第105話、謎の浮遊物


 高高度を浮遊する岩や残骸。果たして天空人か。古代文明の遺物の中を俺たちウェントゥス号は飛ぶ。


 残骸らしき物体に近づく。遠くからでも結構大きかったが、近づけばウェントゥス号より遥かに大きい。


 長さは5、60メートル以上か。円盤のように見えたそれは、前から見ると角のない丸い兜のようだった。どこか生物的な――シッポのないカブトガニのような形をしていた。色は白と灰色、紫色のラインが入っている。


「……なんか、別世界の生き物っぽい」


 正確には異星人の、というかエイリアンっぽいデザインだと思った。船体表面に若干の亀裂が見えるが、比較的状態はよさそうだった。


 これが乗り物なら、兜部分のスリットに見える溝が、艦橋とか操縦室の類いか?


「むっ?」


 ディーシーが眉をひそめた。


「魔力サーチ? 何かよくわからないが、魔力の波ようなものを当てられた!」

「え、何それ。魔力スキャン?」

「ジン! 見て!」


 アーリィーが、例のカブトガニもどきを指さしていた。


「! 動き出した!?」


 ぞくり、と妙な気配が背筋を撫でたように感じた。


 魔力サーチに似た何かをぶつけられた。電波、いわゆる本場のレーダー波だろうか? 何より例のカブトガニが動き出したということは――


「シールド出力最大! ベルさん、回避運動用意!」

「敵か?」

「わかんないけど、とにかく警戒!」


 それは本能に近い。そしてそれは間違いではなかった。 


 カブトガニのてっぺんにある装置が回転したかと思うと、オレンジ色の光弾を連続して吐き出したのだ。


「こなくそ!」


 ベルさんはウェントゥス号を大きく右へと回避させた。――遅い……!


 オレンジ色の光弾が船体をかすめた。しかし一発を避けきれず、防御障壁に命中した。見事にブロックした! とは言い難い。防御装置のシールド出力を見やり、俺は目を剥いた。


「今のでシールドを半分もっていかれた!」


 5連続の攻撃だったか? 防御魔法を構成する魔力をごっそり持っていかれた。


「ベルさん、障害物を利用するように回避機動!」

「あいよ!」


 言われるまでもなく、ベルさん必死にウェントゥス号を操船。敵――カブトガニから逃げるコースをとっていた。


「アーリィー、ちょっとこっちへ!」

「なに?」

「悪いが船体の障壁に魔力を注いで補強してくれ!」

「え? どうやって――うわっ!」


 またも障壁に敵の光弾が炸裂したようだった。ウェントゥス号が揺さぶられる。


「こ、これは……」

「シールド出力8%!? やばいやばい! アーリィー、そこの赤いランプの前のボタンに手を当てるんだ」

「これは?」

「魔力を注いで防御障壁を補強できる装置だよ」

「えっと……こう!?」


 俺が教えて大きなボタンにアーリィーが手を乗せた。そこから彼女の魔力が吸われて、船体を覆う防御障壁へ回される。本当はベルさんとか魔力が豊富な人用なんだけど、アーリィーは魔力の泉スキル持ちだから問題あるまい。


「ランプが黄……緑になった!」

「君の魔力をシールドに振り分けるようにしたんだ。これでしばらく持つ」


 浮遊物のあいだを、ぐりんぐりんと動き回るウェントゥス号。その度に操縦室も右へ左へと傾く。ベルさんも、メチャクチャ振り回してくれるじゃないか。


 その間にも後ろから光弾が飛んできて、外れた弾が別の浮遊物にぶつかり爆発した。


 ベルさんが吠える。


「クソが、いったい何だってんだ!?」

「さあな。伝説の天空人か、あるいは墓荒らしに対する番人じゃないのか?」

「オレたちは墓荒らしか?」

「向こうはそう思ったかもよ!」

「どうにか反撃できないか?」

「砲の射角が合わない。真後ろには撃てんよ」


 というか8センチ速射砲でどうにかなる相手か? 後ろの金属ガブトガニもどきは大型艦だ。こっちの速射砲じゃ、ほとんど効果がないんじゃないか。


 またもシールドに敵弾が当たり、ランプが赤くなる。ほら、アーリィー、頑張って補充!


「こうも障害物が多いと……」


 ベルさんは浮遊群の間を抜けるべくウェントゥス号を操るが、この図体なので簡単にはいかない。


 ディーシーが振り返った。


「主よ、これでは敵から逃げ切れん。浮遊帯から出たほうが――」

「あちらさんのほうが遅いという保障はないぞ?」


 むしろボディの大きさは、カブトガニもどきのほうが上。俺は視界に過った残骸に魔力を伸ばして移動させる。ぶん回して、敵にぃ、ぶつける!


 しかし、カブトガニもどきにはビクともしない。こいつは参った。


 ウェントゥス号が抜けられる隙間でも、カブトガニもどきの図体では無理で、浮遊物とぶつかるが、それでもなお進んでくる。


「くそ、もっと大きいやつをぶつけるしかないか――」


 敵の砲が邪魔な障害物を破壊しているのが見えた。……障害物の激突で倒すのはどの道無理そうだ。


 しかし敵の光弾がそっちへ逸れてくれるなら、このまま逃げるための時間稼ぎにはなるかもしれない。



  ・  ・  ・



 浮遊群の中で、それは待機していた。


 爆発。大気がきしむ。衝撃波が小さな浮遊物を弾き、眠っていたそれを揺り動かした。


 震動が振動となり、それに光が灯る。二回、三回と衝撃波が伝わるたびに、それは低い唸りのような音を立てた。


『――移動、体――識別――アンバンサ――確認――』


 唸り音に混じり、暗闇の中にポッと別の光が灯った。


『主――……3番、4番使用不能――。1――エネルギー――』


 直後、重々しく、大きなものが動くような機械音が響き出した。


『目標、敵フリゲート――』

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