第107話、難破船の捜索


 環境に合わせて魔法で再度、保護膜を形成。さあ、いかにも軍艦っぽいこの難破船を探索しよう。


 艦内はすでに無人だってわかっている。ディーシーの魔力探知なら人外でも探れる。ロボットとかいた場合でも、動けば知らせてくれるはずだ。


 暗黒騎士姿のベルさんが艦内の通路を進む。


「いつか見た古代文明の遺跡を思い出す。木でも石でもない壁や天井……」

「まんま宇宙船の中みたい」

「お前さんの世界の話か?」


 ベルさんは笑った。


「まあ、見当がつくものってのは悪くない。オレにはさっぱりだがな」

「見たところ、動力も生きているようには見えない」


 さっきは何で動いたんだろうな……。あのカブトガニもどきを撃墜、撃沈か? あれの正体がわからないから判別に困るがやっつけてくれたのは間違いない。


「最後のエネルギーを振り絞った、ってか」


 この艦には、戦闘によるものらしい破壊の跡があったからな。まだ現役だった頃からあのカブトガニもどきと争っていたのかもしれない。


 ディーシーのナビに従い、艦内の捜索を続ける。通路や扉の大きさなどを見て、これの乗組員は人間サイズだろう。天空人だか古代人かは知らないけど。


「さすがに死体は残っていないか」


 あまりに古すぎて劣化……しかし、骨も残っていないとは。居住区らしきところも見たが空っぽで生活臭がしない。


「最初から無人だったのか……?」

「ゴーレムみたく、この船が勝手に動いていたと?」


 ベルさんは首を振った。


「信じられねえ、と言いたいところだが、ディーシーとコピーコアを見ていると、ありそうとは思えるな」


 動力が死んでいて艦内は真っ暗だった。通路や部屋の扉などが壁のごとく立ち塞がった。電気が通らないと極端に重く感じる自動ドアよろしく重々しい扉だが、ベルさんの力と俺の魔力でこじ開いていく。


「こりゃお宝はなさそうだな」

「軍艦だろう。商船でも海賊船でもなさそうだから、そんなあからさまな財宝は積んでないだろうさ」


 俺は動かないエレベーターとおぼしき箱を諦め、狭い階段を見つける。上部の艦橋に続いているはずだ。


 俺とベルさんは階段を登る。急角度と狭さで、ベルさんが上がるのに苦労していた。


 やがて、俺たちは艦橋と思われる部屋にたどりついた。外の明かりが窓から差し込んでいるので、魔法がなくても視界はクリアだ。


 うん、こりゃよくある軍艦の艦橋だ。実物は俺も見たことないがドキュメンタリー番組や映画などで見たやつにそっくりだ。


 ところどころに錆が浮かび、汚れも目立つ室内はなるほど年季を感じさせる。いったいいつから放置されていたのだろう?


 艦橋中央より後ろにある、おそらく艦長席に歩み寄る。パネルやスイッチの上は埃で層ができているが、その中で半球体が埋め込まれているのが目についた。


 索敵用の立体モニター? サイズにするとちょうどダンジョンコアと同じくらいだ。素手で払うと埃まみれになるので、魔力を通して払う。すると黄色がかった球体が露わになる。まるで蜜を溶かして固めたような、琥珀色というべきか。


 ……似てるな、やっぱり。


 色は違えどダンジョンコアに。ただし魔力は感じられないが。少し考えた結果、モノは試しとばかりに、俺は琥珀色の球体に手を伸ばした。そして魔力を流し込んでみる。


「ジン?」


 ベルさんが様子を見守る中、しばし沈黙が艦橋を包む。魔力を注ぎ込んでいるが、とくに反応なし。何もなかったら、ちと恥ずかしいな。


「お?」


 ベルさんが声を上げた。俺の手の中で、球体が輝き出したのだ。


 唐突に艦橋に機械音が響く。機械音声か、どこかの言葉のように聞こえなくはないが、少々耳障りだった。……うん、もし音声だったとしても、すまん、機械語はさっぱりなんだ


「ジン。大丈夫なのか?」

「さあ」


 音の発生源を目で探す。


「なあ、ベルさん、何だと思う?」

「わからん。このタイミングで鳴るってのは、歓迎のご挨拶ってことかね」

「あるいは拒絶の声かも。……ディーシー、分かるか?」


 交信してみたが、ディーシーの返事も芳しくない。


「さあな。我も知らない」


 結局、音は途絶えて、もの言わぬスクラップに戻った。何だったんだろうな。



  ・  ・  ・



 現時点では、何の収穫もなかった。


 アーリィーが来たがっていたので、ポータルを置いてからウェントゥス号に戻り、連れてきた。


 機関部や砲のほうも確認したが、やはり無人で、これといった発見もなかった。ディーシーが艦全体を記録したものの、欠如している部分が多く完全再現は無理だろうという結論となった。


 しかしアーリィーは古代遺跡を探索した気分らしく、とても興奮していた。いまは存在しない古代文明についてロマンを感じるタイプだった。


「分からないことだらけだけど、かつてはこの船も動いていたんだよね」


 どんな活躍をしたんだろうと夢想したようで、来てよかったとアーリィーは言った。君が楽しそうで何よりだ。


 ウェントゥス号に戻り、地上へ帰る前、俺はもう一度、朽ちた艦艇を眺めた。ベルさんが隣にやってきた。


「どうしたんだ、ジン?」

「あの軍艦を完全に修理できたらさ、頼もしい戦力になったんじゃないかって思ってさ」

「……ああ、そうだな」


 ベルさんも同意した。


 ディグラートル大帝国は飛行する軍艦を保有している。俺たちは、大帝国帝都カパタールの上空で連合国軍を蹴散らしているのを目の当たりにした。


 カブトガニもどきを一撃で粉砕した砲を積んだ飛行軍艦があれば、大帝国の空中艦隊とも戦えるんだがね……。


 名残惜しいが、ウェントゥス号は浮遊物体の群れを離れる。そのまま浮遊石の力を弱めて、ゆっくりと高度を落とす。このまま地上を目指すわけだけど、果たしてどこに降りるんだろうね。

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