第101話、ドゥエルタイプ


 はい、想定通り!


 俺は魔力通信機に呼びかけた。


「ベルさん、1機、動いた!」


 大帝国の特殊部隊が持ち込んだ魔人機カリッグ。3機のうち2機は、先制の手榴弾シャワーで人員を葬ったから動くことはない。


 カリッグのコクピットで待機してパイロットが機体を動かし、反撃に出ようとしている。


『了解した。スケアクロウ、ぶっ放していいぞ!』


 ベルさんが搭乗するカリッグが、地面を掘って作られた隠れ穴から飛び出した。


 さらに2機のドリトールが半身を穴から出す。棒人形のように細いから案山子=スケアクロウ。パイロットはいつもの如くシェイプシフター兵である。


 ドリトールが手に持っているのは大帝国製8センチ速射砲を魔人機用に改造したライフルだ。まだ試作型なので装弾数は5発。一発撃つごとに排出と装填が必要なボルトアクション式である。


 8センチライフルを動き出した敵カリッグに向けて発砲!


 一発は動き出した敵機の肩をかすめ、もう一発は足をかすった。うん、照準が甘いのか、単に動き出した敵のせいか。高度な射撃補正システムなんてないから、慣れないと当てるのは難しいと思う。


 ドリトールが次弾を装填する中、ベルさんのカリッグが敵カリッグへと迫った。


 同じ機体同士だが、焦げ茶色の敵機と黒のベルさん機では、一応見分けはつく。……じき夜になってしまうけど。


 巨大斧を振り上げるベルさん機。敵カリッグも同じく巨大斧で迎え撃つ。重い金属同士の激しい激突。火花が散り、きしむ。


 俺は通信機に呼びかける。


「スケアクロウ、側面へ迂回し、ベルさんを支援!」

『了解』


 ドリトール2機が塹壕を出て前進する。そのままの位置だとベルさんの機体に当ててしまう可能性がある。最悪、敵の目に止まるように動いて注意を引くだけでもいい。どうせ、敵は1機しかいないから――


「主、新たなお客さんだ」


 ディーシーが俺に知らせた。


「未確認の機体が1機、高速接近中だ。おそらく魔人機だが、速いぞ」

「未確認機?」


 俺は聞き返していた。カリッグでもドリトールでもない魔人機が接近しているだと?


 ガシャン、と激しい接触音が響き、俺はそちらを見た。


 ベルさん機が、敵カリッグの胴体に斧を叩き込んでいた。……うへぇ、コクピットに食い込んでる。ありゃ、パイロットは死んだな。


 俺は敵野営地へと走り、呼びかけた。


「ベルさん、こっちへ1機、未確認機が来ているらしい。注意!」

『敵の増援か?』

「たぶんな。ディーシーが識別できない新顔だ」


 俺は駐機されている、敵のカリッグへと走る。シェイプシフター兵が野営地に入り込んでいて敵兵の生き残りがいないか調べていた。


 当然、パイロットの乗っていないカリッグ2機の周りも見張っていて、俺は開いたコクピットにそのまま乗り込んだ。


 起動スイッチを入れる。こいつの動かし方はわかってるんだ。


『速いぞ、未確認機!』


 ベルさんの声。コクピットの透過モニターが外部の景色を映し出す。……いた!


 初めて見る人型。大きさはカリッグと大差なし。頭部はカリッグのようでありドリトールのようでもある。つまり2機を足して2で割った感じだ。目は単眼であり、その胴体はカリッグより重厚ではないが、ドリトールのように案山子でもない。


 重量級と軽量級の中間というスタイルだ。だが、こいつが速い。まるでホバークラフトのように滑るように移動してやがる。


『魔人機を鹵獲ろかくしたのか』


 外部スピーカーを通して、未確認機のパイロットらしい声がした。


『だが、真の魔人機であるドゥエルタイプには通用せんぞ!』


 ドゥエルタイプ? 真の魔人機とか言ったか? どういうことだ?


 ドリトールが8センチ速射砲改ライフルを撃った。真正面から突っ込んでくるドゥエルタイプとやらに直撃するかに思えた砲弾は寸前で爆発した。


『ほう、飛び道具を持っているのか。中々どうしてやるものだが……』


 ドゥエルはさらに突っ込んでくる。


『障壁持ちのドゥエルに飛び道具は通用せん!』

『洒落臭い!』


 ベルさんのカリッグが向かってきたドゥエルに大斧を振りかぶった。敵もまた大斧で応戦しようとする。


 だがベルさん機の大斧はドゥエルの防御障壁らしい見えない壁に弾かれた。そのままドゥエルの体当たりで、ベルさんのカリッグが吹っ飛んだ。


『馬鹿め! 低級魔人機がドゥエルタイプに勝てるものか!』


 ドゥエルのパイロットは語気を強めた。


『古代魔法文明の兵器だぞ!』


 態勢が崩れたベルさん機に追い打ちをかけようと斧を振り上げるドゥエル。俺は分捕ったカリッグを走らせ、武器である大斧を投擲とうてきした。


 ガンッ、と障壁に弾かれる大斧。


『フン、無駄なことを……!』


 知っているさ。だが注意はこちらに引けた。そして敵機からどの辺りで障壁が展開されているかもわかった!


 こちらに向かってくるドゥエル。俺はカリッグを立ち止まらせて、操縦桿から手を放す。ここからは魔術師の本領だ。


「こいつでどうよ!」


 ストーンハンマー! 巨岩生成。大気中の魔力を変換する大地属性魔法。それが加速するドゥエルの防御障壁の内側に生成され、当然の如く激突した。


 敵にとっては加速していたことが不運だった。ハンマーで強打されると同等の打撃を自ら受けにいってしまったのだ。


 障壁を抜けてくるとは思わなかった打撃は、敵パイロットを大いに困惑させるだろう。もう一丁!


 棒立ちのドゥエルの障壁の向こうに追い打ちの打撃を連打! 連打! 連打!!


 連続してボディブローをくらうが如く震えたドゥエルはついに倒れて動かなくなった。……パイロットは失神したかな?


「ガーズィ、このドゥエルとやらを捕獲だ!」

『了解!』


 シェイプシフター兵たちが倒れた敵魔人機に駆け寄る。俺は味方機を確認する。ドリトールは健在。


「ベルさん、大丈夫か?」

『障壁持ちとは厄介だったな。ジン、魔法を使ったのか?」

「カリッグの手持ちじゃ手も足も出なさそうだったからね」

『結局、オレたちには素手のほうがよかったということか……』

「素手は無理だぞ。少なくとも俺にはな」


 軽く冗談を飛ばしつつ、俺はディーシーに呼びかける。他に敵はいないか――?


『これ以上に敵はいないようだ。一応、偵察は出しておく』

「了解した。じゃあ、早速この鹵獲機を解析させてもらうとするか!」


 古代魔法文明がどうとか言っていたが、こちらにない技術は取り込んでおかないとな。


 ドゥエルタイプがどういうものかまだよくわからないが、これを大帝国が主力に据えるようなことがあったら、カリッグやドリトールでは対抗できない。


 ……何か対策を立てないといけない。

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