第87話、対決、ダリス・ドラグーン!


 濃紺の外皮。翼を広げた幅は30メートルにもなる巨大なるワイバーン。それがダリス・ドラグーン。


 本来なら自分より小型ならワイバーンすら食する獰猛な種族だ。


 やっぱデケぇ。目の当たりにすると、シュトルヒ戦闘機で対抗できるのか首を傾げざるを得ない。


 両翼の電撃砲――サンダーカノン、スタンバイ。正面から相対するとワイバーンとの距離があっという間に縮まる。


 第二次大戦の頃までの航空戦において、正面からの一騎討ちは避けるという鉄則がある。何故なら、お互いに正面の敵に機関銃をぶっ放せばほぼ相打ちになるからだ。


 だが、ワイバーンに機関銃はついていない!


「くらえっ!」


 操縦桿の射撃ボタンを押し込む。両翼のサンダーカノンが電撃弾を発射した。ダリス・ドラグーンは翼を羽ばたかせいるせいか、真っ直ぐ飛ばない。微妙な射線ずらしになって嫌らしい。


「っと! やっぱ正面からはあぶねぇ!」


 衝突回避の機動。やっぱ正面から双方突っ込むなってのは衝突もあるからじゃないか!


 天地がひっくり返る。ギリでダリス・ドラグーンを回避するシュトルヒ戦闘機。俺が顔を上げれば、視界いっぱいに奴の背中が見えた。


 すれ違うのは、一瞬だった。


『ダメだな、主。サンダーカノンが通用しない』


 淡々とディーシーが実況した。えいくそ、そんな気はしていたよ!


「だが、こっちはどうだ?」


 後続の小型飛竜、ペクトル・ワイバーンが視界をよぎる。こちらを躱すつもりで方向転換したんだろうが、射線に飛び込んでくれて、ありがとうなっ!


 サンダーカノンが咆える。雷を圧縮したような針のような電撃弾が、ペクトル・ワイバーンの左翼の中程を砕いた。


 翼の骨が折れ、ペクトル・ワイバーンは悲鳴をあげて、錐揉みしながら落下していく。立て直そうとしているのか右翼を振ろうとしているが無駄だった。


 近くの山肌に接近していたから見届けることはできず回避。


『主よ、一頭撃墜だ。おめでとう』

「レシプロ戦闘機による初ワイバーン撃墜ってか!」


 まあ、ワイバーンなんて腐るほと倒してきたし、古代文明戦闘機で撃墜もやっているけどさ。


「歴史の教科書に乗るかもな!」


 などと浮かれたことを言いつつも、俺は視線を巡らし敵の攻撃を警戒する。古のエースパイロットたちの言葉がある。


 敵機を撃墜した瞬間が一番危ない。気が抜けるということもあるが、別の敵機がこちらを狙っている瞬間だったりするのだ。


『シュトルヒ2、敵一頭撃墜!』


 僚機が、もう一頭のペクトルを撃墜し報告してきた。


「グッジョブ!」


 いや、グッド・キルだな。


 ソードバードも敵ワイバーンの視界を飛んで注意を引いている。敵もエサを前にした魚のように、ソードバードが気になっているようだ。


 うまく敵のヘイトが分散している。……おっと、ベルさんドラゴンがペクトル・ワイバーンを一頭、噛みつきで倒した。


「厄介なのは、やはりダリスか」


 シュトルヒの武装では上位大型種には歯がたたない。


「だったら、魔法で対抗だ」


 俺の本職は魔術師だぜ、っと。操縦桿を操り、機体をダリス・ドラグーンの背後へと回り込ませる。


「ディーシー、爆裂槍を出せ」

『どこにだ?』


「機体前方だ。俺がすれ違いざまに捉まえる!」


 シュトルヒのかなり前の空中に、対装甲魔獣用爆裂槍が現れる。俺は魔法でそれをつかみ――いやかっさらい、シュトルヒと併走させる。


 傍目には戦闘機のそばを騎兵槍が飛んでいる。


「即席のミサイルだ! 当たれっ!」


 浮遊する爆裂槍が、俺の魔力誘導を受けてダリス・ドラグーンの背中へと突き刺さった。同時に操縦しているから大変だ。


 起爆。ダリス・ドラグーンの背骨近くに突き刺さった爆裂槍が爆発し、その肉をえぐった。


「効いてる……ように見えるが、致命傷じゃないな!」


 ダリス・ドラグーンが苦痛の叫びをあげたが、まだ飛んでいる。若干ふらついているが、墜落する様子はない。


 俺はシュトルヒの速度を落とす。


「ディーシー、爆裂槍を追加。まとめて5、6本よこせ!」

『承知した』

「シュトルヒ1より、2、3。他のワイバーンを牽制。俺の攻撃の邪魔をさせるな」

『了解、シュトルヒ1』


 ダリス退治に集中する。操縦がかなりおろそかになるから、その隙を突かれるわけにはいかない。


 ディーシーが出した爆裂槍を、今度はゆっくり戦闘機を飛ばすことで落ち着いて制御。魔力で繋げたら、スロットルを開いてシュトルヒを加速させる。六本の装甲爆裂槍が随伴する。


 ダリス・ドラグーンが旋回した。接近する俺の機体に相対するつもりか。……誰がお前にダメージをやったかお見通しってわけだな!


「行けっ!」


 放たれた爆裂槍。それは向き直ったダリス・ドラグーンの頭、首、そして胴に次々に命中した。


 直後、起爆しさらにダリスにダメージを与えた。六つの紅蓮の花が開き――


「どうよ!?」


 ダリス・ドラグーンがひっくり返り、腹を上にした格好で落ちていった。ダリス・ドラグーン、撃墜!


「やったぜ!」


 ずうんと地響きが起こるかのような衝突が起きる。山の傾斜に任せて滑り落ちていく巨大ワイバーン。あれはもう死んでいるだろう。


『ジン、よくやった』


 ベルさんの念話が届いた。


『他のワイバーンも全滅だ。後は連中の巣ともう一頭のダリスだな!』


 そうだ、まだもう一頭残っているんだった。巣の防衛でもしているのか、こっちには現れなかったな。


「了解だ。目的を果たそう。……シュトルヒ2、3。無事か?」


 魔力燃料の残量は……問題ないな。俺が確認している間に、僚機からも無事との応答があった。


 編隊を組んで、進撃ルートに乗る。……ソードバードが一体減っていた。ワイバーンとの空中戦の際にやられたか、突撃を敢行したのかもしれない。


 ……さあ、やり遂げよう。

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