第100話、魔人機、襲来


 ルーガナ領には人が少ない。


 故に越境するのはさほど難しくなく、外部勢力が攻撃の意図をもって侵入したとしても、発覚するのが攻撃される寸前になる可能性は大きかった。


 だから俺は飛行型シェイプシフターたちを使って航空偵察、監視をやってきた。


 何も起きないにこしたことはないが、いざ危険を察知すると、飛ばしてよかった偵察ユニットとなる。


 ウェントゥス秘密基地にて、俺とベルさんは、シェイプシフターの杖ことスフェラから報告を受けた。


「複数の魔人機と武装集団が侵入?」

「はい。例のカリッグタイプが3機と、それを支援する馬車と人員、およそ二十名が、ルーガナ領を進んでおります」


 スフェラが恭しく告げれば、俺とベルさんは顔を見合わせた。


「大帝国の侵攻?」

「まあ、間違っても盗賊じゃあねえよな」


 ベルさんも首をすくめる。スフェラは言った。


「偵察によると、魔人機とその部隊は所属を識別できる旗、紋章などは確認できなかったそうです」

「大帝国じゃない?」

「いいや、魔人機だぞ。そこらの盗賊が使える代物じゃない」


 俺は顎に手を当てた。大帝国の正規軍なら、間違いなく旗を掲げているはず。それがないのなら非正規部隊か、所属を明らかにしてはいけない特殊部隊だろう。


「ルーガナ伯爵の反乱軍に送られた増援かな?」

「もうとっくに鎮圧されてるんだけどな」


 ベルさんがニカッと笑えば、ディーシーがやってきた。


「大帝国本国ではそんなことは知らんのだろう。ともあれ、この魔人機部隊はこのまま行けば、おそらくフメリアに来てしまうだろう」

「反乱軍がいないと分かれば、まあ襲撃してくるだろうな」


 それは避けたいところだ。ベルさんが口を開いた。


「例によって、オレらが何とかしないといけないんだろうな」

「近衛騎士や兵隊に、魔人機の相手ができるわけないだろ?」


 3機のカリッグが暴れるだけで、街は壊滅だ。せっかくアーリィーとここまで盛り立ててきたのに、すべてが水泡と化す。


 迎え撃つしかない。


 俺たちは格納庫へ向かう。ディーシーが言った。


「稼働できる魔人機は、カリッグが2、ドリトールが2だ」


 反乱軍の占領していたフメリアの町攻略時に撃破して、入手した機体が修繕されてここにある。


 カラーリングが元の茶色系から、薄い水色と灰色にリペイントされている。


 ちなみに、カリッグの片方は、頭部にあった角がなく、もう1機は黒に塗られ、左腕にシールドを兼ねた追加装甲が施されている。こっちはベルさん用だ。


「うーん……」

「どうした、ジン?」

「いや、どうにも同じ機体同士で迎え撃つって何かね……」


 ぶっちゃけると、敵はカリッグが3体。こっちは同性能が2機で、残る2機は性能が若干低いドリトールだ。正面から戦うと、1機差はあまりアドバンテージにならない気がした。


「パイロットの腕は向こうが上な気がするんだよねぇ」

「なあに、あちらさんも魔人機同士の実戦の経験はないだろうよ」


 ベルさんがもっともなことを言った。魔人機は現状、大帝国のみが使用している兵器。当然、そのパイロットは模擬戦はともかく、実戦で魔人機と戦ったことはないだろう。


 とはいえ、搭乗時間の差は馬鹿にならないと思う。少なくとも同数ではまだ不安だ。


「実戦経験を積むにしろ。有利な状況に持ち込みたい。敵は馬車を伴っているんだって?」


 スフェラに確認すると、彼女は頷いた。


「はい。サポート要員を含む部隊のようです。馬車の移動ペースから、フメリア到着は休憩なしで本日夜中になると思われます」

「まあ、休憩しないわけがないよな」


 ベルさんが鼻をならす。俺は提案した。


「じゃあ、その休憩時を狙って襲撃する。うまく人員のみ始末できれば機体を3機鹵獲できる」

「おいおい、実戦経験を積むいい機会じゃねえのか、ジン」

「そうなんだけどね。たぶん、奇襲しても3機まとめて無力化はできないと思う」


 襲撃に備えて見張りを置く。これはどこの世界でも同じ。魔人機であれば最低1人はコクピットに待機して、奇襲に対応できるようにする。俺ならそうする。


「1機か2機とは交戦することになると思う。動いている奴は、こちらも魔人機で対応する。それでどうだ、ベルさん?」

「なるほど、それでいくか」


 方針は決まった。俺たちはフメリアの町に向かう魔人機部隊に対して待ち伏せを仕掛ける。

 できたばかりの装甲車で奇襲部隊を運び、さらにこちらの魔人機小隊を動員する。


 フメリアの町のアーリィーに報告を出しておいて、あと念の為、シェイプシフター斥候を不明魔人機部隊に送り、その正体を確認させる。


 十中八九、大帝国の手の者だとは思うが、万が一違っていて、しかもこちらに対して友好的勢力だったら面倒だからな。……まあ、普通に考えてあり得ないんだけどさ。


 でも確認は大事だ。



  ・  ・  ・



 結局、この魔人機と馬車の部隊は、大帝国の特殊部隊だった。


 形を変えて潜入したシェイプシフターは、連中がフメリアの町を襲撃する段取りについて会話しているのを聞き、それに俺に報告した。


 夕闇が迫る中、敵は野営の準備を始めた。馬車3台に魔人機が3機。……やっぱりパイロットはひとりコクピットにて待機していた。

 俺は遠距離視覚の魔法で、状況を把握する。


「まあ、今やれば2機は確実に無力化できる」


 俺は敵陣を囲むシェイプシフター兵に合図する。

 隊長であるガーズィが頷いた。それぞれ携帯している魔石手榴弾を握り込んでいる。


 俺はこちらを見張っている敵兵に魔力の手を伸ばし、次の瞬間、周りから酸素を取り除いた。


 突然、呼吸しても酸素が取り入れられなくなり、見張り兵が苦しみ出す。完全に注意が逸れた。


『やれ!』


 俺が攻撃開始のジェスチャーを送れば、シェイプシフター兵たちは野球選手顔負けのロングスローで正確に敵陣に手榴弾を投げ込んだ。


 魔石がその魔力を解放し爆発。テントやその近辺で休んでいた敵兵をなぎ倒す。


『前進!』


 ガーズィがシェイプシフター兵たちに命じた。ライトニングバレットを手に敵の野営地に乗り込む。


 そして予想通り、敵魔人機カリッグが1機、片膝ついた姿勢から立ち上がるのが見えた。

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