。


「ビトレーさん」


 執事長が通りかかったので、敵が来ているみたいだから、ちょっと迎撃してくると伝言を頼んでおく。


「近衛隊を動かさなくてもよろしいのですか?」

「こっちで何とかなる程度なんで、大丈夫」


 ぶっちゃけ、飛空艦艇に近衛騎士が何の役に立つというのか。


 後のことを任せて、ドラゴン形態に変身したベルさんの背に乗り、DCロッドになったディーシーを手にいざ空へ飛び上がった。



  ・  ・  ・



 数分後、高度3000メートル付近を飛行する飛空軍艦を目視確認した。ラールナッハを収容したようで、さらに高度を上げつつある。


 ゆっくり流れる雲に紛れ、俺は遠距離視覚の魔法を発動し、拡大視認。


「……間違いない。帝都カパタールの上空で見た艦だ」

『大帝国か』


 ドラゴン形態のベルさんもその目を、点のように見えるそれに向けていた。


 水上艦艇を思わせる艦体。艦橋は艦首寄り。横から見た限り、主砲は艦首の上下に1基ずつ。艦尾にも同じく上下に1基ずつ。横からだから単装なのか複数砲門があるか分からない。全長は……150メートルくらいかな。


『例の高高度浮遊群で見た船よりは小さいな』

「ああ、アンバル級」


 ディアマンテに鎮座している廃墟艦を見せたら、そう教えてくれたやつ。あれは全長185メートルのライトクルーザー。あれと比べたら、大帝国艦は小さい。


「あの艦が使えればな……」


 アンバンサーとかいう異星人の艦艇を一撃で破壊した砲――プラズマカノンというらしいが、それがあれば、あの大帝国艦も簡単にやっつけられるだろうにな。


「それより、ベルさん。大帝国艦の中央の甲板、見えるか?」

『お人形さんが並んでいるように見えるな』


 皮肉げにベルさんは答えた。


『魔人機だろう? ドゥエルと、カリッグか?』

「こちら側にドゥエルが1機、カリッグが2機だな……反対側にも同数を載せているかもしれない」


 こちらからでは、ちと見えないが。


『地上に下ろされたら面倒だ。さっさとやっちまおうぜ』

「まあ、待て。極大魔法を撃ち込めば簡単だが、せっかくだし、データを取ろう」

『まーた、面倒増やしてね?』

「さっさと沈めたほうが楽ってんだろう? 楽に終わるんなら、ひと手間掛けるのも一興というもんよ」

『何を狙ってる?』

「あの艦、たぶん大帝国の主力艦艇だと思う。だったら、今のうちにデータを取っておきたい」


 ディーシーにスキャンさせて性能を把握する。構造はもちろん、武器の解析。装甲の厚さや弱点などなど。それと――


「ちょっと試してみたいことがある。場合によっては見物かも」

『ほほう、どんな企みだ?』

「あの空中艦も浮遊石を用いている」


 艦の側面に巨大レシプロエンジンがついているが、あれは推進用で、艦体を空に浮かべるだけのパワーはない。


『だな』

「で、その浮遊石を取り除いたら、どうなると思う?」

『自重を支えきれなくなって落下する……。ああ、なるほど』


 ベルさんも得心が行ったようだった。


「浮遊石がなくなったら、あのレシプロエンジンでどれだけ粘れるか、見てみたくない?」

『そりゃ確かに見物だな』

「せっかく単艦行動してくれているんだ。実験に付き合ってもらおう」


 俺はニヤリとした。浮力を失い、大地に叩きつけられたら、どう壊れるのか、ね。

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