第117話、ジェットエンジン――まずはロケットから
ジェットエンジン……。それは噴流――つまりジェットを作って、その反作用を利用して進む熱機関だ。
基本は外から取り入れた空気を燃やしてジェットを生成する。これに酸素と燃料を合わせるわけだが、テラ・フィデリティアの魔力式は燃料がマギア粒子と呼ばれる、いわゆる魔力に置き換わっている。
つまりは、取り入れた空気に魔力を流し、それをエンジン内の燃焼室で爆発させ、発生した燃焼ガスを後方へ噴出し、その反作用で推力を得るわけだ。
かなり乱暴な言い方をすれば、爆発魔法エクスプロージョンを連続して発生させ、そのエネルギーで飛ぶというわけだ。
それを聞いたベルさんは、皮肉げに口もとを歪めて言った。
「まるで、屁をこいて空を飛ぼうって言ってるように聞こえるぜ?」
「その屁に充分に推進力があって、それを連続で出せるなら空だって飛べるんじゃないかね?」
俺も皮肉で応酬した。
「図面はある。材質についても多少改良したけど、用意できた」
「ほーん」
「魔法による爆発に耐えられる材質が必須だったんだけどね。幸いなことにルーガナ領ではクズ金属をコバルト金属へ加工できる技術がある」
エンジン内の燃焼室にはコバルトを改良した合金をすることで、耐久性はクリアできた。テラ・フィデリティア時代の合金については、ディーシーのほうでも学習できたので問題ない。
この世界のコバルトは魔法に対して強く、特に熱の耐性に優れる。爆発の魔法では傷一つつかないのだ。コボルトさんに働いてもらうことで入手も優しい。ルーガナ領がコバルト生産を主にしていたのが、こんなところで役に立つとはね……。
「そういえば、ロケットは面白い見世物だったぜ」
ベルさんが、先に行われたロケットエンジンの実験を思い出す。
ジェットエンジンを作る前に、まずロケットエンジン――推進剤を噴射してその反動で推力を得るタイプのエンジンを作った。
ここでいう推進剤とは魔力である。先のジェット推進の説明どおり魔力を燃焼ガスに変換して推進力を得る。
その後にエンジンを作る。ディアマンテの協力のもと、ディーシーやシェイプシフター工作班で部品を生成し組み立てた。
それで完成した試作魔力式ロケットエンジンを、カプリコーン遺跡の外でさっそくテストをした。
ちなみに、今は遺跡だけど、そのうち基地とか軍港って呼ぶことになると思う。閑話休題。
結果を言うと、第一回稼動試験の際、わずか5秒の燃焼時間にも関わらず、固定器を振り切って、ロケット弾よろしくエンジンがすっ飛んだ。
まさしく爆発的推進力だった。ギャグかよ、と俺は思ったが、まあレシプロエンジンとは桁違いのパワーを見せつけた。
こいつをお手軽改造して、ロケットランチャーでも作ろう――と、大笑いするベルさんの横で思った。
・ ・ ・
魔力ロケットエンジンの試験は順調に進行した。亀裂が入ったり壊れたりというトラブルもなく、耐久性の面では問題点は見つからなかった。
「元の設計が優秀ということもあるけど」
試験を見に来ているアーリィーに俺は言った。
「あとは推力と、消費する魔力についてだな」
「というと?」
「推力に使う爆発をマシマシにすれば、魔力の消費は大きくなる。だけど積んでいる魔力を使い果たせば、その推力を生み出すこともできなくなるんだ」
これは俺のいた世界でも同じだ。巡航速度は燃費がいいが、全速力で飛べば燃料の消費が早くなって長時間飛んでいられなくなる。
燃費の向上については改良していく方向だが、とりあえず五、六分程度しか飛べない飛行機でも、空中での機動試験などはこなせる。
そこで、実際にエンジンを載せた飛行機を作り、それで試験する。レシプロ機の時と同様、最初は無人機で実験だ。……哀れシェイプシフター君がテストパイロットを――と、ここで少し方法を変えてみた。
「乗り込む場所がないね」
「ああ、シェイプシフターだからね。わざわざ人の形にしなくてもいいんだ」
シェイプシフターが機体を操るのは同様だが、無人機使用なら、何もコクピットを作る必要はない。
つまり大きなシェイプシフター君に、飛行機の形に変身してもらい、後部にロケットエンジンを抱えて飛んでもらうのである。
一見、非常に馬鹿げた案ではある。黒スライムを戦闘機に化けさせて、エンジンを載せて飛ばそうなんて。
が、空中での機体制御をシェイプシフター自身が行うことで、舵の利き、機体の反応、翼の形状をダイレクトに反映できる。シェイプシフターが機体の形状を変えていくなら、いちいち実験のためのボディを製作する手間が省けるというメリットもあった。
部品の節約、製作時間の節約――すなわち、経験値収集が早くなり、短期間での航空機開発ノウハウの蓄積が期待できた。
なお形状の変化などは、コピーコアも一緒に載せることで記録に残す。最適なデータだけではなく、無駄のある飛行データも残すことは、それ以後の研究にも役に立つ。
形状については、テラ・フィデリティア航空軍のデータを参考することである程度の時間短縮が可能だ。
……本当はテラ・フィデリティアの機体を丸々コピーもできたんだけど、当時の人間がいないから、俺たちじゃ機能を全ての機能をフルに活用できないんだよね。
ディアマンテは数字やデータは語れるけど、戦闘機を飛ばしたことはない。実際に動かす側の人間の感覚、操縦のしやすさなどは、俺たちが自力で開拓していかないといけないのだ。
だから、専門用語たっぷりの辞典のような航空機ではなく、シンプルなイラスト付きの薄いマニュアル本みたいな航空機に再設計しているってわけ。基礎を知らねば応用もできず。一歩一歩やっていくことが大事。
「さあ、うまくいったらお慰み」
なに、シェイプシフター君は墜落くらいでは死なない程度に物理耐性がある。爆発したら……たぶん助からないけど。
轟っ、とエンジンが轟音を発し、初飛行は開始された。
「凄い音!」
アーリィーが両耳を押さえながら声を張り上げた。
矢じりのような形をしたシェイプシフター飛行機は、ロケットの推力を低めに調整して飛ばした。
「飛んだ!」
「おー」
アーリィーに続き、ベルさんも、目で黒い飛行機を追った。
シェイプシフターボディのため、機体の重量はとても軽い。出力が低めでもよく飛んだ。カプリコーン遺跡上空を真っ直ぐ飛んで、緩やかに旋回。それを繰り返し、およそ三分ほどで駐機場とは名ばかりの平地に降りてきた。
エンジンを切って、グライダーのように滑空する。着陸というより、鳥が着地するような感じで、その時の形状は明らかに飛行機のそれと違ったのだが……まあ、そもそもちゃんとした滑走路とか作ってないし、初飛行だからそこは目をつぶろう。
試験を繰り返してロケットエンジンが成功したら、いよいよジェットエンジンだ。
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