第109話、プチ世界樹と地下都市遺跡


「これはまた……」


 亀裂の底に巨大な空間があって、プチ世界樹がそびえている。


 ウェントゥス号を底に着陸させて、俺たちは外に出た。


 プチ世界樹の周りは、かつての文明の遺跡になっていて、都市のようであった。しかし時間の経過か土砂が入り込んでいるせいか、建物はかなり植物に侵食されていた。


 広そうだから、いつもの如く、ガイドにお願いしよう。


「ディーシー、どうだ?」

「生命反応はあるが、これはモンスターの類いだな」


 人間、もしくは亜人らしきものはいないという答えだった。これにはアーリィーが心持ち残念そうな顔をした。


「そっかー。やっぱり、この遺跡の頃の人たちの子孫とかはいないか」

「いないほうがいいんじゃねえか?」


 ベルさんが暗黒騎士姿でプチ世界樹を見上げた。


「いたらオレたちは不法侵入で攻撃されていたかもしれないぜ?」

「隠れて様子を見ている可能性は……?」


 ブルト隊長が聞いたが、ディーシーは否定した。


「人間はいない。まあ、古代文明人が、そこらの巨大クモやカエルの姿をしているというなら、話は別だがな」


 テリトリー化によるマップの表示。それらを眺めていくと半分土に埋まっている世界樹の根元の都市よりも地下の存在が目を引いた。


「かなり大きいな、地下構造物は」


 地下都市があるようだ。しかし地下の上層は世界樹の根が突き破っているせいで、通路などがズタズタになっていた。


「しかし妙だな。これではまるで、最初は世界樹がなかったかのような作りだ」


 根の拡大が想定通りであったなら、上層階層が破壊されることはなかっただろう。ベルさんが、ホログラフィック状のマップを指さした。


「ここから下は根が伸びていない。どうする? 探ってみるか?」

「せっかくの遺跡なんだ。調べる価値はあるだろう」


 俺がそう言ったらアーリィーは頷いた。探索したくてウズウズしているようだった。


「ようし、ディーシー。ガイドを頼む」

「承知した、主」


 ということで、世界樹の下、地下構造体へと侵入していく。


「あの浮遊していた難破船みたいな壁だ」


 ベルさんが早速、空中軍艦との共通点を見いだした。つまり、あの艦と同じ時代の遺跡という可能性が高くなってきたってわけだ。


「うわぁ……」


 広い空間に出てアーリィーが下を覗き込んだ。


 地下上層から数階層分、床が抜けて吹き抜けのようになっている。巨大な世界樹の枝が間を横切り、壁を突き破ったり、地下の穴へと伸びていた。


 ベルさんが首を振る。


「道伝いに進むのも、中々面倒そうだ」

「そうだな。途中で根に分断されてる」


 じゃあ、浮遊魔法の出番だな。俺は履いているエアブーツの浮遊を発動させる。ついでにアーリィーやブルトにもかけてやる。


「うわ、浮いた!?」


 突然の浮遊に戸惑うアーリィーの手を優しくキャッチ。


「浮遊は初めてか? じゃあ俺がエスコートするよ」


 床を蹴って、下のフロアへと飛び降りる。


「わっ、わっ、わぁ……!」


 落ちる、と思ったアーリィーだったが、落下速度が緩やかだったこともあって、すぐ俺の手を握り、安堵した。


「浮いてる……」

「空中散歩にようこそ」

「ジ、ジン殿!?」


 ブルトもまた慣れない浮遊に困っていた。


「ディーシー、手を貸してやってくれ」

「しょうがない。ほら、近衛隊長、そのシェイプシフターに掴まれ」


 召喚した飛行型シェイプシフターがビート板よろしくブルトの手に収まった。ベルさんは自分で浮遊魔法をかけ、ディーシーはテリトリーに転移魔法陣を置いて、短距離転移で移動する。


 ゆっくり降下する俺たち。下への穴は深い。では周りはと言うと円形の塔の内部のようになっていて、途中にいくつか奥へといく通路が見られた。


 先ほどディーシーに見せてもらったマップから、おそらく奥は居住区だったのだろうと思う。


「古代の人たちは地下に都市を作っていた……?」

「そうかもな。いや、どうかな。空にあった残骸と時代が同じかもしれないから、この一帯は落ちた浮遊島かもしれない」

「だとしたら、凄いことだよね」


 アーリィーが微笑んだ。古代文明に思いを馳せる。ロマンだねぇ。


 やがて、周囲への分岐がなくなった。完全に筒状の空間を降りていく。


「ここからは一本道だな」


 エレベーターでもあったのだろうか、と思う。地下にまだ構造物がある以上、この塔のような穴は移動のための空間ではないか。


 そして深部と思しき床が見えてきた。ディーシーが転移で先に来ていた。


「どうだい?」

「主、この先にフロアがあるが、封鎖されているようだ」


 ディーシーは床をコツコツと叩いた。多少土砂が見受けられるが、金属床にで標識じみた表記があるのを見て、この床自体がゲートではないかと察する。


「どこかに解除端末とかないのかな……?」

「見たところ、なさそうだがな」


 ディーシーと辺りを見回すが、端末らしきものは見当たらなかった。ベルさんが降りてきた。


「じゃあ、実力行使でぶっ壊すか? この先にまだ部屋があるんだろ?」

「サーチの結果ではそうなっている」

「地下のシェルターだったりして」


 俺は思ったことを口にした。


「ここの下には、古代の人がいるかも――」

「それはないよ、主。反応はなしだ」


 ディーシーがきっぱりと否定した。夢がないねぇ。


「いい方法がある。転移魔法陣を作って、この床の先に飛ぶ」


 ダンジョンコアのテリトリー範囲内なら移動可能な転移魔法陣がセットできる。


「名案だ、ディーシー。一応、シェイプシフターを送って有毒なガスなどが充満していないか確認させよう」


 古代文明とやらがいつあったか知らないが、相当な大昔であることは間違いない。特に密閉されている場所はどうなっているか見当もつかない。


 ということで、転移魔法陣を使って、まずは偵察。戻ってきたシェイプシフター兵は『大丈夫です』と報告した。


『中は何かの保管庫のようでした』


 ふむ……。ではゲートをスキップして下の階層へ。そこにあったものとは――

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