第118話、ウェルゼン


 ロケットエンジンでの初飛行は成功に終わった。


 地上に降りたシェイプシフター飛行機君に、俺とディーシーは飛行の感想を聞いた。……飛行機に話しかけるとか、ファンタジー過ぎる光景であるが仕方ない。


 なお、飛行機の機首からの景色はコピーコアが記録していたので、実際に飛んだらどう見えるかの映像も見ることができた。……大半は空で、時々地表が少し映った程度だけどな。……アーリィーは滅茶苦茶、喜んでいた。


 試験記録のバックアップを取りつつ、飛行実験はその後、何度も繰り返された。最適化は、スフェラとディーシーで何とかなりそうなので、俺はエンジンの開発のほうに戻った。


 ロケットエンジンは第一段階。本番は、ジェットエンジンにある。


 ロケットは内部燃料を消費するだけだが、この世界で開発するジェット推進エンジンは、大気中にある空気と魔力を取り込み、それを燃焼に利用する。つまり、内側の魔力タンクのみならず、外からも魔力を取り入れるのだ。


 これにより燃焼魔力の消費を軽減させ、かつ燃焼の力自体を下げることなく行う。使用魔力の効率化。航続距離――飛行時間と言ってもいいが、それをかなり伸ばすことが可能となる計算である。


 そういう意味では、元いた世界のジェットエンジンとは違うんだけどね。ディアマンテに手伝ってもらい、魔力式ジェットと、それを搭載する航空機の設計をした。当然ながら有人機仕様だ。


 シュトルヒに代わる新型戦闘機を!


 だがせっかくのジェットエンジンなのだから、戦闘機だけではなく攻撃機や偵察機なども開拓していきたい。


 ワイバーン対策のみならず、大帝国との戦いに備えて、やれることはやっておきたいのだ。


 フメリアの町を魔人機で襲撃しようとした大帝国。まだ本格的な軍の攻撃こそ、この国で始まってはいないものの、隣国が連中に侵略されているという話もある。


 遅かれ早かれ、大帝国はこの国に攻めてくる。



  ・  ・  ・



「でー、今度は魔人機か?」


 ベルさんが皮肉っぽく言った。俺は意地の悪い顔になるのを自覚する。


「いやいや、まだまだ作るものはいっぱいさ。戦闘機、魔人機、戦車に装甲車。ヘリコプターも作りたいな」

「へ、ヘリ? なんだそりゃ」

「そのうちわかるよ」


 俺はニッコリ。今なら月月火水木金金の精神で開発しまくるよ。カプリコーン遺跡の再生が進めば、空中艦艇のほうにも手をつけるぞ!


 ということで、魔人機だ。


「将来的に、大帝国はこれを陸戦の主軸に置くと思う」

「だろうな。帝都での防衛戦で連合軍を蹴散らしているのをオレらも見ているからな。あれが使えるなら、平野での会戦で使わない手はないぜ」


 俺たちが連合軍を離脱した直後、大帝国との戦争の決着かと思われた戦い。そこで大帝国は起死回生の反撃を試みた。


 他人事を決め込んで観戦した俺たちだったけど、あの戦いは明らかに大帝国の圧勝だった。


 機械兵器の集中投入で、中世レベルの連合軍は文字通り蹴散らされた。大帝国は、機械兵器を据えて、猛反撃に出ているという。


 まだ正式な戦争状態ではないこのヴェリラルド王国にまで数機の魔人機を送り込んできている始末。連中は魔人機を大量に生産しているとみて間違いないだろう。


「戦争の形が変わる」


 魔人機への対抗兵器がなければ、大帝国の進撃を阻むことはできない。


「そのための戦闘機であり、戦車であり、ヘリコプターでもある」

「フムン」

「まあ手っ取り早いのは、敵と同種の兵器を用意することだ」


 古今東西、歴史を紐解けば、その結論に行き着く。兵器の歴史とは、ひとつの発明に対して対抗するものが作られ、そこから相手を上回ろうと開発競争、そしていたちごっことなる。


「それで、先日ドゥエルタイプを手に入れたことで、研究に弾みがついた」

「ああだこうだ、こねくり回したもんな」


 ベルさんがニヤリとした。俺はディーシーに、魔人機のホログラフィック表示を頼む。


「こっちがドゥエル。それでこっちが、こちらで作る機体。ベースはドゥエルタイプなんだけどね」

「……へぇ、外見を変えただけで、結構印象変わるもんだな」


 感心するベルさん。2機の表示の横に、カリッグを並べて見せるとさらに目を細めた。


「なるほどなぁ。こうやって三つ並べてみると、うちで作るヤツとドゥエルタイプは似てるかもしれん」

「な。フェイスは違うけど目の部分なんかそっくりだろ」


 肩の先端が尖って三角なのがドゥエル。うちのは四角。カリッグがその厚みある装甲デザインのせいか曲面が多いのに対して、ドゥエルタイプは三角。こちらは四角な面が多い。


「ところで、こいつに名前はあるのか」

「ウェントゥス傭兵団タイプ1。仮の名前として『ウェルゼン』とつけた」

「ウェルゼン……『岩』か?」

「最初だからね。こいつは原石だ。より磨いて強くしていこうってことさ」


 魔人機タイプ1ウェルゼンは、大帝国の魔人機の装備を内蔵している。両肩に魔法砲と呼ばれる射撃武器。魔法障壁という投射武器無効の防御装置など。


 こいつには俺のいた世界でのアニメや漫画のロボット兵器の案を色々取り入れていく。


「先日ロケットエンジンが成功してジェットエンジンを研究中だが、そいつをウェルゼンの背中に取り付ける」

「ジェットエンジンを?」

「飛行する、というか加速したりジャンプ用にな」


 大帝国にはない装備だ。俺の世界じゃ実際の人型戦闘メカはなかったが、こと創作の世界ではごまんとあった。使えるアイデアはどんどん取り入れていくぞ。


「ただ、問題もある」

「ほぅ、どんな?」

「ドゥエルタイプのような上位魔人機を動かすには魔力適性が必要だ。つまり、誰にでも動かせるというものでもない」


 俺やベルさん……ディーシーもやりようによっては可能。だが――


「うちのメインどころであるシェイプシフター兵では、ウェルゼンが扱えない」

「そりゃあ問題だな」

「まあ、カリッグの方は、誰でも使えるんだけどね」


 魔法障壁なし。ドゥエルタイプより性能は落ちるが、シェイプシフターたちにはそっちをベースにした魔人機を使ってもらうことになるだろう。


「大帝国も、魔力適性がない者のためにカリッグとかを開発したんだろうね」


 その他大勢を占める雑兵にでも動かせるもの。兵器の開発において、実に正しい判断である。


 ディーシーは、カリッグのデータを叩いた。


「正直、ドゥエルの――正確には魔法障壁の前ではカリッグは手も足も出ないがな」

「だが、あの障壁を破る武器があれば、カリッグやドリトールでも対抗できなくはないぞ」


 俺は指摘しておく。所詮、機械兵器は、装備する武器でその強さが左右される。その武器が持てるなら、ドゥエルでもカリッグでもドリトールでも攻撃力では同等になれる可能性があるのだ。

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