第114話、カプリコーン


 機械文明の兵器の知識を、俺たちは獲得した。対大帝国戦に向けての準備も、大いに捗るに違いない。


 ディアマンテとの会談の後、俺たちはディアマンテに連れられて巡洋戦艦の航海艦橋へと上がった。


「ご覧の通り、艦体各部の劣化が激しく、即時の作戦行動は不可能な状態です」

「さっきの艦長室は新品同様に綺麗だったが……?」


 後も俺たちが通った場所は、清掃が行き届いているかのように綺麗だった。


「これでも元艦隊旗艦ですから。お客様をお迎えするのに、だらしのないところを見せるわけにもいきません」


 ディアマンテは、まことに女性らしく言った。機械文明時代の制御コアも中々やるものだ。ダンジョンコアから擬人化するディーシーで慣れてなければ、まだ面食らっていたかもしれないな。


「修復した?」

「はい、マギア粒子――ああ、この時代では魔力と呼ばれていましたね。その力で艦内の再生処理を致しました。制御コアは、艦の修理や整備もできるようになっていますから」

「すると魔力があれば、このふねも完全復活するということか?」

「はい」


 ディアマンテは力強く断言した。


「もちろん、魔力を供給していただく必要はありますが。充分な魔力を得られるならば、我が『ディアマンテ』のみならず、このカプリコーン浮遊島軍港の設備の復活も可能です」

「それは凄い!」


 つまり、この廃墟遺跡が、機械文明時代と同様の姿に戻る術があるということだ。しかもそれは大量の魔力が必要ときているが、この遺跡の下には、濃厚な魔力を生み出しているプチ世界樹がある!


 そこからの魔力を供給すれば、この廃墟遺跡の完全復活も時間の問題となるだろう!


「あ、あのディアマンテ……」


 アーリィーがおずおずと切り出した。


「いま、何て……? 浮遊島って言った?」

「はい。ここはカプリコーン浮遊島軍港――テラ・フィデリティアの保有していた軍事浮遊島です」

「ここ、浮遊島だったの!?」


 アーリィーが顔を動かして俺たちを見回した。ベルさんが顔を上げる。


「そういや、ここの上に浮遊する岩とか残骸があったけど、あれって、カプ、カプリ――」

「カプリコーン」

「そ、そのカプリコーンっていう浮遊島の一部だったってことか」

「浮遊島は大地に落ちていたんだね!」


 アーリィーが興奮を露わにする。ディーシーが考え深げに首を傾げた。


「ここ妙な渓谷があったな。ひょっとしたら浮遊島と元からの地形の境目だったかもしれんな」

「どういうこと?」

「このカプリコーン浮遊島とやらの下に、世界樹があっただろう? ずいぶんと妙な場所に生えると思ったが、浮遊島が落下してきたせいで、結果的に地面の下のようになってしまったと考えられないか?」

「もう少しズレていたら、世界樹が浮遊島に潰されていたってか?」


 結構ギリギリだったかもしれんね、そうなると。まあ、それはそれとして――


「空の上の軍艦、このディアマンテ号に結構似てたな」

「そうなのですか?」


 ディアマンテが首を傾げたので、俺はディーシーに、記録したホログラフィックを出すように言う。


 青く立体投影されたそれ――あのカブトガニもどきから俺たちを助けてくれた軍艦を見やり、ディアマンテは目尻を緩めた。


「アンバル級ライトクルーザーですね。はい、テラ・フィデリティア航空軍の量産型巡洋艦です。損傷していますが、比較的原型を留めていますし、再生は可能かと」

「そいつはありがたい」


 修理できるなら、あれも空中軍艦の重要戦力となるだろう。


 このカプリコーン浮遊島軍港には、ディアマンテ級以外にも複数の廃墟艦艇があるから、これらも魔力再生して戦力化も可能だ。いいねぇ、いいよ! テンション上がってきた!


「そういえばさ」


 ベルさんが言った。


「オレら、空の上で襲われたんだけど――ディーシー、あのカブトガニもどき出せるか?」

「あれか」


 ホログラフィックが切り替わる。ディアマンテの眉がピクリと動いた。


「アンバンサーの駆逐艦です。我らがテラ・フィデリティアの宿敵!」


 こいつがアンバンサーってやつか。


「アンバンサーの軍勢が、この星に再び襲来したのでは?」

「いや、こいつは空中の残骸の中を漂っていた。異星人の機械って言うなら、たぶんオートか何かで動いたんじゃないかな」


 でなきゃ、俺たちが来るまで動かずそこにいる理由がわからない。わざわざ残骸に隠れなくても、この世界の技術レベルを観察すれば速攻で撃ち落としたほうが早いってわかりそうなものだし。


 俺たちが近づき過ぎたから自動防衛装置か何かが働いたんだろ、きっと。


「だといいのですが……。早急に確認したいところですね」

「それには賛成。今も異星人がこの世界を狙ってるなんて、シャレにならないからな」


 大帝国なんて目じゃない。テラ・フィデリティア航空軍のない今、中世ファンタジー風世界など、あっという間に侵略されてしまうだろう。異星人文明からしたら現代なんて雑魚でしかない。


 それ込みで、カプリコーン浮遊島軍港を復活を急いだほうがいいかもしれない。異星人の兵器が襲来すれば厄介だし、仮に連中がいないのなら、大帝国にその戦力をぶつければいいわけだしな。



  ・  ・  ・



 カプリコーン浮遊島軍港の状況は、全施設が魔力再生が必要だった。


 本来の浮遊島と現在の形を確認した結果、浮遊島の3分の1がごっそりと消失していた。


 建造ドックを含めた兵器工廠が四ヶ所、そして島中央に施設があったのだが、消失部分が中央と三カ所に跨がっているために、再生して運用できるのが『ディアマンテ』のあった施設のみであることがわかった。


 真ん中をアンバンサーの超兵器によって吹き飛ばされ、半分になった浮遊島と端っこ部分が大地に落下して今の形になったそうだ。


 浮遊島側としては重要施設5つのうち4つを失うという不運なやられ方をした。端っこ部分が喪失部分に重なるように落下したためにこれを撤去しない限り、大破した施設の修復は不可能だ。


 そもそも端っこと言っても、数キロ単位の巨大岩塊なので撤去も不可能。大人しく、ディアマンテのいたドック施設だけ再生しよう。


 ディアマンテの提供したテラ・フィデリティア航空軍の技術は、俺たちの兵器製造の範囲を広げた。


 航空艦艇のほか、ジェットエンジン搭載航空機、戦闘車両、各種電子装備など多岐に渡る。


 こちらはそれらの技術を取り入れた各種兵器の設計、開発を俺たちは行った。

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