第106話、難破船?
ウェントゥス号と、それを追い掛ける全長70メートルクラスのカブトガニを連想させる浮遊物体。
いったい全体、なんで攻撃されているのかさっぱりだが、カブトガニの一番高い場所についている砲台が、砲身をガトリングガンよろしく回転させながらオレンジ色の光弾を放ってきた。
ウェントゥス号は防御障壁でかろうじて敵弾を防いでいるが、アーリィーが魔力を補充し続けているからで、それがなければやられていただろう。
俺の耳に、ディーシーの緊迫した声が届いた。
「!? 正面から、また魔力サーチらしきものを受けた!」
「正面!?」
この浮遊群の中に、まだ敵が潜んでいたのか!? 俺が視線を操縦室の窓の外に向けたその時、前方から青い閃光が瞬いた。
あっ、と声を上げる間もなく、青い光線はウェントゥス号の上をかすめて通過した。
「後ろ――!」
青い光は、カブトガニもどきの正面に着弾した。装甲を穿ち、次の瞬間、カブトガニもどきが爆発四散した。
「やったのか……?」
言ってからフラグじゃないかと思ったが手遅れである。俺たちを攻撃してきた謎カブトガニが、また別の何かの攻撃で吹き飛んだのだ。
「どういうこと!? 今の何?」
アーリィーが困惑するのも無理はない。俺だってわからない。
ウェントゥス号を狙った一撃がはずれて、同士討ちした可能性も……ないか。通過した光弾は青かった。追尾していたカブトガニはオレンジ色。使用武器も違う。
「なあ、ジン、何だったんだ?」
ベルさんが珍しくポカンとした顔だった。俺もそんな顔をしているかもしれない。
「ディーシー、魔力サーチは?」
「……いや、もう探知できない」
「何だったんだ、マジで」
「どうする、ジン? このまま逃げるか?」
ベルさんが問うてきた
「いや、今の青い攻撃の元が何か気になる。探ろう」
「撃たれないか?」
「……だとしたら、たぶんもう撃たれてるよ」
もう魔力サーチは受けていないっていうし、このまま原因も分からず去るのも気分が悪い。
「ディーシー、サーチが飛んできた場所は分かるか?」
「ああ、このまま真っ直ぐ行けばいい。これは……飛空船か?」
「ゆっくり近づいてくれ、ベルさん。……アーリィー、念のためシールドは最大までに」
「おう」
「了解」
二発目を撃たれていないとはいえ、単にあちらさんの都合で撃たなかっただけかもしれないしな。
たぶん助けられたと思う。敵でないとは思いたい。しかし、こんな空の上に、いったい何者だ?
その間にも、ウェントゥス号は例の浮遊物に近づいていた。そしてその姿を窓の外に見せていた。
「へぇ……」
巨大な岩塊の向こう側に葉巻型の船体があった。連装式の砲塔を備え、艦橋を有するそれは俺の世界での海上を行く軍艦を模した姿。某宇宙戦艦アニメに出てくる宇宙巡洋艦を思わせる艦艇が、大岩に寄り添うように鎮座していた。
艦首側の砲が、こちらを向いているが、おそらく――
「あの砲が、カブトガニをやったんだな……」
俺が呟けば、アーリィーが口を開いた。
「ジン、あれは何?」
「古い時代の宇宙船、いや空中軍艦と言うべきかな。伝説の天空人の戦闘艦かもね」
ウェントゥス号が近づく中、目標の巡洋艦もどきの砲は動かない。こちらを敵と認識していないと見ていいだろうか。目視距離にあるのは向こうもわかっているはずだが、反応はなし。
「反応がないのも当然だぜ。すっげえボロいじゃねえか」
ベルさんがそれを見て言った。艦体はかなり損傷しており、表面には錆が無数に浮いていた。静かに朽ちている廃船のようだ。
全長は180メートルくらい。艦体中央よりやや後ろの上下に艦橋とおぼしき構造物。連装式の砲塔を艦首上、下、艦尾上と下に1基ずつ、合計4基8門備えている。艦体中央部には対空用砲座と思われる小型の球形が四基ずつ並んでいるが、その中央部に被弾のせいか大きな穴が開いていた。またそうした傷や穴が、艦のいたるところに見て取れる。
形は残っているが、修理しないとまず動かないだろうな。
「とりあえず、砲の死角に移動。ディーシー、あの艦艇に乗員がいないか、生命体を魔力スキャンしてくれ」
「わかった」
「乗り込むのか、ジン?」
「無人だったらな」
「大丈夫かな?」
アーリィーが不安そうな顔になった。正体不明の艦艇だもんな。不気味なのは認める。
「主、生命体の反応はなしだ」
ディーシーが報告した。男装のお姫様の顔が青ざめる。
「だ、誰もいないのに動いたの、アレ? 幽霊船?」
「自動で動いたのかもな。勝手な想像だけど、コンピューターとか積んでそうな未来チックな形しているし」
「何だって? 新手の暗号か?」
ベルさんが意味がわからなかったようで口を尖らせた。
「ディーシーのコピーコアみたいなもの、と思ってくれ。たぶん、幽霊じゃないよ」
ウェントゥス号は残骸艦の砲の死角へと移動する。
「さて、ジン。ここからどうするんだ?」
「転移魔法で、一気にあちらの艦に乗り込む」
「なるほど。そりゃあいい」
ベルさんが相好を崩す。俺は言った。
「ディーシー、テリトリースキャンであの艦を支配しておいてくれ。アーリィーはここに残って。俺とベルさんで向こうに行って探索する。
「ボクも行く」
「安全が確認されたらな」
「そうですぞ、殿下」
「わっ!?」
突然、ブルト隊長の声がして、アーリィーがビックリした。そういえばいたな、この人。先ほどまで特に役割もなかったから存在を忘れていた。
「アーリィー、シグナルリングは持っているね? 通信は絶やさないようにするからな。ベルさん、行くぞ」
「おう!」
乗り込む艦を見やり、転移! 次の瞬間、俺とベルさんは軍艦の甲板にいた。保護の魔法を掛けたのに寒っ。そして空気、薄っ!
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