第102話、解析、ドゥエルタイプ魔人機


 ウェントゥス秘密基地。回収されたドゥエルは、ディーシーによって解析された。


「パイロットが死亡したのが痛い」


 俺は、運び出されるパイロット――魔術師の死体を見送る。ベルさんは口元を歪めた。


「人間ってのは脆弱だな」

「シートベルトとヘルメットが必要だってのを痛感させられた」


 巨岩の連続ヒットは、内部のパイロットをミキサーにかけるように激しく揺さぶったらしい。コクピットが血だらけになっていた。


 死因はおそらく後頭部を強打したせいだろうな。シートベルトをしていなかったせいで、体をそこら中ぶつけた跡が残っていた。


「あのドゥエルのこと、わかる奴はいないのか?」


 ベルさんの問いに、俺は肩をすくめる。


「カリッグと移動していた連中は奇襲で全滅したからな。ただ押収した機体の整備マニュアルはあった」


 たぶん、フメリアの町を襲撃する前に魔人機ドゥエルと合流する予定だったのだろう。その際に使われただろう整備書が回収できた。


 本来は敵の手に渡らないように処分する類いのものなのだが、こちらの奇襲はその処分の時間を与えなかった。


「だが、敵の目的は結局はわからねえんだろ?」

「大帝国なのは間違いないんだけどね」


 シェイプシフターの事前偵察でそこはわかっていた。ただ立ち聞きの範囲なんだよな。


「作戦についての命令書とかはなかった」


 まあ、口頭で命令された可能性もあるが、作戦内容の説明書などは普通は前線に持っていかないからな。現地で開けろって言うなら、まあワンチャンあるかもだが、それでも命令を確認したら処分するのが普通だし。


「大帝国がフメリアの町を襲おうとしていた……何故だ?」


 ベルさんは唸る。考えられるとすると――


「ルーガナ伯爵の反乱軍と大帝国は繋がっていた。それに関係する証拠なり、手がかりの処分にきた可能性」


 現地――つまりヴェリラルド王国には知られたくないだろう事実だ。証拠隠滅はしたいだろう。俺たちの攻撃は想定外だっただろうし、色々やり残しがあったのかもしれない。


「反乱鎮圧から日付が経っているぜ?」

「大帝国本国からここまでどれだけ離れていると思っているんだい、ベルさん? 地べたを走り回ったらこんなもんだろ」


 念話も使っているだろうけど、さすがにヴェリラルド王国からディグラートル大帝国本国まで直通での念話は無理だ。


「となると、連中はまた来るな」

「ああ。送り込んだ連中が帰ってこなければ、次の手を打つだろう」


 まだ大帝国の正規軍はヴェリラルド王国の近くに侵略してきていないから、せいぜい特殊部隊やそれが雇う傭兵ぐらいだろうけど。


「魔人機を使ってきた。こちらも対策と戦力の増強は不可避だ」


 現状、俺たちが手を出さなければ、数機の魔人機に攻められただけでルーガナ領はおしまいだ。


「それにしても、障壁付きとはな……」


 俺は頭を掻いた。


 せっかく用意した8センチ速射砲改造ライフルだったが、効かないのでは意味がない。


 戦車を作るつもりだったけど、対歩兵やモンスターはともかく、障壁付きの魔人機に有効打撃が与えられないのでは開発優先度が下がる。射程を活かしたアウトレンジ、つまり狙撃で戦車砲を使う手もあったんだけどなぁ……。


「ドゥエルタイプを鹵獲できたのはよかったけど、こいつのせいでカリッグやドリトールが一気に旧式扱いだな」


 まだ数を作っていなかったのは幸いだけど、出鼻をくじかれた感がヤバい。


「だが、こちらで作る魔人機も、ドゥエルタイプをベースによりいいものにできる」

「障壁付きの魔人機だもんな」

「ホバーもどきの低空スレスレ浮遊もな。あれで地上の移動速度がかなり早くなる」


 たぶん、それがドゥエルがカリッグ3機の部隊と別行動を取った理由じゃないかな。地上での進軍速度が違うから、目標前に合流できるように調整したんだと思う。


 自分の拠点で整備するのと野営地で整備するのとでは設備が違う。歩行速度を合わせて、野営での手間を増やすより、充分な整備ができる拠点から追いついたほうが故障率も多少下がるだろうって考えたんだろうな。


 まあ、それはそれとして――


「他にも色々つけてやろう。加速用の魔力ブースターとかシールドとかさ」


 ロケットはないが、風魔法の噴射による一時的なダッシュが可能なものくらいなら作れる。


「あとは8センチ速射砲改造ライフルも、より強化したいね。サンダーカノンとか魔法銃も悪くない」


 今のところ、敵さんの魔人機は大斧を携帯するばかりで、射撃装備を持っていない。障壁持ちには効果はないかもしれないが、カリッグやドリトール相手なら問題ない。


「それなんだがな、主よ」


 ディーシーがやってきた。


「ドゥエルタイプには肩に魔法弾を発射する装備がついていた」

「飛び道具があったのか」


 そいつは結構。その装備も解析すれば、魔法射撃兵装ゲットだ。


「いいね。そうだ。魔法弾が撃てるなら、魔人機に乗っていても魔法が使えるようにできないかなぁ」

「と、言うと?」


 小首を傾げるディーシー。俺はニヤリとした。


「ドゥエルを撃破する時にさ、俺、魔法を使ったんだけど、どうもコクピットから魔法を使うのってやりにくかったんだ。機体と繋がりがないっていうか、しっくりこないところがあって――」


 気分の問題かもしれないけどね。


「だから魔人機を魔法の杖と見立ててさ、こう、操縦桿を握ったまま使いたい魔法を機体に伝えて、魔法を使えるってのはどうかな?」

「魔人機を魔法杖に見立てるか。いいな」


 ベルさんが同意した。


「コクピットにいながら魔法を自然に使えるのはいい。ぜひそうすべきだ」

「機体を魔力プールとするわけか。なるほど……」


 ディーシーが考え込む。


 ドゥエルタイプには魔法弾を放つ武器が搭載されていたが、俺たちの使う魔法銃同様、使える種類は限られているだろう。


 だがこちらはその放射装置から、様々な魔法を使えるようにする。魔法杖を使って術者が魔法を行使する、と同じ要領だ。パイロットが魔法を使える分だけ、機体の魔法のバリエーションが増える。


 一般のパイロット向きではないが、俺やベルさんといった魔法に長ける者には、より魔人機を活用できるようになる!


 やらない理由はなかった。ディーシーが解析したドゥエルタイプのデータを参照し、俺たちはああだこうだと討議を重ねた。


 ウェントゥス製オリジナル魔人機の開発。外観も思い切り変更して、大帝国でもないだろう装備や武器を作る!


 心躍らないはずがなかった。

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