第88話、ワイバーン・ネスト
無数に切り立ったクォレン山脈の岩肌を撫でるように、俺の操縦するシュトルヒ戦闘機は飛ぶ。
植物のほとんど見えない荒れた地形。その中程にすり鉢状の窪みがあって、そこに飛竜と楕円形の物体――卵が複数見えた。
「見つけた!」
俺は思わず声に出した。
下から小型――ペクトル・ワイバーンが複数上がってくる。
「最初に聞いていた数よりもっといるじゃないか……!」
7、8頭。それらが上昇気流を掴んで急上昇してくる。
「各機、ブレイク!」
こちらに突っ込んでくるペクトル・ワイバーンに対して散開。後続のシュトルヒ戦闘機が左右に分かれて、ソードバードも四方に散った。
「ベルさん!」
『わかってる。突っ込む!』
ベルさんドラゴンがワイバーンをやり過ごし、衝突する勢いで巣へと突進する。そこにはダリス・ドラグーンが、卵の前に陣取っている。
「各機へ。ベルさんの攻撃を援護。ペクトルどもを近づけるな!」
旋回機動をとるワイバーン集団に、急旋回で回り込むシュトルヒ。連中は風と浮力を利用しないと空中機動に制限されるが、こっちは浮遊石を積んでいるから揚力を失っても失速や墜落はないんだぜ……!
『無茶はするなよ、主』
ディーシーの警告が飛ぶ。
『機体の耐久性というものがあるんだ。急激な機動や加速は分解のもとだ』
剛性の問題である。当然、機体が耐えられなくてはバラバラだ。
「補強をかける! 機体に防御魔法を展開する」
『やれやれ、我がダンジョンコアであることに感謝しろよ』
ディーシーは言った。
『魔力で機体の補強はした。多少は物理法則を無視してもいいぞ』
「パイロットの俺がGで死ななければな!」
いわゆる血の移動で意識を失うアレだ。ブラックアウト、レッドアウトってやつ。シェイプシフターは平気だが、人間の体は案外もろいものだ。
照準の十字線に合わせつつ、さらに相手の速度や移動方向を見て未来位置を予測。そして発射! サンダーカノンが電撃を放ち、狙ったペクトル・ワイバーンが弾幕に飛び込んで失速、墜落した。
「1キル!」
集団がバラける。さらに一頭――! 俺は次の標的と定めた小型ワイバーンを追う。風を受けて滑空するように飛ぶペクトル・ワイバーン。
「いいのか? 真っ直ぐ飛んでよ!」
いただきだ! 電撃弾が単純な飛行を続けるペクトル・ワイバーンを撃ち抜いた。こっちに飛び道具があるとまったく考えないんだろうな、コイツら。
「2頭目、ダウン!」
さあて、お次は――
その時、連続した爆発音と激しい閃光が起きた。とっさに視線がいけば、ワイバーンの巣が派手に紅蓮の爆発で吹き飛んでいた。
巣の中心に降りたベルさんが人型形態になると、周囲に爆裂魔法を放ったのだ。さすが魔王様、人間の背丈より大きな卵が無数にある場所を高熱と爆発で蒸発させていく。
卵の守護者であるダリス・ドラグーンも爆炎に包まれて、のたうっている。飛ばない飛竜など、ただデカいだけだ。
「ようし、巣は叩いた!」
『主、後ろ上方からダイブ!』
ディーシーが危険を知らせた。とっさに浮遊石効果を解除し、操縦桿を左へ倒す。翼に当たる揚力を利用しての急旋回。ペクトル・ワイバーンが上から落下する勢いを加えての噛みつきを寸前で回避。
そのまま下へ、斜面に這うように抜けていくワイバーン。こっちは崖に沿うように旋回したので、追撃できず。
ぐるっと頂上近くを一周して、ようさく先ほど仕掛けてきたワイバーンの姿を目視する。翼を目いっぱい広げて気流に乗っての上昇。
「止まって見えらぁ!」
今度はこちらからダイブだ。お前とこっちの決定的な違いは、射撃武器の有無だ!
サンダーカノンの連射でペクトル・ワイバーンを撃墜。
「三体目!」
『シュトルヒ3、敵飛竜、撃墜』
僚機がさらにもう一頭のペクトルを落とした。いまので最後か……?
『シュトルヒ3! 気をつけろ。後方に新手だ!』
シュトルヒ2からの警告が響いた。
新手? 山陰から巨大な影が動く。
「まさか……!」
もう一頭、ダリスがいた!? 紛うことなき、巨大飛竜がヌッと現れ、シュトルヒ戦闘機の片翼をすれ違いざまに砕いた。
『やられた!』
シュトルヒ3が傾きつつ飛び続ける。俺は叫んだ。
「シュトルヒ3、離脱しろ!」
『了解、シュトルヒ1』
シェイプシフターパイロットは冷静な声を返した。
浮遊石搭載航空機は、翼を失っても墜落することはない。機体の制御に若干影響が出るものの、浮遊石が無事な限り、浮き続けられる。後はエンジンが無事なうちに、その推進力を使って逃げればいい。
ダリス・ドラグーンが口腔を開いた。迸る光!
「まさか、ブレスか!?」
ワイバーンがブレスを使うとは思ってなかった。ダリス・ドラグーンが吐き出したのは火炎放射。射線をよぎったソードバード一体が蒸発した。
だが別のソードバードが、飛翔するダリス・ドラグーンの顔面――その目に向かって突撃をかました。
高速で突き刺さった先はダリス・ドラグーンの右目。飛竜が叫び声を上げて暴れる。
俺はキャノピーを開ける。冷たい風が吹きすさぶ中、左手をダリス・ドラグーンに向けて――
「うるさい、黙れ!」
エクスプロージョン! 大火球が飛び、暴れるダリスに吸い込まれると凄まじい爆発で凶竜を飲み込んだ。
肩から上を失ったドラグーンはそのまま墜落した。
「ううっ、寒っ」
キャノピーを閉じて、周囲を見渡す。
「ディーシー?」
『敵飛竜の反応なしだ』
周りにはシュトルヒ2とベルさんドラゴン、そしてソードバードが二体。
『こっちの始末はついてるぜ、ジン』
ベルさんが念話を響かせた。俺は思わず口元が緩んだ。
「オーケー。任務完了だ。全機、ウェントゥス基地に帰投する!」
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