第121話、襲撃者たち
「動きがありました」
シェイプシフターの杖ことスフェラが俺に報告した。
「ザンドーが雇っている傭兵たちが、一斉に森に入りました」
「全員か?」
「はい、全員です」
スフェラは首肯した。ベルさんは、ディーシーのホログラフィックマップを眺める。
「行き先が分かっているからな。王子様の向かう古代の森、その道中で待ち伏せってところか」
「だろうね」
ボスケ大森林地帯の中にある古代の森と呼ばれる場所がある。すでに冒険者たちが何度か足を運び、ギルドではその情報が開示されていたりする。
「何人かは冒険者クエストと並行して下見もしていたみたいようだからな。待ち伏せポイントも見つけているかもな」
「それで、こっちはどうする? 取り押さえるか?」
ベルさんが確認する。俺は「いいや」と首を横に振った。
「連中に手を出させる。……せっかくお供がいるんだ。目撃者は多いほうがいい」
「なるほど」
ニヤリとベルさんは笑った。
「この分だと、ザンドーの野郎は、フメリアの町から動かないか」
「守備隊長が持ち場を離れてフラフラするわけにもいかないだろう」
「だが、嬢ちゃんの性別を知っているかもしれんのだろう? 傭兵にだけ始末を任せるのか?」
「仕留めた報告をしにきた奴を口封じするのかもな」
それなら、暗殺対象の王子が『女の子』だと発覚しても問題あるまい。
「だが気をつけようぜ、ベルさん。ザンドーが王子の性別バレを警戒しているなら、標的だけじゃなくて、俺たち護衛も皆殺しにするように命じるだろうからな」
「口封じってやつな」
ベルさんは余裕の表情を崩さない。
「当日が楽しみだ」
・ ・ ・
翌日。王子ご一行がボスケ大森林に遠征当日。俺たちはフメリアの町からハッシュ砦、そして森林地帯へと入った。
俺、ベルさん、王子とオリビア近衛副隊長と部下5名、シェイプシフター兵が3名の合計12名のパーティーだ
最近は冒険者が活発に森に入っているから、入って早々に魔物に出くわすことはなかった。
ボスケ大森林内の古代の森までは、特にルート開拓が進んでいて、冒険者たちの目印や休憩ポイントなどが見受けられた。
暗黒騎士姿のベルさんが鼻をならす。
「ふん、この辺りは何とも静かになっちまったもんだな」
「人が通るようになって、その場で討伐されているんだろうよ」
商人や村人だったら犠牲者がー、と危険なルートだが、通るのが武装している冒険者しかいない。よほどの高ランクモンスターでなければ、飛んで火に入る夏の虫ってやつだ。
先を行く俺とベルさん。すぐ後ろにアーリィー王子がいて、オリビアら近衛騎士が続く。
「……」
もし、普段の俺たちを見ていたら、ちょっと不自然に見えるかもしれんな。
「ベルさん、どうだい?」
「潜伏している奴を二人確認」
魔力サーチをかけているベルさんは、森に潜んでいるそれを見つけた。
「こっちを観察しているってことは、ルーキー狩りじゃなきゃ、例の暗殺者どもだろうな」
新人冒険者を、モンスターの蔓延る危険地帯で密かに襲う盗賊紛いの冒険者――初心者狩り、ルーキー狩り。時々そういう奴もいる。
あれだ、傭兵と冒険者を兼業している者もいるように、冒険者と盗賊を兼業している奴もいる。貧乏なところだと、騎士が盗賊を兼業していたりもする。世も末だ。
「全部で5人だったな」
「まずは2人」
来るぞ、とベルさんが呟いた。
その時、矢が飛来して、アーリィーの頭に直撃――しなかった。偶然か、突然前に屈んだせいで矢が外れたのだ。
地面に突き刺さる矢。オリビアが驚き、声を張り上げた。
「アーリィー様! 周辺警戒!」
たちまち近衛騎士が盾を構えて王子の周りを固めた。すると別方向の茂みが揺れ、潜伏していたもうひとりが現れる。手には何やら火のついた球体があって投げようとしていた。
「手榴弾か!」
俺は無詠唱エアカッターを放ち、投擲姿勢の暗殺者の右手首を切断した。
「……えっ」
その暗殺者の手首がズレ、爆弾がしばし宙に浮いた。投げられなかった爆弾がボトリと手首ごと落ちた瞬間に爆発。暗殺者を吹き飛ばした。
矢で足止めして集まったところをまとめて、か。中々やるもんだ。成功しなければ意味はないがな。
「まずひとり」
俺は、最初の襲撃者のいた方へ視線を向ける。クロスボウ持ち――新しい矢を装填し終わり、再び暗殺対象の王子を狙おうとしていた。
が、放たれた猟犬よろしく、ベルさんが茂みをかき分け、暗殺者に肉薄した。
「ザザーン!」
「っ!?」
暗殺者が迫る脅威にとっさにクロスボウの向きを変えた。だがデスブリンガーの動きが早く、凶刃がその体を引き裂いた。
これで2人。ザンドーが連れ込み、継続している傭兵で残っているのは後3人。
「ジン殿!」
オリビアが俺を呼んだ。
「今のは襲撃者ですか!?」
「だろうね」
暗殺者だろうことはわかっているが、オリビアたちは知らないんだよな。
「まさか、王子殿下の命を狙って――」
「かもしれない。クロスボウによる狙撃に、爆発物のコンボで、こちらをまとめて倒そうとしたんだろう」
俺は、戻ってきたベルさんを見やる。暗黒騎士が肩に担いでいるのは襲撃者の死体。
「見ろよ、オリビア。こいつ、傭兵だぜ」
ドサリと雑に死体を放るベルさん。オリビアは襲撃者の顔と格好を見やり、顔をしかめた。
「ザンドー隊長が雇っていた傭兵じゃないですか! 何故、この者が!?」
「さあね。……おい、ジン。そっちは」
「こっちも傭兵っぽいな。半分焼けちゃったがね」
爆発のせいで、ちょっと正視に堪えないけど。
「何かわからんが、アーリィーを狙ったのは間違いなさそうだ。どういう手合いか」
「ザンドーの野郎に聞いてみるか。こいつらを雇ったアイツなら、何か知っているかもしれん」
しれっと、ザンドーに意識が向くように誘導する俺とベルさん。アーリィーは無表情で、襲撃者の死体を見下ろしていた。
オリビアは発言した。
「アーリィー様、こんなことがあった以上、引き返しましょう。まだ危険やもしれません」
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