第70話、移動の足を考える


 フメリアの町。外壁を警戒する見張りの兵を除けば寝静まった深夜。


 俺たちは、ポータルの周囲に冒険者ギルドの建物を『生成』する。


「よく働くねぇ」


 黒猫姿のベルさんが、そんなことを言った。俺は苦笑する。


「なに、秘密基地を作るよりは楽だろう」


 王都冒険者ギルドのヴォード氏らと協議して簡単な図があるから、それをベースにダンジョンクリエイト。


「ディーシー、大丈夫か?」

「ああ、魔力はたっぷりある。心配するな」


 今日はいろいろ魔力生成したからな。ボスケ大森林地帯深部の秘密基地での魔力収集設備から吸収した魔力を用いているから、結構自由に設定できる。


 内装については、実際に使うギルドのスタッフに任せるとして、外側だけはちゃっちゃと終わらせてしまおう。


 手早く終わらせて、今日の作業は終了。さすがに徹夜をする意味を見いだせないから、ポータルで秘密基地に帰って寝よう。



  ・  ・  ・



 翌日、俺たちはボスケ大森林ダンジョンの秘密基地を出た。飛行機のテストと試作ヘリの製作をコピーコアとシェイプシフター兵たちに任せて、ハッシュ砦に向かう。


 砦はシェイプシフター兵の守備隊が相変わらず、睨みを利かせている。さて、そこからフメリアの町へ向かうわけだが……。


「徒歩だと、割と時間がかかるよな」


 ストレージから魔力自動車を出す。俺は運転席に乗り込み、ベルさんは助手席、ディーシーは後ろといつものポジション。


「ポータルで王都とフメリアの町はすぐだけど、いざ大森林までは徒歩移動」

「歩きだと大体1時間くらいだったか」


 ベルさんが鼻をならす。


「大した距離じゃねえが、まあ面倒ではあるな」


 現代人の感覚だと、1時間歩く距離ってかなりのものなんだけどね。車や公共交通機関、現代人は長駆歩かないんだよな。


「乗り物でも用意するのか?」


 ディーシーが本を読みながら言った。大帝国から没収した飛空船のエンジンマニュアルだった。


「乗り物ねぇ」


 この世界での定番といえば、馬や二足鳥というエミューのような飛べない鳥、あるいは騎乗竜と呼ばれる大トカゲの親戚。それか馬車のような動物に牽引されるもの。


「反乱騒動で馬はほぼいなくなったって話だったよな」


 馬車は論外。どこか余所で調達する手もあるが、飼育とか手間や金がかなりかかるんだよな。


 ベルさんが振り返った。


「いっそ、ディーシーにモンスターを出してもらったらどうだ?」

「そういえば、蛮族亜人が攻めてきた時は、俺たちグリフォンに乗ったな」


 それもひとつの手ではあるか。大人しい騎乗モンスター――


「子供に受けそうだ」

「大人にもな」


 ベルさんが皮肉げに言った。


「オレが言っておいてなんだが、やっぱなしだ。大人しいモンスターの数を揃えたら、絶対騒ぎになるぜ」

「どうやってモンスターを調教したんだ? 売ってくれ! などなど」


 予想される事態を俺は口にした。


「モンスター用の飼育施設も作らないといけなくなるな。ダンジョンモンスターだから必要ないんだけど、いざ乗り物として利用するなら、ないと不審がられる」


 結局、騎乗モンスター案は没だな。


「モンスターじゃなくて、馬を生成すればいい。それなら誤魔化しがきくだろう」

「それな」


 ベルさんが同意した。


「ハッシュ砦とフメリアの間を行き来するってんなら、当然、馬車でまとめて乗せられるようにするんだろ」

「王都から来るだろう冒険者も、パーティー組んでるやつが多いだろうしな」


 個別に馬を貸していたら何頭用意しておくかべきか見当もつかない。たぶんカモフラージュ用の馬飼育用施設の規模も大きくなる。全員が全員、馬に乗れるわけじゃないから利用率もいまいち予想できない。


「馬車で一度に複数人運べるのがいいんだろうけど、そうなると」

「馬車――つまりは車が必要だな」


 ベルさんが鼻をならした。


「これまた調達すると結構な金がかかるんじゃね?」

「だよなぁ……」


 真面目な客車だと定員が決まってしまうので、荷馬車タイプが安上がりだろう。


 ガタンと、魔力自動車が揺れた。きちんとした道がないので、普通に走行しているとそこそこ揺れる。


「道を作るべきだな。でないと馬車の傷みが早そう」

「この車には衝撃吸収があるからマシだけど」


 ベルさんは眉をひそめた。


「そこらの馬車じゃ、乗り心地最悪だろうぜ」


 一時間も乗せられたら、ケツが痛くてたまらないだろうな。クッションが必要か?


「いっそ、浮かせたらどうだ?」


 本を読みながらディーシーが発言した。


「浮かせるって?」

「ダンジョンに浮遊する足場があるだろう? あれを馬にでも引かせればいいんじゃないか」


 と、ダンジョンコアが申しております。そういえばダンジョンの仕掛けに、谷や壁を超えるために浮遊する足場があったな。まあ、ダンジョンにある浮遊する足場は、大抵罠と連携しているので、厄介な代物だったりするが。


 浮遊する車か……。


「いいね、リフトカー」


 俺はその案に乗ることにした。ベルさんが首をひねる。


「いいのか?」

「一から車を作るより安上がりだ」


 ダンジョンテンプレートを利用すれば、ディーシーがすぐに作ってくれるのもポイントが高い。かかる魔力も大したこともなく、数も揃えられる。


「よし、採用だ。これでハッシュ砦とフメリアの町の双方を往復させて、冒険者たちの足としよう」


 シャトルバスみたいなものだな。荷物を運べる大型のものとかもいいかもしれないな。安くても利用料をとれば、小遣い稼ぎになるだろう。


 まあ、とりあえずやってみて、よさそうなら継続。駄目ならやめればいいさ。


 そうこうしているうちに、俺の運転する魔力自動車はフメリアの町に到着した。

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