第108話、未踏破地区の亀裂
高高度浮遊群から、そのまま地上へと降りたら、ボスケ大森林地帯より北の未踏破地域に降りた。
「そう言えば、ここは何領になるんだ?」
疑問に思ったから聞いてみれば、アーリィーは答えた。
「ヴェリラルド王国領内ではあるけれど、この一帯に領主はいないはずだよ」
「何故?」
「うーん、やっぱり危険な魔獣が多いからじゃないかな?」
アーリィーは、ブルト隊長に向いた。
「左様ですな。王国も過去、何度も調査隊を派遣しましたが、誰ひとり帰ってこなかったとか」
「ふーん。空から見ると、ボスケ大森林の延長に見えるんだけどな」
改めて眼下を見れば、広大なる緑が広がっている。ウェントゥス秘密基地より北にしばらく行った土地は、まだ手つかずなんだな。
ボスケ大森林には冒険者がどんどん入ってくるようになったから、いつかはウェントゥス秘密基地も、未踏破エリアへ引っ越すようなことになるかもしれないな。
ベルさんもそれを考えたようで――
「国も匙を投げたなら、城でも立ててやろうぜ」
「何に対する城だよ?」
冗談だろうとわかっているけど、ツッコんでおく。
「そもそもこの未踏破地区を通ってくる奴がいないのに、意味があるのか?」
「誰もこない、か……」
アーリィーがポツリと言った。
「いいな。そういうの」
「アーリィー様?」
ブルト隊長がポカンとしてしまう。王子様を演じるのにお疲れなんだろうさ、アーリィーも。父王から死地に追いやられたこともあるんだ。現実逃避したくもなるだろう。
「別荘でも作るかい?」
俺は冗談にも本気にも取れる調子で言った。もしアーリィーが乗っかるなら、本気で作るぜ?
「しかし、危険ではありませんか?」
ブルトが、かなり真面目な顔になる。冗談とは受け取らなかったようだ。
「ジン殿なら未踏破地区も制してしまいそうではありますが、建物を建てて安全かまでは……」
「まあ、調べてみる必要はあるでしょうね」
ボスケ大森林よりさらに凶悪な魔獣などが生息しているとみたほうがいいのか。空から見ると普通に見えるこの未踏破地区も、実際は危険な場所なのだろう。
「肉食系植物だらけとか、毒沼だったりとか?」
ベルさんが冗談めかした。俺もつられて笑う。
「そりゃ確かに嫌だなぁ」
ん? あれは……。
「森に切れ目があるな。境界……いや谷か?」
森にいくつか岩山が見えたが、森の中に境界線のようなものがあった。よく見れば境界線というより地面に亀裂が入っているようだった。
「森の中に境界線っぽい亀裂って、妙だな」
地層が違う? 地震で割れたとか?
「もしかして、浮遊島が落ちてきた、とか……?」
アーリィーが恥ずかしそうに言った。心なしか顔が赤い。荒唐無稽過ぎて笑われると思ったのかもしれない。伝説の浮遊島推しの彼女らしいと言えばそうだけど。
「まあ、この辺りの上に浮遊島の残骸があったしな」
俺が言えば、ベルさんも頷いた。
「もしかしたら本体が落ちた可能性もなくはないわな」
操縦桿を倒す。
「亀裂を近くで見に行こう。この高さで見えるってことは、結構大きな谷になってるかも」
「うん、うん!」
アーリィーが俺の座る席に手をかけて、自分もよく見ようと前のめりになった。浮遊島落下説を否定されずに調べてみようと言われて嬉しかったのかもしれない。
「……ほうら、やっぱり」
亀裂はかなり大きい。ウェントゥス号でも通行はできそうだ。
「下は結構、深そうだ」
「おい、ジン。アレ見ろよ」
ベルさんが指し示した。
「境界線の向こう側……何かあるぜ? 遺跡か?」
森の間から人工の建造物らしきものがチラチラと見えた。岩山の見間違いの可能性も捨てきれないが。
「ここは未踏破地区じゃなかったっけ?」
もう誰かが秘密基地を作っていたってか?
「あるいは、天空人とやらの遺跡か」
チラとアーリィーを見れば、浮遊群を見た時同様に彼女の目は爛々と輝いていた。
「ジン……」
「まあ、待って。先に谷の底に行ってからだ」
森の中の遺跡はウェントゥス号では直接行けそうにないから、まず先に亀裂の底を見てからにしよう。
ウェントゥス号は亀裂に沿って、ゆっくりと降下していく。ベルさんが口笛を吹いた。
「かなり深いな。谷底に村とかあっても上からじゃ気づかないレベルで」
「日の光は届いているようだけど……」
かなり底のほうも明るいのは気のせいか。遠距離視覚の魔法で拡大――
「……木?」
枝と葉っぱが見えた。……いやいや、この距離でそれってどんだけ大きいんだよ!
ウェントゥス号はさらに底を目指す。もう上は絶壁に囲まれていて、亀裂の中である。
「まさか……」
アーリィーが口元に手を当て驚いている。
「世界樹……?」
途方もなく巨大な大木が亀裂の奥深く、広大な地下空間に立っていた。その高さは軽く200から300メートルはありそうだ。
俺の元いた世界にあるジャイアントセコイアの木だって80メートルより高めって
話だから、まさに巨木と言える。
いや、確かにデカいはデカいけど……。
「世界樹にしちゃあ小さくねえか?」
ベルさんが唸った。
「オレたちはエルフの里で世界樹を見たことあるが、これより数倍デカかったぜ」
「しかし古代樹に比べたら、こっちのは大きいぞ」
英雄魔術師時代に訪れたことがあるエルフの里。そこには超大木と言える世界樹があり、その周囲には古代樹と言われる巨木が森を形成していた。
この亀裂の底にあるのは古代樹以上、世界樹未満といったところか。
「いや、それでもこれはかなりのものだ」
俺は世界樹のある底まで、ウェントゥス号を降下させる。というか、この谷も深さ数百メートル級だ。
「ディーシー、魔力サーチ」
「もうやっている」
ディーシーが操縦席にやってきた。
「地形走査をしたんだがな、この巨大な木の周りにも人工建造物らしきシルエットがある。ここにも遺跡があるようだぞ」
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