第86話、タリホー!


 ウェントゥス秘密基地の飛空船発着場に駐機されているTT-1シュトルヒ戦闘機、その一番機に俺は乗り込んだ。


 エンジンスタート。ダイテイF1発動機が唸りを上げる。大帝国製飛空船エンジンを無理矢理、小型化しこちらで勝手に命名したエンジンは、ディーシーの改造もあって調子がよさそうだった。


 アーリィーにも渡したシグナルリング、その通信機能を応用したインカム型魔力通信機を身につける。


「シュトルヒ1より各機、報告せよ」

『シュトルヒ2、準備よし』

『シュトルヒ3、準備よし』


 僚機となる二番機、三番機に乗るシェイプシフターパイロットたちがそれぞれインカムで応答した。


 このパイロットたちは、俺のいない間にも浮遊石搭載型航空機のテストを繰り返しており、ここでの飛行時間なら俺より上だ。……まあ、俺は英雄魔術師時代に、古代文明戦闘機を乗り回した経験があるから、それを含めたらどっこいだろうけど。


 そして今回、俺の一番機にはディーシーが同行する。


 とは言っても、シュトルヒは単座――つまりひとり乗りだから、ディーシーはダンジョンコアロッドの姿だがね。


 そしてベルさんだが……4枚の翼を持つ漆黒の小型ドラゴンの姿となっていた。黒猫だったり暗黒騎士だったりのベルさんだが、魔王様の本当の姿はおそらく誰も知らない。


 さらに気休めの護衛役として、シェイプシフターが化けたソードバードと呼ばれる剣の胴体に鳥の翼を持つ化け物が随伴する。正直、ワイバーン相手には牽制程度にしかならないと思うが。


 機体の可動部のチェックを外にいるシェイプシフター整備兵と共同で済ませて、出撃準備完了。


 俺は首を捻り、少し離れた場所にいるアーリィーを見た。


「じゃあ、行ってくるっ!」

「幸運を!」


 エンジンの音に負けないよう、アーリィーが大声で返した。よしよし、お兄さん、頑張っちゃうからねぇ!


 浮遊石を作動。ゆっくりとプロペラ戦闘機にあり得ない浮き方をした後、ダイテイF1発動機が生み出す推進力によってシュトルヒが前へと動き出した。


 地上への秘密ゲート、オープン。まさに秘密基地からの発進! 男の子のロマンだ。


 俺のシュトルヒ戦闘機に続き、僚機が随伴ずいはん。さらにベルさんドラゴンと、ソードバード5体が飛翔した。


 本日の天候は曇天。ディーシーがコメントを発した。


『嫌な空だな』

「雨が降らなきゃいいさ」


 一応、飛行試験には雨天時の飛行も含まれていたが、成績は芳しくない。なにぶん視界が悪いのもあるし。


 もし目標地点の天候が悪いようなら作戦中止の可能性もある。



  ・  ・  ・



 厚い雲の間から晴れ間が差す。ワイバーン・ネストへ向かう攻撃隊は順調に飛行中していた。俺はシュトルヒ戦闘機のコクピットから周囲を警戒する。


「キチンとしたレーダーが欲しいな」

『我が魔力サーチをしている』


 シート後ろに固定されているDCロッドことディーシーが言った。耳に近い位置だ。すぐ後ろに彼女がいる雰囲気。


「そうなんだけどさ。俺たちはともかく、シェイプシフターたちは目視で見張っているだろ」


 シュトルヒの装備は最低限だ。まだ形になってさほど日にちも経っていない機体だ。何もかも初だらけ。


 そもそも、ワイバーンと空中戦をこの機体でやろうっていうのも初なのだ。


『ベルさんだって自前で魔力サーチをしている』


 ディーシーが抗議するように言った。


『魔法が使えないシェイプシフターが悪い』


 そうなんだよな。悪いとかは別して、シェイプシフターたちって魔法はからっきしなんだ。……何でだろう?


「まあ、人間だって魔力による索敵ができる奴のほうが少ないんだ。やっぱり魔力式でもレーダーが欲しいよ」


 電波を飛ばし、その反射により存在を探るのがレーダー。もちろん、それを真面目に一から作るのは、こちらの技術では無理なんだけど、魔力サーチを応用する魔力式のレーダーなら開発の目処が立っている。


 後は戦闘機に搭載できるサイズだったり、重量だったり、出力だったりの調整が必要なんだけどね。


 戦闘機もそうだけど、俺たち以外の人間やシェイプシフターが使えることを前提に開発しているのだ。俺たちも動かすけど、メインはその他大勢の皆さんが使えるものにするというスタンスである。


『しかし、魔力サーチだっていいことばかりではないぞ』


 ディーシーは言った。


『敏感な生物は魔力サーチに気づいて反応する。逃げたり、あるいは向こうから襲ってくるとかな』

「シンバルを鳴らして歩いているようなものってか」


 さぞ騒音がうるさいだろうな、と自分で例を出して思った。


「でも、魔力サーチ云々以前に、こいつのエンジン音で魔獣は反応するだろうよ。魔力サーチに関係なくな」


 要するに、今回の攻撃隊は目的地につくより先にワイバーンから襲ってくると踏んでいる。


 そのためには早期発見。早期迎撃が肝心だ。


 だからワイバーンにとって耳障りであってもガンガンにサーチをかけ、索敵を優先しているってわけ。


『主、魔力サーチに引っかかった』

「山のエコーじゃないよな?」


 すでに俺たち攻撃隊は山岳地帯に突入している。魔力の反射は山の地形も含まれる。


『我を侮るなよ、主。大型1、小型3、ないし4。左前方下方より高速移動中だ』

「正面下は見づらいんだよな……。見えた!」


 タリホー! 左前方だったから完全な死角ではなかった。まず目についたのは大型のダリス・ドラグーン!


「シュトルヒ1より、各機! 左前方下方よりワイバーン!」


 バンディット! 敵性飛行体、急接近! ワイバーンたち真っ直ぐこっちへ向かってくる。


「まずは、敵を撃墜する! 各機、突撃!」


 目下、最強のダリス・ドラグーンが二頭中、一頭。ここで落としておきたい。さあ、こっちの装備はワイバーンに通用するかな?

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