第110話、文明の跡


 最下層。そこそこ広い室内。透明なケースが壁一面をびっしりと覆っていた。シェイプシフター兵の報告通り、保管庫のようだ。


 何か古代文明の宝とか近未来的な装置を期待したんだがな……。


「何だろう、これ?」


 アーリィーが不思議そうに透明なケースの中身を眺める。


 中には長さ30センチほどの筒が固定されているのだが、その筒の中身がよくわからない。


 ベルさんが高い天井を見上げる。


「しかし、何とも異様だな。無機質で、冷たさを感じる」

「一種の虚しさみたいなものは感じるな」


 俺は、整然と並んでいる透明なケースと中の筒を見回す。白一色の室内、機械的に置かれたそれらが墓標を連想させる。


 まるで、昔映画で見た遺伝情報の保管庫みたいだ。滅びの運命から種を残そうしたとか何とか。……まあ、連想というか俺の勝手な妄想だけど。


「特に何かあるってわけでもないし、ここはこのままにしておこう」

「いいのか、主?」


 ディーシーが小首を傾げた。


「何かの秘薬という可能性もある」

「このケースや筒だって、珍しい材質のようだし」


 ベルさんが、コンコンと軽くケースを叩いた。


「持って帰ったら金になるかも」

「……ディーシー、とりあえず、解析」


 わかるとも思えないけど、俺の妄想だけで決めつけるのもアレだ。ただ、やっぱりここは手をつけてはいけない。そんな雰囲気を察してしまうわけでもあって。


「ベルさん、珍しくはあるが、この部屋のものじゃなくてもいい。上の階層にも同じ材質のものはあるさ」

「ふん、まあ、お前さんがそう言うなら」


 結局、ディーシーの解析では、筒の中身が何かはわからなかった。


「有機物のようだが、劣化が激しくてな」

「じゃあ保管庫の意味ねえじゃん……」


 ベルさんが肩をすくめれば、アーリィーがケースの壁を見上げた。


「とても古くからあったんだね……」

「施設自体、死んじまっているみたいだからな」


 保存のための設備も壊れてしまったために、適温で保存できなかったという可能性。この地下の構造とか考えると、そう思えてしまう。


 プチ世界樹の根が上層を食い破っているように、イレギュラーな事態が起きて、施設の機能を喪失させてしまったのではないかと思う。


 その後、最下層を出て、ざっと施設を回ってみたが、ジャイアントスパイダーとかスライムが出てきた程度で、古代文明人やら天空人の死体などは見つからなかった。


 まあ、スライムが生息している時点で、骨も残っていないだろうな、とは思った。


 明らかにもモニターらしいものやコンソールなどを発見したが、どれも動かなかった。かつての文明は、いまより高度に発達した機械文明だったかもしれないな。


 上層へ戻り、プチ世界樹を見上げる。


「何もなかったけど、ここに秘密基地を作るのも面白いかもしれないな」

「ここは魔力が豊富だ」


 ディーシーが頷いた


「世界樹からも魔力が放射されている。ここなら飛空船や兵器の魔力生成が容易だろう」


 大帝国に対抗するための反乱軍、その軍備を整えるに打ってつけということだ。何より人が来れない場所というのがいい。


 ベルさんが世界樹を見やる。


「なら、この辺りのモンスターどもを退治しておかないとな」

「シェイプシフター兵にやらせよう」


 ディーシーは提案した。この地下の世界樹のある空間は結構な広さだからな。人手が必要だろう。


「じゃ、シェイプシフターたちに掃除を任せるとして、帰る前に、今度は上を見て行こうぜ?」


 俺は、この地下への亀裂に入る前に見えた遺跡っぽい場所へ行くのを提案した。アーリィーが飛びついた。


「はい! ボクも賛成!」


 後ろでブルト隊長が苦笑していた。


 それでは、今度は地下から地上へと行こう。



  ・  ・  ・



 ウェントゥス号で地上まで戻り、鬱蒼と生い茂る森の上へ移動。飛空船では降りられないので、シェイプシフター兵に操縦を任せ、昇降ハッチから十メートルくらいの高さを飛び降りる。


 浮遊魔法で軽々と着地、っと。


「へぇ……。これはこれは」


 森に浸食されているとはいえ、世界樹遺跡と同じ時代と思われる建物があった。相変わらず地表部分は半分埋もれているが。


「ここが入り口かな?」

「また地下かよ」


 ベルさんが不満げに言った。


 ゲートもなく、地下道が続いているようだった。ディーシーがスキャンを掛けて、生命体反応を確認。


「まあ、こう口を開けていれば中に入るのは自由だな」

「虫とかって、どこからともなく入ってくるもんね」


 アーリィーが舌を出した。俺たちは地下への入り口に沿って内部へ。


 古代文明か。現代っぽくあるし、そこから未来のようでもあるんだよな。俺にとっては未知のもののはずだけど、どこかこの時代にはない懐かしさを感じる。


 先導のベルさんが声を上げた。


「でっか……」


 わぁ、とアーリィーがその広い空間を見回す。こいつは造船所か?


 未来的なSFアニメとかで見る宇宙戦艦のような重厚で巨大な船が見える。建造ドック――船も浮遊できるようになっていたんだろうな。ドックが立体的な作りになっていて、上下に造船施設が連なっている。一度に何隻建造できんだ、これ?


 よく見れば、広いドックに対して船は数隻程度しかなかった。だがいずれもウェントゥス号なんて目じゃないほど大きい。俺のいた世界の巡洋艦や空母サイズに匹敵するって、古代文明ってガチ進んでいたんだな。飛行できる時点で元の世界超えてる。


「……これで朽ちてなきゃなぁ」


 ウン千年、ウン万年かは知らないが、時の流れは無情だ。施設も含め、残っている船も錆や苔があって、とても動くようには見えない。


 遺跡はしょせん遺跡。どれもスクラップ同然の廃船と、廃墟施設だ。


「もったいない」

「ん? 何か言ったかジン?」

「……ここにある船が使えれば、大帝国の空中艦隊とも戦える戦力になっただろうに」


 帝都カパタールの空で見た大帝国の空中艦隊が俺の脳裏をよぎる。


 もしこの施設が使えて、ここにある軍艦を作れたなら、どれだけの力になったことか。……いや、マジでどうにかこれ作れないものかな?


「主、何か来るぞ」


 ディーシーが警告した。何か、ってモンスターか?

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